登記請求権(読み)とうきせいきゅうけん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「登記請求権」の意味・わかりやすい解説

登記請求権
とうきせいきゅうけん

登記義務者に対して登記申請につき協力を求める権利。実体的な権利関係およびその変動過程と登記上のそれとが一致しない場合に、その不一致という事実から登記権利者に認められる実体法上の権利である。甲の所有不動産について乙名義の偽造登記がされている場合や、乙が甲に不動産を売った場合などの甲は登記請求権を有する登記権利者であり、乙は登記義務者であるとされる。

 一般的にいえば、登記権利者は、登記をすることによって利益を受ける者であり、反対に不利益を受ける者が登記義務者である。しかし、この区別はかならずしも明確ではない。たとえば、買い主は登記をすることによって利益を受けることは明らかであるが、売り主も登記を相手方移転することに利益がある場合もあり(固定資産税を免れるなど)、この場合には、売り主から買い主に対し登記の移転(引取り)を請求する権利があるといえる。したがって、買い主および売り主は登記権利者であると同時に登記義務者であることになろう。

 登記請求権は、実体的な権利関係およびその変動の過程と登記上のそれとが一致しない場合に、両者を一致させるために認められる権利であるが、たとえば、甲→乙→丙と権利が移転した場合に甲→丙という権利の移転があったように登記をすることも、乙の同意があれば一般に有効と解されている。

[高橋康之]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「登記請求権」の意味・わかりやすい解説

登記請求権
とうきせいきゅうけん

他人に対し,登記に協力すべきことを請求する権利。不動産登記などで特に問題となる。不動産登記のうち,権利に関する登記については,登記権利者(登記上,直接に利益を受ける者)と登記義務者(登記上,直接に不利益を受ける登記名義人)の共同申請の原則がとられている(不動産登記法60。→登記申請)。そのため,一方の当事者は相手方の不協力によって,いつまでも登記ができない状態におかれることになる。このような事態を防ぐために,登記権利者に登記請求権が認められる。登記請求権の根拠については,登記原因を生ぜしめた債権効力に基づくとする説と,登記されるべき物権の効力に基づくとする説とがあるが,双方とも登記請求権の根拠になると考えられる。登記請求権はいずれの当事者にも認められ,たとえば土地の売主買主に対し,登記に協力するよう請求する場合もありうる(登記引取請求権)。登記請求権者の請求に相手方が応じないときは,請求権に基づき裁判所から相手方に登記をするよう命じる判決を得て,単独で判決による登記申請をすることができることになる(63条1項)。

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