目代(読み)もくだい

精選版 日本国語大辞典 「目代」の意味・読み・例文・類語

もく‐だい【目代】

〘名〙
① 平安中期以降、国守の代理人。任国に下向しない国守の代わりに在国して執務する私的な代官。眼代(がんだい)。めしろ。
太神宮諸雑事記(11C中か)「志摩守目代三河介伴良雄」
② 鎌倉以降、その職の正員(しょういん)の代わりに現地で執務する者。
※建久元年内宮遷宮記(1190)「九月〈略〉十六日〈略〉于時任先例祭主目代封可古殿歟之由」
③ 江戸時代、代官のこと。
※虎明本狂言・鍋八撥(室町末‐近世初)「罷出たる者は、此所の目代で御ざある」
④ 代理人。身代わり
社会百面相(1902)〈内田魯庵猟官伯爵の目代(モクダイ)とし任官して呉れ」

め‐しろ【目代】

〘名〙 (主人の耳目の代わりをする者の意)
官職の正員(しょういん)の代わりに執務する者。特に、平安末期以降、任国に下向しない国守の代わりに在国して執務する者。もくだい。〔色葉字類抄(1177‐81)〕
② 主人に代わって事を処理する人。代理人。
※春のみやまぢ(1280)四月一〇日「証人のために、女房一人・男壱人両方にとりかへてめしろたるべし」
③ めあて。てがかり。目途(めど)
歌舞伎五大力恋緘(評釈江戸文学叢書所収)(1793)大切「此うち彌助、ソロソロ逃げようとする『詮議の目代(メシロ)』ト戻し、突きやる」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「目代」の意味・読み・例文・類語

もく‐だい【目代】

《人の目に代わる意》
代理人。身代わり。
「立派な会社の―で運動するなら」〈魯庵社会百面相
平安・鎌倉時代国守の代理人。国守の代わりに任国に赴いて執務する私的な代官。眼代がんだい。めしろ。
室町時代以降、代官のこと。

め‐しろ【目代/眼代】

もくだい(目代)2」に同じ。
代理人。また、監督。後見。
「よそながら主君の―となり」〈読・稲妻表紙・一〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「目代」の意味・わかりやすい解説

目代 (もくだい)

国司制度上,現地に赴任しない国守が任国支配のために設けた私設の代官。鎌倉時代の法制解説書《沙汰未練書》にも〈目代トハ,国司代官也〉と見えている。目代は元来,国司の四等官の守(かみ),介(すけ),掾(じよう),目(さかん)のうち第四等官の目の代官の意味ともいわれる。国司の遥任制が一般化する中で,国守はその一族,子弟などを目代に任じ,任国支配を委任し,当該国の行政にあたらせた。目代の名称はすでに奈良時代にも見られるが,実質的には遥任制が顕著となる平安後期に多く散見する。ところで,国守の不在化は一方で留守所の形成を招来したが,この留守所に在勤する在庁官人を指揮・統轄しながら国守の命を施行するのが目代の役目であった。ちなみに国司の執務所を国司庁とよび,その発給文書を国司庁宣というが,国司が中央より目代を発遣するさいには,この国司庁宣によりその旨を在庁官人に通達した。《朝野群載》に〈庁宣す 在庁官人等  散位源朝臣清基  右件(くだん)の人,国務を執行せしめんがため,目代職に補し,発遣すること件の如し。在庁官人等よろしく承知し,一事已上所勘に従うべし。違失すべからず。故に宣す〉と見えるのがそれである。

