白話(読み)はくわ(英語表記)bái huà

精選版 日本国語大辞典 「白話」の意味・読み・例文・類語

はく‐わ【白話】

〘名〙 (「白」は飾りがない意) 中国で、口語体のこと。俗語。⇔文言(ぶんげん)

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デジタル大辞泉 「白話」の意味・読み・例文・類語

はく‐わ【白話】

中国語の口語・日常語。また、口語体の文章。⇔文言ぶんげん

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改訂新版 世界大百科事典 「白話」の意味・わかりやすい解説

白話 (はくわ)
bái huà

中国語において文言に対する口語をいう。文言が古典の語彙・語法を基礎とするのに対し,白話は口語の語彙・語法を基礎とする。白話の〈白〉は〈説白〉(芝居のせりふ)の白,〈清白〉(すっきりした)の白,〈明白〉(よくわかる)の白の意といわれる。中国における口語的な表現は,その最古の民間歌謡を集めた《詩経》国風,孔子と弟子の対話の記録《論語》などに見られる。ところが,漢代に入ると古典を尊重し,文をもって国家統治の手段としたことから,詔書・律令など文言文としての形式がととのうようになる。とはいえ,《史記》《漢書》などの叙述には当時の口語の表現が見られる。つづく魏・晋の文章の中にも口語的な表現は数多く見いだすことができる。南北朝時代に入ると,駢文べんぶん)が流行し,語句の彫琢,修辞の技巧に走り,口語との距離はますますひろがっていった。その中で,《世説新語》《顔氏家訓》など口語による著述が二,三のこされている。

 ここで詩の方をふりかえると,《詩経》のあとの〈古詩十九首〉(《文選(もんぜん)》所収)はきわめて口語的であり,駢文が盛行した六朝の民歌も口語的な表現が多い。唐代になると〈律詩〉は別として,〈絶句〉〈古詩〉などでは口語の語彙が自由に使われている。散文のほうでは,このころ駢文に反対して古文運動がはじまるが,ただ文言の改革をめざしたのみで,口語については問題にしなかった。唐人の小説は〈古文〉を用いた。ところが,このころから《遊仙窟》や〈変文〉などのような,口語をもとにした新しい文体が現れるようになる。

 宋代に入ると,印刷術の発明と商業の発達にともない,読書人の層がふくらんでいった。仏家の〈語録〉のあとをうけて儒家の〈語録〉がつくられ,〈変文〉のあとをうけて〈話本〉(講談台本)ができるなど,口語で書かれた作品が,目だってふえてくる。唐代の〈詩〉にかわって〈詞〉が宋代の韻文形式となるが,時代がくだるにしたがって口語的な表現がふえてくる。元代に入ると,新しい文学形式として〈曲〉(元曲)がある。そのせりふの部分は当時の口語を用いている。明・清代には《水滸伝》《西遊記》《儒林外史》《紅楼夢》といずれも北方語で書かれた小説のたぐいがぞくぞくと出版される。民国以降,中国の近代化がさけばれるようになって,〈文言〉を正統位置から下ろして〈白話〉に変えようという運動がはじまった(白話文運動)。ここでいう〈白話〉とは,宋以後(中国の共通語完成に近づいたころ)現代にいたる北方語を基礎としたことば,もしくは書面語のことである。この運動は,そののちにいくつかの問題をのこすことになった。一つは〈白話〉と標準語(現在の普通話(プートンホワ))との問題であり,いま一つは,表現のちがいによる用語(たとえば実務文)の選択の問題などである。
中国語
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百科事典マイペディア 「白話」の意味・わかりやすい解説

白話【はくわ】

中国語の書き言葉の中で,口語体のもの。文語・文言の対。《詩経》や《論語》などにも見られるが,ことに唐宋以後のものをいう。清末〜民国初期の文学革命では新しい国語運動として主唱され(白話文運動),陳独秀胡適は新理論を展開し,魯迅郭沫若郁達夫などにすぐれた作品が生まれた。
→関連項目鏡花縁金瓶梅国語運動西遊記儒林外史新青年(中国)中国語都賀庭鐘文学革命李宝嘉

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「白話」の意味・わかりやすい解説

白話
はくわ

中国語の口語。文言(ぶんげん)(文語)に対していう。ただしその中間には、さまざまの度合いで両者の混合した文体があり、その区別はかならずしも絶対的なものではない。また純粋の口頭語とも同じではなく、あくまでも書写語だとする見解もある。古くさかのぼって、経書や諸子百家の文章、唐詩などの一部にも、当時の白話が取り入れられていることも指摘されているが、一般には、唐の変文(へんぶん)(仏典などをやさしく説いた語り物)以後、庶民を対象にした語り物、読み物に定着した、当時の北方方言を中心とした口語に基づくと考えられる文体を白話とよぶ。

 白話による文学作品は『京本(けいほん)通俗小説』『全相平話(ぜんそうへいわ)』などをはじめ『三言二拍』に至る宋(そう)から明(みん)にかけての話本、元曲(げんきょく)(とくにせりふ)、明の四大奇書をはじめとする明清(しん)の章回小説などで、宋以後、伝統的な文言文学と並行する一つの流れを形づくっている。当初は文言文学に比して低いものとみなされてきたが、しだいにその比重を増し、とくに1910年代後半の文学革命によって、白話文学の歴史を重視するとともに、現代口語を基礎とする白話の文学が中心であるべきだ、とする考え方が広く支持されるようになり、以後、中国文学史の主流となるに至っている。

[丸山 昇]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「白話」の意味・わかりやすい解説

白話
はくわ
Bai-hua

中国で口語のことをいう。「飾りのない言葉」の意。古典的な詩文に多く用いられた言語の「文言」 (文語) に対する。社会的に軽視されつつ,次第に戯曲,小説などの文学に用いられ,やがて民国初年にいたって,新しい文学をになうべき言葉として取上げられるようになった。

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世界大百科事典(旧版)内の白話の言及

【中華民国】より

…少年中国学会をはじめとする多くの青年団体の創立はほとんどその直接的な結果であった。新文化運動は倫理革命のみならず文学革命をもその内容とし,口語文学(白話文)の提唱から実践へとすすんだ。清末以来白話はたえず提唱されてきたが,それがむしろ啓蒙のための白話提唱だったのに対し,このときには文学の本質にかかわるものとして提唱されたのであって,その点でまさに革命だったのである。…

【中国文学】より


[俗語文学の登場]
 これまで述べてきたものは文言(ぶんげん)すなわち古典語の文学である。その用語はこの時期にほぼ固定しつつあったが,それと並んで白話すなわち俗語の文学が現れはじめた。それはやはり商業の発達,市民層の増大に伴う現象である。…

【白話詩】より

…白話とは中国語で,飾りのないことばという意味で,飾りのあることばであった文語に対する口語のことである。民国以前の中国の文学は,文語を使用しないかぎり正統な文学とは認められなかった。…

※「白話」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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