ち‐ぎょう ‥ギャウ【知行】
〘名〙
※貞信公記‐抄・天暦二年(948)正月一日「被レ奏二彼院事長者知行之由一」
② 平安時代、
知行国制によって特定の国を与えられ、
国務をとり行なうこと。→
知行国。
※山槐記‐治承三年(1179)正月六日「同女房衝重廿前〈丹後守経正朝臣、件国内大臣知行〉」
③
古代末・
中世、田畑山野などの所領を領有して耕作し収穫をあげるなど、事実的支配を行なうこと。また、その支配している
土地。→
知行制。
※平家(13C前)三「太政入道、源大夫判官季貞をもて、知行し給べき庄園状共あまた遣はす」
※寸鉄録(1606)「大臣は、知行などは過分にとりながら、主人をよそにしてかまはずして」
※夜明け前(1932‐35)〈島崎藤村〉第一部「水野筑後は二千石の知行(チギャウ)といふことであるが」
⑤ 俸祿や扶持。
※浮世草子・傾城色三味線(1701)大坂「野郎にかぎらず、知行(チギャウ)とらぬほどのものは皆あはぬはづ也」
ち‐こう ‥カウ【知行】
〘名〙
※余興(1915)〈森鴎外〉「知行(チカウ)一致の境界に住してゐる人」 〔聖学格物通‐正心上〕
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知行
ちぎょう
平安時代から室町末・戦国時代にかけて行われた土地・財産の直接支配をいう。知行とは本来知り行うの意、職務を執行することを意味したが、平安時代の中期から末期にかけて官職の収益権化が進み、職務に付随する一般的な土地用益権を意味する職(しき)の観念が成立するに及んで、この職(しき)の行使、すなわち土地・財産の直接支配をさして知行というようになった。しかし、職(しき)の分化に伴って、土地支配から遊離した得分(とくぶん)のみの支配(所当(しょとう)の知行)や、土地に対する支配権の行使を事実上否定されたもの(不(ふ)知行)が生じた。一方、本来的な権利の有無にかかわらず実質的な土地支配権の行使事実(当(とう)知行)が重視されるようになり、室町末・戦国時代に荘園(しょうえん)制が崩壊し、職(しき)が解体するとともに、土地の権利関係は、百姓の用益権・耕作権を軸とする占有権と、大名の領主的支配権の二つに還元され、江戸時代には単なる領主の領地に対する支配権を意味するものとなった。
[井上寛司]
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知行【ちぎょう】
古代末期から用いられ,本来の意味は事務・職務を執行すること。中世には職(しき)の職務と権益を自分のものにするという,事実上の行為ないし状態をいい,各種の得分権・収益権が設定された荘園などの所領支配に関していわれることが多かった。近世にはいると知行は主君が家臣に与える封地を指すようになる。大名の領国支配については,中世に知行とほぼ同意味に使用された〈領掌(りょうしょう)〉と結び付いた〈領知(りょうち)〉が用いられ,将軍は領知朱印状(りょうちしゅいんじょう)によって大名に領知を宛行(あておこな)い,領知目録を交付して領知高と領地の所在地(国・郡・村)を指定。一方知行は旗本や大名上級家臣の場合に用いられ,将軍・大名は知行宛行状を発給,旗本宛は朱印状,大名家臣宛は判物(はんもつ)ないし黒印状でなされたが,給地はほどなく俸禄化した。
→関連項目改易|亀山|家禄|菊万荘|倉月荘|地方知行|地方直し|鹿田荘|倭文荘|菅原荘|知行目録|飛地|分知|役料|留守氏
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知行
ちぎょう
平安~室町時代における所領の直接支配および江戸時代における所領の間接支配を表わす法律用語。平安時代以後,荘園制の発達とともに,土地用益の事実を,領掌,領知,知行などと呼ぶようになった。『御成敗式目』によって,土地の直接支配が行われない状態を不知行,直接支配の事実を当知行とし,不知行 20年の時効によって当知行者は本来の権利の有無にかかわらず知行権を認められ,不知行者は知行権を失うものと定められた。しかし荘園制の崩壊,封建領主制の成立とともにこの知行は,郷村に住む農民の土地用益,耕作の権利と,封建領主の行政,収益の権利とに分化した。江戸時代の大名の領知権,旗本や大名,家臣の知行権がそれである。 (→地方知行〈じかたちぎょう〉)
