矢田津世子(読み)やだつせこ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「矢田津世子」の意味・わかりやすい解説

矢田津世子
やだつせこ
(1907―1944)

小説家。秋田県出身。本名ツセ。東京の私立麹町(こうじまち)高等女学校卒業。左翼思想への目覚めを基底に置いた作品を1929年(昭和4)ごろから発表するが、33年、芸術派に転身坂口安吾(あんご)、田村泰次郎(たいじろう)らの同人誌『桜』、さらに『日暦(にちれき)』『人民文庫』に参加するなかで本領を発揮していく。庶民の風俗と心理を客観的にまた、情緒豊かにとらえる作風で、36年『神楽坂(かぐらざか)』により芥川(あくたがわ)賞候補となり文壇での地位を確立。以後茶粥(ちゃがゆ)の記』(1941)などの佳作を残したが、肺患のため37歳で死去

[高橋真理]

『『神楽坂』(『現代日本文学全集87』所収・1958・筑摩書房)』


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百科事典マイペディア 「矢田津世子」の意味・わかりやすい解説

矢田津世子【やたつせこ】

小説家。本名ツセ。秋田県生れ。私立麹町高女卒。初め左翼作家としての姿勢を固め,《文学時代》の懸賞小説に応募した《罠を跳び越える少女》で文壇デビュー。その後,左翼作家から芸術派に転身,田村泰次郎らの同人誌《桜》に参加。さらに左翼シンパとして検挙され,自己の文学を内省的に探求する眼を開き,《人民文庫》に参加。象徴的作風の《神楽坂》(1936年)が芥川賞候補に選ばれる。他に《巣燕(そうえん)》《茶粥(ちゃがゆ)の記》などがある。戦時下に胸を病んで没した。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「矢田津世子」の解説

矢田津世子 やだ-つせこ

1907-1944 昭和時代前期の小説家。
明治40年6月19日生まれ。昭和5年「罠(わな)を跳び越える女」が「文学時代」の懸賞小説に当選し,文壇にデビューする。「桜」「日暦」同人をへて,武田麟太郎らの「人民文庫」に作品を発表,「神楽坂」は芥川賞候補となった。昭和19年3月14日死去。38歳。秋田県出身。麹町高女卒。本名はツセ。著作に「茶粥(ちゃがゆ)の記」など。

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