白蓮教(読み)びゃくれんきょう

精選版 日本国語大辞典 「白蓮教」の意味・読み・例文・類語

びゃくれん‐きょう ‥ケウ【白蓮教】

〘名〙 中国、南宋の慈照子元の唱えた浄土信仰の一派。東晉の慧遠(えおん)の白蓮社の遺風を伝えようとして起こったもの。阿彌陀信仰を中心に独自の教義や戒律を制定して多数の信者を獲得したが、教勢の拡張とともに弾圧され、以来清末まで秘密結社として発展した。その間、元末には彌勒下生の信仰と結びついて紅巾の乱を起こし、明末や清代にたびたび大規模な反乱を起こすなど、その動向は近代中国の情勢に大きな影響を与えた。白蓮宗。

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デジタル大辞泉 「白蓮教」の意味・読み・例文・類語

びゃくれん‐きょう〔‐ケウ〕【白×蓮教】

中国の民衆宗教の一派。南宋の初め、阿弥陀信仰により蘇州の僧茅子元ぼうしげんが創始。民衆に多くの信者を得たため、代より邪教として禁圧される。代以降しばしば反乱を起こしつつ、秘密結社として代まで存続

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「白蓮教」の意味・わかりやすい解説

白蓮教
びゃくれんきょう

中国の宗教結社。南宋(なんそう)、高宗(こうそう)の紹興(しょうこう)年間(1131~62)初めに、呉郡(ごぐん)(蘇州(そしゅう))の延祥院(えんしょういん)の僧侶(そうりょ)茅子元(ぼうしげん)が創立した白蓮菜(びゃくれんさい)という教団に始まり、現代まで続いた。茅子元は天台宗の教法をまねて、「円融四土(えんにゅうしど)の図」「晨朝(しんちょう)の礼懺(らいさん)文」「偈歌(げか)四句」「仏念五声」をつくり、信徒には戒律、とくに不殺生戒(ふせっしょうかい)を守るように勧めた。自らを白蓮導師と称し、信徒を白蓮菜とよんだ。白蓮菜というのは、信徒が不殺生戒を守って食肉せず、菜のみを食べたからである。この教団は民衆の信徒が増え、教勢が盛んになったため弾圧され、茅子元は流罪となった。この弾圧以後、南宋時代には白蓮菜はマニ教や白雲菜(はくうんさい)(白雲宗)とともに邪教異端の代表とされた。白蓮教は初めは阿弥陀(あみだ)信仰であったが、元(げん)末ころから弥勒仏(みろくぶつ)の下生(げしょう)によってこの世に繁栄がもたらされるという弥勒教と融合し、弥勒信仰を中核とする教団へと変化した。明(みん)・清(しん)の時代にも民衆と結び付いた白蓮教は、時の為政者から邪教として禁圧されたが、しばしば反乱を起こし、清朝の1796年から9年間にわたって続いた白蓮教徒の乱は有名である。清朝以後も、白蓮教はさまざまな分派を有しながら宗教的秘密結社として活動し、近代中国における秘密結社の大半は白蓮教に関係している。

[小林正美]

『相田洋著『白蓮教の成立とその展開』(『中国民衆反乱の世界』所収・1974・汲古書院)』『野口鐵郎著『白蓮教社の変容をめぐって』(『山崎先生退官記念東洋史学論集』所収・1967)』

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百科事典マイペディア 「白蓮教」の意味・わかりやすい解説

白蓮教【びゃくれんきょう】

中国の念仏結社。起源は402年,廬山(ろざん)の慧遠(えおん)がつくった念仏結社の白蓮社にあるが,南宋初期に茅子元(ぼうしげん)〔?-1166〕が,阿弥陀信仰を中心に,平易な教理で白蓮教を創始し民間に浸透した。初め殺生戒を守り,肉酒を断ったが,のち税役を避ける貧民が入信したりして,邪教的色彩を濃くした。南宋・元・明・清はいずれも禁圧したが,弥勒(みろく)の下生を信じる教徒は,大小多くの反乱を起こし,特に,元末の紅巾の乱,清中期の嘉慶朝の乱(1796年―1804年)は大規模であった。
→関連項目郷勇義和団乾隆帝

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「白蓮教」の解説

白蓮教(びゃくれんきょう)

中国における民間の仏教的宗教結社。南宋の初め阿弥陀(あみだ)信仰により茅子元(ぼうしげん)が始めたが,やがて呪術的傾向が著しくなり,宋末から元代にかけ邪教として弾圧された。元末には,やがて弥勒仏(みろくぶつ)が救世主として現われるという弥勒下生(げしょう)の信仰と結びつき,貧窮の民衆を信徒とし,紅巾(こうきん)の乱が起こった。明代にも邪教として禁止されたが,秘密結社として明末各地で反乱を起こし,清代になっても結社は存続し,18世紀末大規模な反乱が起こった。反乱は1796年より9年間にわたり,湖北,河南,陝西(せんせい),四川の各省に及んだ。ただゲリラ戦を続けたにすぎなかったが,清朝の官兵よりも民間の義勇軍の郷勇(きょうゆう)が鎮圧に力を尽くし,清朝の衰退を示した。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「白蓮教」の意味・わかりやすい解説

白蓮教
びゃくれんきょう
Bo-lian-jiao

中国,南宋初期に阿弥陀仏信仰を中心に茅子元 (ぼうしげん) が創した民間の秘密結社。特に有名になったのは元の順帝のとき,欒 (らん) 城 (河北省) の韓山童が,「天下が乱れ,弥勒が降って地上に天国を建てる」と唱え,白蓮会を興して反乱したのに始る。明の天啓年間には,深州 (河北省) の王森が,白蓮教 (焚香教ともいう) を組織してその勢力を広め,清の乾隆 40 (1775) 年には,河南の白蓮教主劉松が清朝の滅亡を予言して,白蓮教が大弾圧されることになったが,その教徒は,湖北,河南,四川,陝西,甘粛の各地に蜂起して反乱し,嘉慶1 (96) ~9年に大いに清朝を悩ました。いわゆる「川楚教徒の役」である。清朝の「堅壁清野の策」によって,各個に鎮圧されたが,その支派は幾多に分れて民間に残存した。清末の義和団もその一つである。

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旺文社世界史事典 三訂版 「白蓮教」の解説

白蓮教
びゃくれんきょう

中国の仏教的民間宗教
南宋初期,阿弥陀浄土 (あみだじようど) 信仰の宗教結社であったが,邪教とされた。元代には公認されることもあったが禁圧され,弥勒仏 (みろくぶつ) の下生 (げしよう) を求める信仰と結びつき,元末期に紅巾 (こうきん) の乱を起こした。明・清代にも禁圧されたが,秘密結社として活動を続け,各地で反乱を起こした。18世紀末には,白蓮教徒の乱(1796〜1804)を起こし,清の統治を動揺させた。

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