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知行
ちぎょう
平安中期〜江戸時代にかけて行われた土地(人民)の支配
古くは領知・領掌するといい土地の用益権を示した。平安末期,用益権を意味する職 (しき) が単なる収益の対象として物権化すると,この職の行使を知行というようになった。近世では領主が領地を支配することを意味する。
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デジタル大辞泉
「知行」の意味・読み・例文・類語
ち‐ぎょう〔‐ギヤウ〕【知行】
[名](スル)
1 職務を執行すること。
2 平安・鎌倉時代、与えられた知行国の国務を執り行うこと。
3 中世・近世、領地や財産を直接支配すること。
4 近世、幕府や藩が家臣に俸禄として土地を支給したこと。また、その土地。
5 俸禄。扶持。
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ちぎょう【知行】
中世~近世の歴史用語。本来は仕事・事務・職務を執り行うことを意味した。古語の〈しる〉(自分のものにする,自分のものとして取り扱う,という意味で,英語のmasterにほぼ相当する言葉)に漢字の〈知〉があてられたところから,〈知り行う〉→〈知行〉と展開したものと思われる。同じ〈しる〉に〈領〉の字もあてられており,そこから発生した〈領掌(りようしよう)〉も知行とほぼ同じ意味に用いられた。近代官僚制的職務とちがって,古代の職務は一般にそれに伴う特権や権益と一体視されていたから,職務を知行することは,それとともになんらかの利益を自分のものにする(〈しる〉)ことでもあったのである。
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普及版 字通
「知行」の読み・字形・画数・意味
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世界大百科事典内の知行の言及
【家禄】より
…封建時代に主君からその家臣または,これに準ずる階級の者に給与された知行,俸禄をいう。家禄は中世にもみられるが,幕藩制時代の近世に典型的にみられる。…
【知行国】より
…古代・中世,律令制の国のうち,国司以外の公卿・廷臣や社寺等が吏務(りむ)(支配・統治の実務)の実権をもつ国。沙汰国,給国ともいい,吏務の実権をとる者を知行主とか国主という。 律令制の地方統治制度である国司制度がしだいにくずれ,国守(=受領)の地位が利権化する一方,公卿・廷臣らの俸禄制度が無実化するにともない,11世紀中ごろから公卿の子弟を諸国の守に任命し,その公卿に吏務の実権をとらせ(これを知行とか沙汰という),その間に収益を得させることがしだいに慣例となった。…
【中世法】より
…団体規約の多くに,犯罪に対する罰条として,成員身分の剝奪(はくだつ)(擯出(ひんしゆつ)),地域からの追放が定められているのはそのゆえであり,とくに追放刑が本所法・武家法にとり入れられて,中世の刑罰体系の中心に位置づけられたのは,中世社会に根強い団体への帰属意識のあらわれであったと思われる。
[私有財産・私権重視の理念]
次に私有財産および私権の重視については,第1に私的土地所有権の発展,具体的には職(しき)と知行(ちぎよう)の概念の展開がある。もともと土地所有権概念としての職は,王朝国家の官司請負制の発展の中で形成された職務の執行と職務利益の収取との一体化という現実から生まれたものである。…
【年紀法】より
…正確には〈二十箇年年紀法〉という。《御成敗式目》第8条に〈一,御下文(くだしぶみ)を帯ぶるといえども知行(ちぎよう)せしめず,年序を経る所領の事 右,当知行の後,廿ヵ年を過ぎば,大将家の例に任せて,理非を論ぜず改替にあたわず。しかるに知行の由を申して御下文を掠め給るの輩,かの状を帯ぶるといえども叙用に及ばず〉(原漢文)とあるのが,明文的規定の嚆矢(こうし)である。…
※「知行」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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