相応(読み)そうおう

精選版 日本国語大辞典 「相応」の意味・読み・例文・類語

そう‐おう サウ‥【相応】

[1] 〘名〙
① (形動ナリ・タリ) あいかなうこと。つりあうこと。ふさわしいこと。また、そのさま。相当。
※玉葉‐承安三年(1173)七月一七日「事躰頗不相応、果可煩歟云々」
※申楽談儀(1430)世子「ただ浮船・松風村雨などやうの能にさうをうたらんを、無上の物と知るべし」
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)前「支躰(づうてへ)相応(サウオウ)孑孑(ぼうふら)をおっかけてりゃアまだしもだに」 〔国語‐斉語〕
② 仏語。色心諸法が一定の条件で和合して離れない関係にあること。心と心の作用との和合、身業と口業との和合など。また、心を集中統一させて理と和合すること。密教でいう身・口・意の三密が相互に結び合うことや、境と智が結び合うことなど。
※今昔(1120頃か)一一「我が伝へ学べる所の秘密の教、流布相応して、彌勒の出世まで可持き地有らむ」 〔勝鬘経‐一乗章〕
③ 必要。所用
大乗院寺社雑事記‐文正二年(1467)正月二二日「自然相応儀は立所用了」
[2] 平安前期の天台宗の僧。俗姓櫟井(いちい)氏。近江(滋賀県)の人。円仁に学び、叡南で修行して、貞観七年(八六五無動寺明王院)を開山。寛平二年(八九〇内供奉に任ぜられる。天長八~延喜一八年(八三一‐九一八

ふさわし・い ふさはしい【相応】

〘形口〙 ふさはし 〘形シク〙 (動詞「ふさう(相応)」の形容詞化) 似つかわしい。似合っている。つりあっている。心に適っている。
※落窪(10C後)一「いと心ふかき御心もきき染みにければ、さる心ざまやふさはしかりけん」
セルロイドの塔(1959)〈三浦朱門〉二「場所柄にふさわしからぬ笑声も時々起った」
ふさわし‐げ
〘形動〙
ふさわし‐さ
〘名〙

あい‐おう・ずる あひ‥【相応】

〘自サ変〙 あひおう・ず 〘自サ変〙 (「あい」は接頭語)
① 答える。応答する。
四河入海(17C前)一七「そこで咲語すれば、千山も相応ずるが如くなるぞ」
② つりあいが取れる。比べられる。並べられる。
太平記(14C後)一二「此の大内を造られたる事、其の徳相応(アヒヲウ)ず可からず」
両方が適合する。
西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉一二「朋友と感情相通じ、声気相(あヒ)応じ」

ふさ・う ふさふ【相応】

〘自ワ五(ハ四)〙 よく合う。適合する。似合う。つりあう。また、心にかなう。気に入る。
古事記(712)上・歌謡「ぬば玉の 黒き御衣を まつぶさに 取り装ひ 沖つ鳥 胸見る時 羽叩ぎも これは布佐波(フサハ)ず」

ふさい ふさひ【相応】

〘名〙 (動詞「ふさう(相応)」の連用形の名詞化) 適合すること。似合うこと。
※宇津保(970‐999頃)内侍督「一つ物なると見ればこそ、ふさいにはおぼえぬ」

ふさわふさはし【相応】

〘形シク〙 ⇒ふさわしい(相応)

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デジタル大辞泉 「相応」の意味・読み・例文・類語

そう‐おう〔サウ‐〕【相応】

[名・形動](スル)
つりあいがとれていること。ふさわしいこと。また、そのさま。「収入相応な(の)暮らし」「能力に相応した働き」
仏語。心と、心の働きとが互いに結びついていること。また、心と対象世界との結合、因と果との結合、身・口・意の三業さんごうの結合などにもいう。
[類語]対応相当応分分相応適当適切適正適確至当妥当穏当好適適合合致即応正当順当ぴったりそれなりころ合い程合い手頃てごろ適う適する合う沿うそぐう当てはまる当を得る値する見合う似合う兼ね合い均衡平衡バランスマッチもってこい便宜好都合便利利便タイムリー有り難いうれしいおんの字重宝ちょうほう有用有益簡便軽便至便程よい絶好願ったり叶ったり願ってもない渡りに船格好あつらえ向き打って付け好個適える向く似つかわしいふさわしいしっくり同調するフィットするしか即する肌が合う適格適材くみし易いしかるべき究竟くっきょう合い口合目的文句無しリーズナブル好条件匹敵言い得て妙あたかもよし三拍子揃う似合わしいジャストミート思いがけない馬が合う息が合うどんぴしゃり所を得る最適つぼにはまる水を得たうおのよう結構尽くめ

