しら‐いと【白糸】
[1] 〘名〙
① 染めていない白い生地のままの糸。しろいと。
※催馬楽(7C後‐8C)夏引「夏引の 之良伊止(シライト)七量(ななはかり)あり さ衣に 織りても着せむ」
② 白い糸のようなものをたとえていう。
(イ) 滝や湯などのたとえ。
※後撰(951‐953頃)覉旅・一三五六「水ひきのし
らいとはへておるはたは旅の衣にたちやかさねん〈菅原道真〉」
※海道記(1223頃)序「鏡の影に対居て知ぬ翁に恥ぢ、鑷子を取て白糸にあはれむ」
※新札往来(1367)上「毛者、白糸・紫糸・黒糸・洗革〈略〉思々好レ之候」
※交隣須知(18C中か)二「タテハ シライトデ シ ヨコハ モメンテ スレハ ソンナイト 申マスル」
⑤ 素麺(そうめん)をいう女房詞。〔宝鏡寺日記‐承応二年(1653)八月一三日〕
⑥ 野菜の漬け物。たくあんなど。しろいと。〔女重宝記(元祿五年)(1692)〕
[2] 邦楽の曲名。
[一] 清元の曲名。「重褄閨の小夜衣
(かさねづまねやのさよぎぬ)」の略称。嘉永五年(
一八五二)三月江戸
中村座初演。鈴木主水
(もんど)の芝居「隅田川対高賀紋
(すみだがわついのかがもん)」の一場面、主水の女房が女郎の白糸に夫との縁切りを頼みに行く場に使った
浄瑠璃。
[二] 地歌の曲名。茨木屋幸斉作詞。寛延(
一七四八‐五一)以前の古曲。歌詞は「いつわりの」で始まり、「わかれざか」で終わるので、別名を「わかれざか」という。歌詞中の「
白糸の昔がましじゃ」から曲名が出ている。郭
(くるわ)の女が恋の色に染まぬ時代がましだと歎いた内容のもの。作曲に三種ある。山本嘉市・若村藤四郎作曲の三下りの曲で芝居唄。二上りの曲で一般の歌もの。本調子で浅村勾当作曲の半太夫もの。
しろ‐いと【白糸】
〘名〙
① 染めていない白いままの糸。しらいと。
※太平記(14C後)一〇「

の口より流るる血に、白糸
(シロイト)の鎧忽に火威
(ひおどし)に染成て」
③ 野菜の漬け物。たくあんなど。しらいと。
※女中言葉(1712)「しろいと・をつまみ しんこの事」
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白糸
しらいと
室町末期から江戸時代を通じて輸入された中国産生糸の代表的品種。名産地の浙江(せっこう)省湖州府にちなんで湖糸ともよばれ、西陣織(にしじんおり)などの原料のほか、刀の下げ緒(お)、鎧(よろい)の威(おどし)などにも使われた高級糸。輸入生糸にはほかに、黄糸(きいと)(トンキン、ベンガル産が多い)、各色の撚(よ)り糸、紛(まが)い糸、節(ふし)糸、屑(くず)糸、かせ糸、縫い糸などがあった。白糸は糸割符(いとわっぷ)の対象とされ、初期にはおもにポルトガル船でマカオから入り、1600年(慶長5)ころには5万~6万斤、鎖国後はおもに唐船でもたらされ、1662年(寛文2)の37万斤余がピーク。宗(そう)氏によって朝鮮からも若干輸入されたが、以後和糸に押されて減少し、19世紀には御定高(おさだめだか)1万1650斤にすぎなかった。
[中村 質]
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しらいと【白糸】
福岡の日本酒。酒名は、地元の名勝「白糸の滝」にちなみ命名。伝来のハネ木搾りの製法を守り酒を造る。純米大吟醸酒、純米酒、本醸造酒などがある。原料米は山田錦、レイホウ。仕込み水は脊振(せふり)山系の伏流水。蔵元の「白糸酒造」は安政2年(1855)創業。所在地は糸島市本。
しらいと【白糸】
静岡の日本酒。酒名は、蔵近くの名勝「白糸の滝」にちなみ命名。「白糸の原酒」はアルコール度数20%の普通酒。ほかに本醸造酒などがある。原料米は五百万石など。仕込み水は富士山の伏流水。蔵元の「牧野酒造」は寛保3年(1743)創業。所在地は富士宮市下条。
しらいと【白糸】
静岡の粕取り焼酎。酒名は、富士山麓の景勝地・白糸の滝にちなみ命名。常圧蒸留で造る。原料は清酒粕。アルコール度数25%。蔵元の「牧野酒造」は寛保3年(1743)創業。焼酎と同名の清酒「白糸」の醸造元。所在地は富士宮市下条。
出典 講談社[日本酒・本格焼酎・泡盛]銘柄コレクションについて 情報
デジタル大辞泉
「白糸」の意味・読み・例文・類語
しら‐いと【白糸】
1 色を染めつけてない糸。白い糸。
2 滝の細い落水や白髪など、白くて細いもののたとえ。「滝の白糸」
3 《近世語》「素麺」をいう女性語。
しろ‐いと【白糸】
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白糸
(通称)
しらいと
歌舞伎・浄瑠璃の外題。- 元の外題
- 重褄閨の小夜衣 など
- 初演
- 嘉永5.3(江戸・市村座)
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
出典 日外アソシエーツ「事典・日本の観光資源」事典・日本の観光資源について 情報
しろいと【白糸】
中国産の上質生糸をいう。これに対し国産の生糸を和糸と呼んで区別した。白糸はポルトガルの植民地マカオ周辺の中国の広東市場からポルトガル人が購入し,日本に輸出することで,約5割から10割の利益があがったが,1604年(慶長9)白糸に対し糸割符(いとわつぷ)制度を設けて,その利益を抑制する政策がとられた。なお輸入白糸以外に粗悪な生糸として,南方諸地域の黄糸,下糸などがあり,また弁柄糸(ベンガル糸)などもあったが,85年(貞享2)以降これらの生糸も糸割符制下に従属した。
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
世界大百科事典内の白糸の言及
【鈴木主水】より
…江戸内藤新宿橋本屋の遊女白糸と情死し,家名断絶となったと伝えられる武士。詳細は不明だが,天保~嘉永期(1830‐54)に流行唄となり,瞽女(ごぜ)唄のヤンレイクドキや盆踊唄にうたわれ,また実録本にも行われて著名であった。…
【糸割符】より
…白糸割符ともいう。江戸幕府によって輸入白糸(しろいと)(中国産の生糸)を統制した貿易仕法。…
【為登糸】より
…江戸時代に諸地方から京都へ送られた生糸。古代,中世にも生糸は生産されていたが,中世末には製糸業が衰え,中国産の生糸(白糸)が多量に輸入されるようになった。中国糸は精巧で高級な絹布の原料として珍重された。…
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