盗・偸(読み)ぬすむ

精選版 日本国語大辞典 「盗・偸」の意味・読み・例文・類語

ぬす・む【盗・偸】

〘他マ五(四)〙
① 他人のものをひそかに奪いとる。かすめとる。
古今(905‐914)春下・九一「花の色は霞にこめてみせずともかをだにぬすめ春の山かぜ〈遍昭〉」
② ひそかに連れ出して妻とする。また、人目を忍んで異性と通ずる。
書紀(720)皇極三年正月(図書寮本訓)「而るに長女(えひめ)(ちき)りし夜、族(やから)に偸(ヌスマ)れぬ」
咄本・昨日は今日の物語(1614‐24頃)下「其方女房を人がぬすむをしらぬか」
③ 人目を忍んでひそかに物事を行なう。こっそりと見聞きしたり行なったりする。人目をごまかして事をする。また、他の動詞と複合して、その動作をこっそりと行なう意を表わす。
古事記(712)中・歌謡「己が命を 奴須美(ヌスミ)死せむと」
※青春(1905‐06)〈小栗風葉〉春「『何が余りだ? 親の目を盗んで…』」
④ ぬすみ見をする。ひそかに見る。
※鳥影(1908)〈石川啄木〉三「其拍子に昌作の方をチラと偸視(ヌス)む」
⑤ 他人の芸や作品、また考えや行ないなどをひそかにまねて学ぶ。
※大慈恩寺三蔵法師伝承徳三年点(1099)八「常人の資を以て、衆師の説を竊(ヌスメ)り」
方丈記(1212)「岡の屋にゆきかふ船をながめて、満沙彌が風情をぬすみ」
⑥ やりくりして利用する。
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉二「昨日は一刻ひまを偸み」
⑦ 野球で、盗塁をする。
※日本野球史(1929)〈国民新聞社運動部〉無鉄砲な盗塁法「一塁を得れば二塁、三塁を盗(ヌス)む事は当然のものとされてゐた」
⑧ 音曲の文中のある文字の音を発音しないでうたうこと。
徒然草(1331頃)二一九「中の穴盤渉調、中と六とのあはひに神仙調あり。かやうに間々に皆一律をぬすめるに」
⑨ 形をおおい隠す。
浮世草子懐硯(1687)二「塩焼く浜のうす煙立のぼり、白雲富士をぬすみ」

ぬすみ【盗・偸】

〘名〙 (動詞「ぬすむ(盗)」の連用形名詞化)
① ぬすむこと。また、その行為
※宇津保(970‐999頃)蔵開下「大将殿こそ〈略〉ぬすみし侍り。この御物みな取る」
遊女などが客がついていながら抜け出て、他の席へ行くこと。江戸深川岡場所の語。
※洒落本・仕懸文庫(1791)四「ぬすみとはしまってある子供、その客のくるまをほかへ出ること也」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android