目のしくみとはたらき(読み)めのしくみとはたらき

家庭医学館 「目のしくみとはたらき」の解説

めのしくみとはたらき【目のしくみとはたらき】

◎眼球(がんきゅう)の構造
◎正面から見た目の構造
◎上方から見た目の構造

◎眼球(がんきゅう)の構造
 眼球は直径がおよそ24mmの、ほぼ球形をした形で、眼窩(がんか)という骨でできたくぼみの中におさまっています。眼球の後ろには、眼球についている視神経(ししんけい)や脂肪組織がたくさんつまっていて、眼球を動かす6個の外眼筋(がいがんきん)が眼球についています(図「目と周辺部の構造」図「上から見た目の構造」)。
 眼球の前方には上眼瞼(じょうがんけん)(上(うえ)まぶた)と下眼瞼(かがんけん)(下(した)まぶた)があり、まぶたの開閉によって涙を角膜(かくまく)表面に導き、角膜や結膜(けつまく)の乾燥を防いでいます。また、まぶたを閉じることで、眼球をけがから守る役目もはたしています。
 睫毛(しょうもう)(まつげ)や眉毛(まゆげ)は目の中にごみなどが入らぬようにするはたらきがあります。

◎正面から見た目の構造
●虹彩(こうさい)と瞳孔(どうこう)
 目を真正面から見ると、黒く見える瞳孔(どうこう)(ひとみ)と、茶色をした虹彩(こうさい)(茶目)がわかります(図「正面から見た目の構造」)。色素が多い黄色人種では虹彩は茶色に見えますが、白人では青色調です。
 虹彩には瞳孔括約筋(どうこうかつやくきん)と瞳孔散大筋(どうこうさんだいきん)の2種類の筋肉があり、この筋肉をはたらかせて瞳孔の大きさを調節しています。たとえば、光がよけいに入るとひとみは小さくなり、暗いところでは大きくなります。つまり、虹彩はカメラの絞りのような役割をはたしています。
●結膜(けつまく)
 目を正面から見ると、目の表面は透明な角膜(かくまく)という黒目(くろめ)の部分と、強膜(きょうまく)という白目(しろめ)の部分からなる1枚の膜でおおわれているのがわかります。この白目の強膜の上を結膜(けつまく)という薄い膜がおおい、結膜はまぶたの裏側で反転し、上下の眼瞼の裏側をおおっています。
 眼球をおおう部分を眼球結膜(がんきゅうけつまく)、まぶたの裏側にある部分を眼瞼結膜(がんけんけつまく)といいます。結膜は細菌や異物などの侵入を防御するはたらきをしています。
 また、結膜は粘膜(ねんまく)で、結膜にある杯細胞(さかずきさいぼう)から粘液を、副涙腺(ふくるいせん)から涙液(るいえき)を分泌(ぶんぴつ)して眼球表面を湿らせています。
 結膜の病気は結膜炎(けつまくえん)が代表的ですが、さまざまな原因でおこります。
●涙腺(るいせん)、瞼板腺(けんばんせん)、涙道(るいどう)
 涙腺は、上まぶたの裏側の上方、耳寄りのところにあり、そこから涙が分泌されます。まぶたの裏側には、瞼板腺(マイボーム腺)があり、油の成分が分泌され、それがまぶたの縁(ふち)から出てきます。涙腺から分泌された涙と、結膜の杯細胞から分泌される粘液、瞼板腺から出る油の成分が一緒になって涙を構成します。この涙には、結膜と角膜を潤(うるお)し、また結膜や角膜に付着しているごみや細菌などの病原微生物を洗い流す作用があります。
 また涙は、上下の眼瞼の鼻側の縁にある上涙点(じょうるいてん)と下涙点(かるいてん)へ流れ込み、涙小管(るいしょうかん)、涙嚢(るいのう)、鼻涙管(びるいかん)を経て、鼻へ流れてゆきます。この涙点から鼻までの涙の道を涙道と呼びますが、涙道のどこかに障害があって涙が鼻に流れなくなると、涙が出て困る流涙症(りゅうるいしょう)になります。