 目代には一般の公文目代をはじめ,分配目代あるいは一所目代などさまざまの名称があり,また目代はその執務の関係上,必ずしも1人ではなかった。1006年(寛弘3)9月の栄山寺牒の外題に大和国目代5人が署名している例をはじめ,その事例は少なくない。さらに目代が国司の私設代理人である以上,その身分や出自にこだわることなく,その道のたんのう者が採用される場合もあった。《今昔物語集》に載せるその前身が傀儡師(くぐつし)であったという目代に関する有名な話などその好例であろう。一般に11世紀以降になると,国衙はその行政運営にあたり,検田所,収納所をはじめとする分課的な(ところ)を構成するに至ったが,こうした国衙機構内の〈所〉には税所目代・収納所目代なども確認され,複数の目代による業務分担がはかられていた。平安末期ともなると在庁官人の武士化も進み,国守の命を施行する目代と在庁層との対立が惹起され,その部内支配は円滑を欠くようになる。こうして目代の機能は低下する一方で,国衙は在庁の共同収取機構と化してしまい,国司の支配は有名無実化するに至る。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「目代」の意味・わかりやすい解説

目代
もくだい

日本の古代末・中世において、地方官たる国守の代官として任国に下向(げこう)し、在庁官人を指揮して国務を行う人。本来は国守が私的に設けた政務補助者の総称であり、11世紀前半までは人数も1人とは限らず、分配(ぶはい)目代、公文(くもん)目代などと称して国務を分掌していた。それが、11世紀後半に各国に留守所(るすどころ)ができ、その国の在地の領主である在庁官人が実質的に国務を切り回し、国守が遙任(ようにん)と称して任国に下向しなくなると、留守所の統轄者たる庁目代だけが目代といわれるようになる。目代はその事務能力によって登用されたので、『今昔(こんじゃく)物語』によると傀儡子(くぐつ)出身の目代もいた。のち国守の目代だけでなく、一般に正員のかわりに現地で執務する人を目代というようになった。

[大石直正]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「目代」の意味・わかりやすい解説

目代【もくだい】

平安・鎌倉時代の地方官の代理人。室町期以後広く代官の意。遥任(ようにん)や知行国の制が盛んになると,国司・知行国主はその子弟や家人(けにん)を目代として任国に派遣,国務を代行させた。目代は在庁官人を率い地方で実権を振るった。
→関連項目下文春木荘

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「目代」の意味・わかりやすい解説

目代
もくだい

律令制下の地方官の代官。もともと人の耳目に代る意味で,国司の秘書的役割を行う者に対する称であったが,遙任知行国の制が盛行すると,国司に代って任国におもむき,在庁官人を率いて国務を執行する者をさすようになった。国司制度の衰退とともに消滅。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

山川 日本史小辞典 改訂新版 「目代」の解説

目代
もくだい

国司の遥任(ようにん)にともない,私的な代理者として国司が任国に派遣した者。受領(ずりょう)国司の腹心として任国の行政をまかされ,国衙(こくが)の留守所(るすどころ)や在庁官人を指揮して国務を総括した。庁目代ともいい,受領の責務をはたすために公文(くもん)に通じた者が理想とされた。別に国衙機構の種々の所(ところ)にそれぞれ目代の職がおかれる場合もあり,所目代や一所目代とよばれて有力な在庁官人が任じられた。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

旺文社日本史事典 三訂版 「目代」の解説

目代
もくだい

平安・鎌倉時代の国司の代官で,私設の役人
遙任 (ようにん) ・知行国制が発達すると国司の子弟・家人が目代として任国に下り,在庁官人を率いて国務を代行するようになった。鎌倉時代以降,国司制度の衰退とともに消滅した。

出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の目代の言及

【在庁官人】より

…《今昔物語集》に〈守に此の由を申しければ忽(たちま)ちに在庁の官人を召して,蔵を開けさせて見れば……〉と見える例をはじめ,当該期の地方行政の運営者としての彼らの活動を示す史料は少なくない。 在庁官人は多く惣判官代,惣大判官代あるいは判官代などの肩書を有し,国守の私吏たる目代とともに留守所を構成する。目代は一般に私設代理人として事務にたんのうなものが重用され,国司の交替にともない遷替するのが原則であるが,在庁官人は多く土豪の任用にかかる。…

※「目代」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

青天の霹靂

《陸游「九月四日鶏未鳴起作」から。晴れ渡った空に突然起こる雷の意》急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃。[補説]「晴天の霹靂」と書くのは誤り。[類語]突発的・発作的・反射的・突然・ひょっこり・...

青天の霹靂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android