真珠腫性中耳炎(読み)シンジュシュセイチュウジエン(英語表記)Cholesteatomatous otitis media

デジタル大辞泉 「真珠腫性中耳炎」の意味・読み・例文・類語

しんじゅしゅせい‐ちゅうじえん【真珠腫性中耳炎】

外耳道鼓膜上皮組織中耳腔に入り、増殖して真珠のような塊を作る炎症性の疾患周囲の骨を破壊し、難聴や顔面神経麻痺などの合併症を引き起こす。手術による切除が必要。

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六訂版 家庭医学大全科 「真珠腫性中耳炎」の解説

真珠腫性中耳炎
しんじゅしゅせいちゅうじえん
Cholesteatomatous otitis media
(耳の病気)

どんな病気か

 正常な鼓膜(こまく)太鼓のようにぴんと張った膜ですが、鼓膜の一部が奥に入り込んでいくのが真珠腫中耳炎です(図21)。

 中耳の炎症が長引くと、乳突洞(にゅうとつどう)(中耳の奥にあるハチの巣状の骨)や上鼓室(じょうこしつ)へ炎症が及びます。さらに中耳の換気状態が悪くなると、真珠腫性中耳炎が発症します。滲出性中耳炎(しんしゅつせいちゅうじえん)癒着性(ゆちゃくせい)中耳炎に続いて起こることもあります。鼻すすり癖がある人に発症しやすいといわれています。

症状の現れ方

 奥に入り込んだ鼓膜が、さらに深部へ進むとさまざまな症状が現れます。強い炎症や骨破壊を生じて、耳だれ、難聴めまい耳鳴り顔面神経麻痺(がんめんしんけいまひ)などを合併し、一般的な慢性中耳炎よりも重い病気です。そのまま放置すると髄膜炎(ずいまくえん)脳膿瘍(のうのうよう)を起こし、生命に関わる場合もあります。

 この病気は、耳漏、炎症を繰り返していること、後天的な病気であることが先天性真珠腫(せんてんせいしんじゅしゅ)との大きな違いです。

検査と診断

 診断は、鼓膜をよく見ることが第一です。できれば手術用顕微鏡や拡大耳鏡、内視鏡を用いてよく観察し、真珠腫の侵入部位、鼓膜の癒着耳小骨(じしょうこつ)の状態を調べます。同時に局所治療により炎症を抑えます。

 この病気では、側頭骨ターゲットCTが必須の検査です。CTにより真珠腫の進展範囲、骨破壊(内耳瘻孔(ないじろうこう)や硬膜露出の有無)、耳小骨の破壊の有無を診断します。聴力検査は真珠腫による伝音難聴(でんおんなんちょう)混合難聴(こんごうなんちょう)の程度を把握するために実施します。

治療の方法

①保存的治療

 入り込んだ鼓膜のなかには耳あかのようなものがたまり、細菌が感染すると病気がさらに進行します。真珠腫がある部分をていねいに清掃し、抗生剤の点耳や内服で一時的には症状が改善します。

 しかし、ここで安心してはいけません。放置すると必ず再発し、増悪していくのが真珠腫性中耳炎の特徴です。

②外科的治療

 根本治療は手術で、慢性(化膿性)中耳炎で説明した鼓室(こしつ)形成術を行う必要があります。しかし慢性中耳炎とは異なり、真珠腫は術後の再発が問題となり、より熟練した慎重な手術が求められます。真珠腫の完全除去、伝音連鎖の再建と鼓膜の形成を行います。重症の真珠腫では、2回に分けて手術を行う段階的手術も行われています。

 最近では手術方法が非常に改良されており、難聴もかなりの率で改善します。

受診のポイント

 放置すると重大な合併症をまねくことがあるので、適切な治療が必要です。完全に治すには手術が必要です。術後も再発の可能性があるので、必ず外来通院してください。

池園 哲郎


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家庭医学館 「真珠腫性中耳炎」の解説

しんじゅしゅせいちゅうじえん【真珠腫性中耳炎 Chronic Otitis Media with Cholesteatoma】

[どんな病気か]
 鼓膜(こまく)や外耳道(がいじどう)の皮膚が中耳腔(ちゅうじくう)へ侵入し、袋状にふくらむ病気です。この皮膚の袋が真珠腫(しんじゅしゅ)で、それが、中耳とその周辺の骨を徐々に破壊していきます。
 先天性と後天性とがあります。後天性の場合は、滲出性中耳炎(しんしゅつせいちゅうじえん)が長引いて鼓膜が陥凹かんおう)し(へこみ)、鼓膜の皮膚が徐々に中耳腔へ侵入しておこります。
[症状]
 骨の破壊がおこらなければ、ほとんど症状がありません。
 しかし、外耳道から水が入って感染がおこると、耳だれが出ます(耳漏(じろう))。また、真珠腫がたまりすぎると耳痛(じつう)がおこることがあります。
 骨が破壊されると、つぎのような症状がおこってきます。
伝音難聴(でんおんなんちょう)
 3つの耳小骨(じしょうこつ)が破壊され、耳小骨連鎖(れんさ)に障害がおこると伝音難聴になります。しかし、真珠腫の進展度と聴力(ちょうりょく)障害とは比例しないことが多く、聴力は正常でも、以下のような合併症がおこることがあります。
●めまい
 真珠腫が、外側半規管(がいそくはんきかん)や前庭(ぜんてい)を破壊するとめまいがおこるようになります。耳の中を触ったり、吸引したりするとおこるめまいを瘻孔症状(ろうこうしょうじょう)といい、真珠腫性中耳炎によるめまいを診断する決め手となります。
●感音難聴(かんおんなんちょう)
 内耳窓(ないじそう)から中耳の炎症が波及したり、真珠腫が侵入したりして蝸牛(かぎゅう)が障害されると感音難聴になります。この難聴は、治ることがほとんどないのですが、発症から2週間以内の手術で聴力が改善することもあります。
●顔面神経まひ
 中耳のきぬた骨(こつ)、あぶみ骨の裏側には、顔面神経が走行していて、ここを真珠腫が圧迫したり、炎症がおこったりすると、顔面神経まひがおこります。
●頭蓋内合併症(ずがいないがっぺいしょう)
 真珠腫が、頭との境の骨を破壊すると、炎症が波及し髄膜炎(ずいまくえん)がおこります。これが、脳膿瘍(のうのうよう)などに進展すると生命が危険になります。耳の中を観察すれば比較的簡単に診断がつきます。
 真珠腫の進展具合、合併症の有無を調べるためにCT検査が必要です。
[治療]
 外来で治療できることはまれで、頭蓋内合併症の予防と難聴の治療のために入院しての手術(鼓室形成術(こしつけいせいじゅつ)、中耳根本術(ちゅうじこんぽんじゅつ))が必要です。
[予防]
 幼少児期の滲出性中耳炎をしっかりと治療しておくことが必要です。とくに鼓膜の上方(弛緩部(しかんぶ))が陥凹している場合は、耳鼻咽喉科医(じびいんこうかい)による長期間の観察が必要です。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「真珠腫性中耳炎」の意味・わかりやすい解説

真珠腫性中耳炎
しんじゅしゅせいちゅうじえん

中耳炎

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