◎上方から見た目の構造
 図「上から見た目の構造」は眼球を上方から見た横断面図です。カメラに似た構造になっていることがわかります。
●角膜(かくまく)と強膜(きょうまく)
 透明な角膜は、前から見ると、黒目の部分に相当します。厚さは、中心部が約0.5mmで、周辺は、約0.7mmです。
 角膜に連続している白目の部分が強膜です。この強膜は、眼球の後方まで続き、眼球の外側の膜といえます。
 角膜は、球の一部のような形をしているため、レンズの役目もします。角膜のカーブが変わると屈折も変わります。角膜のカーブが縦方向と横方向でちがうと乱視(らんし)の原因になります。
 角膜は、5層からなっています。表面の上皮が障害された場合、障害が浅く軽いとすぐに治り、視力障害もおこりませんが、深部が障害されると角膜が混濁(こんだく)して視力障害の原因になります。
 目の真正面にある角膜は異物が入りやすく、けがや感染なども受けやすく、いろいろな病気がおこりやすいところです。ヘルペスなどが感染して角膜が混濁してしまうこともあり、角膜移植(かくまくいしょく)が必要になることもあります。
 強膜の病気としては、強膜炎(きょうまくえん)が代表的です。膠原病(こうげんびょう)などの全身的な病気に合併することもあります。
●毛様体(もうようたい)、水晶体(すいしょうたい)、硝子体(しょうしたい)
 毛様体は虹彩と連続していて、この2つの組織と脈絡膜(みゃくらくまく)を一緒にしてぶどう膜(まく)と呼びます。この3つの組織がぶどう色の色素をもっていることから、こう呼ばれます。
 虹彩と毛様体が炎症をおこしたものを虹彩毛様体炎(こうさいもうようたいえん)と呼びますが、それに加わり脈絡膜の炎症がおこったものをぶどう膜炎と呼んでいます。
 虹彩と瞳孔の裏側には水晶体があります。水晶体は凸(とつ)レンズで、カメラのレンズに相当します。
 毛様体と水晶体の間には、チン小帯(しょうたい)(チン氏帯)という細い糸状の透明な組織があります。このチン小帯が、毛様体の筋肉の伸縮によって伸び縮みし、水晶体を厚くしたり薄くしたりしてピント合わせを行ないます。
 近くを見るときは、毛様体の筋肉が収縮してチン小帯がゆるみ、水晶体が厚くなります。
 遠くを見るときは、毛様体の筋肉が弛緩(しかん)してチン小帯が緊張し、水晶体が薄くなり、遠くにピントが合います。
 このように、毛様体の筋肉を収縮させたり弛緩させたりして、遠くや近くにピントを合わせることを、調節(ちょうせつ)と呼びます。若いうちは調節力が十分あるため、正視の人では遠くも近くも見えますが、45歳以上になると、遠くは見えても近くが見にくくなってきます。これが老視(ろうし)(老眼(ろうがん))の始まりです。
 また、水晶体が年をとって濁ってくると、視力障害の原因になります。これが老人性白内障(ろうじんせいはくないしょう)です。
 硝子体は、水晶体の後方にある広い容積を占める無色透明な組織です。硝子体は粘稠(ねんちゅう)な液体で、眼球を球形の形に保つはたらきをしています。
網膜(もうまく)と脈絡膜(みゃくらくまく)
 図「上から見た目の構造」の硝子体に接した後方の膜が網膜で、そのうしろが脈絡膜です。
 網膜は、カメラでいうとフィルムに相当する重要な組織です。10層からなっていますが、外から2番目にある視細胞層には錘体細胞(すいたいさいぼう)と杆体細胞(かんたいさいぼう)があって、錘体細胞は視力や色覚(しきかく)に関係し、杆体細胞は光覚(こうかく)に関係します。
 錘体細胞が障害されると視力の低下や色覚異常がおこり、杆体細胞が障害されると夜盲(やもう)がみられます。
 網膜は、眼底鏡(がんていきょう)を使うと直接見ることができ、網膜の血管も見えます。したがって、糖尿病、高血圧、動脈硬化、脈なし病など、血管に異常がみられる病気では、眼底の血管にも異常をみることが多く、そのため眼底検査が重要になるのです。
 網膜は、一度、細胞が死んでしまうと回復は不可能です。そのため、網膜に影響のある全身的な病気にかかった場合は、もとになる糖尿病などの病気の十分な治療が必要になるのです。
