疎明(読み)ソメイ

デジタル大辞泉 「疎明」の意味・読み・例文・類語

そ‐めい【疎明/×疏明】

いいわけ。弁明
確信ではなく、確からしいという推測裁判官に生じさせる当事者の行為。または、これに基づき裁判官が一応の推測を得ている状態。→証明

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「疎明」の意味・わかりやすい解説

疎明
そめい

広義の証明の一種であって、いちおう確からしいという推測を裁判所に与えることをいう。ある種の訴訟法的事実の認定にあたって、法は単に疎明があれば足りるものとしている。

[内田一郎]

刑事訴訟における疎明

たとえば、(1)事件の移送の決定または移送の請求を却下する決定に対しては、その決定により著しく利益を害される場合に限り、その事由を疎明して、即時抗告をすることができる(刑事訴訟法19条3項)。(2)検察官または司法警察員がやむをえない事情によって制限時間を遵守することができなかったときは、検察官は、裁判官にその事由を疎明して、被疑者の勾留(こうりゅう)を請求することができる(同法206条1項)。(3)第1回公判前の証人尋問の請求をするには、検察官は、証人尋問を必要とする理由およびそれが犯罪の証明に欠くことができないものであることを疎明しなければならない(同法227条2項)。(4)控訴趣意書には、刑事訴訟法または裁判所の規則の定めるところにより、必要な疎明資料または検察官もしくは弁護人の保証書を添付しなければならない(同法376条2項)。(5)控訴裁判所は、控訴理由を調査するにあたって、事実の取調べをすることができるが、その事実は、原則として、訴訟記録および原裁判所において取り調べた証拠に現れている事実に限られる。しかし、第一審で取調べを請求することができなかったことに、やむをえない事由がある場合には、その事実を控訴趣意書に援用することが許されている(同法382条の2)。そして、控訴申立人が、このやむをえない事由を疎明した場合には、控訴裁判所は、量刑不当または事実誤認を証明するために欠くことのできない場合に限り、この事実を取り調べなければならない(同法393条1項)。

[内田一郎・田口守一]

民事訴訟における疎明

裁判官の事実認定についての心証の程度に関し、証明よりも若干低く、いちおう真実らしいとか、たぶん間違いないであろうとの心証を形成させる程度の立証をいう。その程度の蓋然(がいぜん)性を得たかどうかは、証明の場合と同様に、裁判官の自由心証による。疎明は、主として迅速性の要請から証明を要求しなくともよい場合、原則として法律が明文を置いて認めている。疎明することを要し、または疎明で足りるとされる場合は、特別代理人の選任を申請する際(民事訴訟法35条1項)、補助参加についての異議の際(同法44条1項)、保全命令の申立ての際(民事保全法13条)、訴訟上の救助の際(民事訴訟規則30条)等である。

 それらは、訴訟上の派生的な争いについて証明を要求していては本来の訴訟手続を遅延させる場合、軽率な申立てを防止する場合、あるいは暫定的に権利義務の存否を確定することを認める場合などである。したがって疎明においては、証拠は即時に取り調べることのできるものに限られている(民事訴訟法188条)。

[内田武吉]

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改訂新版 世界大百科事典 「疎明」の意味・わかりやすい解説

疎明 (そめい)

裁判の前提となる事実について,裁判官が一応確からしいとの推測をいだいてよい状態,または当事者がそのような状態に達するよう証拠を提出することをいう。証明が確信を必要とするのに対し,疎明は一応の確からしさでよく,とくに暫定的な保護を与える必要や迅速の見地から,法が疎明で足りるととくに明定している場合に限って認められる。たとえば,仮差押えの場合(民事保全法13条2項),金を貸した債権者が訴えを起こす準備をしている際,債務者が唯一の財産を処分しようとしているとする。債権者はただちにそれを仮差押えしておかないと,訴訟で判決をもらったときには債務者が無一文になっているかもしれない。そこで法は,ただちに取り調べることができる在廷証人や手持ち文書など簡易迅速に疎明できる証拠に限定した(民事訴訟法188条)。債権者はこれらの方法で,金を貸したという事実と仮差押えの必要性を疎明すればよい。しかし本裁判(本案)になった場合には,確信できる程度まで立証しなければならない。仮差押えのほか,仮処分,訴訟救助,特別代理人選任の申立て,補助参加についての異議の場合等でも疎明が認められる(民事保全法13条2項,民事訴訟規則30条,民事訴訟法35条1項,44条1項)。

 刑事訴訟法も,たとえば,制限時間を超えてしまった後に勾留請求する場合に行われる,なぜ超過したかの疎明(206条1項)や,第1回公判期日前の証人尋問が必要な場合に行われる,その理由およびそれが犯罪の証明に欠くことができないものであることの疎明(227条2項)などがある。民事訴訟法では疎明にかわる保証金供託または宣誓の制度があったが,廃止された。刑事訴訟法では控訴趣意書に所定の疎明資料または保証書を添付すべきことを要求する規定がある(376条2項)。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「疎明」の意味・わかりやすい解説

疎明
そめい
Glaubhaftmachung

裁判官が係争事実の存否について一応確からしいという推測を得た状態,あるいはそのための証拠の提出活動をいう。裁判官が確信を得た状態または,そのための証拠提出活動である証明に対する。 (1) 民事訴訟法では特に規定がある場合のほか,当事者はその主張事実を証拠によって証明するのが原則である。しかし,判決の基礎となる事実以外の迅速な処理を要する事項や派生的な手続的事項については,疎明で足りるとされる。疎明は,即時に取り調べることの証拠方法にかぎって許され保証の供託または真実である旨の宣誓での代用が認められる。 (2) 刑事訴訟法でも疎明が要求されるのは特に規定のある場合である (たとえば移送の決定または移送請求却下の決定に対し即時抗告をするとき) 。 (3) 人身保護法上の違法拘束救済請求においても疎明が要求される。

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世界大百科事典(旧版)内の疎明の言及

【証拠】より

…民事訴訟では,証拠能力についての制限がないのが原則である。ただし,証人適格のない者の証言は,証拠能力なしとして採証されないし,疎明(後述)の場合には即時に取調べのできる証拠に限定されること(188条)や,手形訴訟,小切手訴訟では原則として書証に限られること(352条)が,証拠能力の制限に数えられることもある。 他方,刑事訴訟では,種々の理由による証拠能力の制限がある。…

【証明】より

…これを自由心証主義というが,証明の程度について,民事では通常人が疑いをさしはさまない程度に真実性の確信を持ちうる程度が必要とされ,刑事ではこれより厳しく,合理的な疑いを超える程度の証明が必要だと説明される。これに対し,疎明は一応の確からしさで満足する。公害訴訟で話題となった疫学的証明とは,集団における病気などの原因や発生条件を,統計的な手法によって解明しようとするもので,訴訟上の証明との類似性が評価された。…

※「疎明」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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