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朝日日本歴史人物事典 「相応」の解説

相応

没年:延喜18.11.3(918.12.8)
生年:天長8(831)
平安前期の天台宗の僧。天台修験の開祖。姓は櫟氏。近江国(滋賀県)浅井郡に生まれる。承和12(845)年15歳で比叡山に登り,毎日修行のかたわら中堂に花を供えていたのを円仁に認められ,17歳のとき円仁を師として得度受戒し,相応の名を授けられ,12年籠山修行した。天安2(858)年,文徳天皇の女御多賀幾子(藤原良相の娘)の病を祈って霊験を称されている。翌貞観1(859)年以降,比良山安曇川の上流葛川,吉野金峰山で修行し,同5年比叡山で等身の不動明王像を造り,同7年無動寺を建立し本尊として安置した。文徳天皇皇后明子(染殿皇后,藤原良房の娘)を慕った聖人が死後,天狗となってとりついたため,加持をして霊験を称された話がある。比叡山の興隆にも力を尽くし,東塔常行堂の修復,日吉社の造営を行い,また同年には朝廷に願い出て最澄に伝教,円仁に慈覚の大師号を賜っている。寛平1(889)年,宇多天皇加持の功により度者を賜い内供奉となり,延喜11(911)年,公私の公請(朝廷から法会や講義に召されること)を断って不断念仏を修し,88歳で没した。生涯女人裁縫の衣を着ず,絹を身に着けず,牛馬に乗らなかった。葛川明王院は相応が比良山で生身の不動明王を感得し,姿を刻して本尊としたと伝え,比叡山千日回峰行は相応を祖として,現在も相応の故事によって行われている。<参考文献>『天台南山無動寺建立和尚伝』

(西口順子)

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改訂新版 世界大百科事典 「相応」の意味・わかりやすい解説

相応 (そうおう)
生没年:831-918(天長8-延喜18)

平安前期の天台宗の僧。近江国(滋賀県)浅井郡の生れ。俗姓は櫟井(いちい)氏。15歳のとき鎮操(ちんぞう)に従って比叡山に登り,17歳で沙弥(しやみ)となる。855年(斉衡2)円仁(えんにん)について得度受戒し,12年の籠山(ろうざん)修行に入った。858年(天安2)西三条女御(にようご)(藤原良相(よしみ)の娘)についた霊気をはらい,呪験力をもって有名になった。こののち,比良山,金峰山において修行し,863年(貞観5)には等身大の不動明王の像をつくり,865年これを安置する無動寺を建立した。866年奏請して最澄に伝教,円仁に慈覚の大師号を賜った。これが日本における大師号の始まりである。882年(元慶6)無動寺を天台別院とし,890年(寛平2)内供奉(ないぐぶ)に任ぜられる。晩年は不断念仏を実践した。
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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「相応」の解説

相応 そうおう

831-918 平安時代前期-中期の僧。
天長8年生まれ。天台宗。比叡(ひえい)山の円仁(えんにん)にまなぶ。12年間の籠山(ろうざん)修行をし,加持祈祷(きとう)にすぐれ皇室の信任をえた。不動明王を尊信し,貞観(じょうがん)7年比叡山に無動寺をひらく。比叡山回峰行の祖とされる。延喜(えんぎ)18年11月3日死去。88歳。近江(おうみ)(滋賀県)出身。俗姓は櫟井(いちい)。通称は建立大師。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「相応」の意味・わかりやすい解説

相応
そうおう
samprayukta

仏教用語。法と法とが互いに相かない,ともに離れないこと。特に仏教では,心と心所との関係についていう場合が多い。

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普及版 字通 「相応」の読み・字形・画数・意味

【相応】そうおう

応和。

字通「相」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の相応の言及

【飛鉢譚】より

…護法は,霊山における古層の神が新米の聖の使霊と化したのでもあり,陰陽道の識神とも重なり,飛鉢譚が仏教の枠を超えた独自な宗教世界の話であることを具体的にあらわす存在といえよう。比良山と琵琶湖をめぐる飛鉢の伝統は中世を通じて続き,伊崎寺には無動寺の相応和尚の飛鉢譚とその祭儀化である竿飛び(さおとび)を伝え,対岸の白鬚(しらひげ)神社にも飛鉢譚と〈神通飛行の鉄鉢〉を残す。ともに叡山の勧進所であった。…

【日吉大社】より

…注目すべきは,日吉造と称される本殿形式であり,東西両本宮と宇佐宮本殿に採用されている。日吉造は正面3間,側間2間の母屋(もや)の正面と両側面の3方に庇を付加した形で,母屋の2面に庇をもつ形式(厳島神社など),四面庇の形式(北野天満宮,八坂神社など)に発展する中途の段階の形を固定化したものと考えられ,その起源は天台宗の僧相応(831‐918)が887年(仁和3)に東本宮を造立し,890年(寛平2)に西本宮を同じ形に改造したときにさかのぼる。また上部に山形をつけた山王鳥居は,他の社にみられない特異なものである。…

※「相応」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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