 脈絡膜は、網膜の外側にあり、強膜の内側にある血管に富んだ組織です。ここにはメラニンという色素がたくさんあり、眼球内に入った光が外にもれないように暗箱の役目をしています。
 脈絡膜の代表的な病気に脈絡膜炎(みゃくらくまくえん)があります。虹彩毛様体炎をともなうことが多いため、ぶどう膜炎とも呼びます。原田病(はらだびょう)、ベーチェット病などでおこります。
●視神経(ししんけい)と視覚中枢(しかくちゅうすう)
 網膜の視細胞で得た情報は、網膜の神経節細胞へ伝わり、神経節細胞の突起である視神経を経由して、最終的には大脳の視覚中枢(しかくちゅうすう)までいきます。
 図「上から見た目の構造」に示すように、視神経は眼球の後方から出ており、視神経管を出ると耳側からきた視神経線維は耳側に、鼻側からきた線維は交叉(こうさ)して鼻側にいきます。
 すなわち、右目では視野の右側は鼻側の網膜で感じ、左側は耳側の網膜で感じるわけで、視神経は半分ずつ交叉しているのです。
 右目の左視野からきた神経と左目の左視野からきた神経は一緒になり、外側膝状体(がいそくしつじょうたい)というところで神経を乗り換え、右側の後頭葉(こうとうよう)の視覚中枢までいきます。したがって、視野の左側は右側の後頭葉に、視野の右側は左側の後頭葉に映像が伝えられます(図「ものが見えるしくみ」)。
 もし、脳梗塞(のうこうそく)で左側の後頭葉に障害を受けると、右半分の視野が欠けて見えなくなります。また、視神経の交叉する場所に下垂体腫瘍(かすいたいしゅよう)などができると、両目の耳側の視野が欠けてしまいます。これを両耳側半盲(りょうじそくはんもう)と呼んでいます。
●屈折(くっせつ)とその異常
 目の調節を行なわない状態で見たとき、網膜に焦点を結ばない状態を屈折異常(くっせついじょう)と呼びます。これには、近視(きんし)、遠視(えんし)、乱視(らんし)があります。
 これに対し、加齢のために目の調節がうまくはたらかず、近くが見にくくなるのが老視(ろうし)です。
●両眼視(りょうがんし)とその異常
 左右の目から入った視覚情報は脳の視覚中枢で統合され、1つの映像になります。このはたらきを両眼視といいます。両眼視ができないと立体的にものが見えなくなります。また、斜視(しゃし)があると、両眼視の機能が悪くなります。
●眼圧(がんあつ)と房水(ぼうすい)
 図「上から見た目の構造」の角膜と虹彩で囲まれている部分が前房(ぜんぼう)で、虹彩の後方にあり、毛様体と水晶体の前の部分が後房(こうぼう)です。
 毛様体では房水が産生されており、房水は、後房から水晶体と虹彩の間を通り前房に出て、最後に隅角(ぐうかく)という房水の出口から眼球の外に出ます。産生された房水の量と隅角から排出される量は常に一定で、このため、目の中の圧力(眼圧(がんあつ))は一定に保たれています。
 房水が出すぎたり、また隅角からの排出が少なくなると、眼圧が高くなり、視神経に影響をおよぼし、視野が欠けてきたり、視力が低下したりします。この状態が緑内障(りょくないしょう)です。
●眼筋(がんきん)とその異常
 眼球のまわりには、6個の外眼筋(がいがんきん)と呼ばれる筋肉がついています。この筋肉のはたらきによって、眼球はどの方向にも動くことができます。見ようとする方向に左右の眼球を正しく向けるよう筋肉が伸び縮みして眼球を動かし、両目の視線を合わせます。
 この6個の筋肉は、動眼神経(どうがんしんけい)、外転神経(がいてんしんけい)、滑車神経(かっしゃしんけい)のはたらきによって動きます。したがって、これらの神経がまひしたり、筋肉そのものに異常がおこると、ものが二重に見えます。これを複視(ふくし)といいます。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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