異類婚姻譚(読み)いるいこんいんたん

精選版 日本国語大辞典 「異類婚姻譚」の意味・読み・例文・類語

いるいこんいん‐たん【異類婚姻譚】

〘名〙 人と異類(動物想像上生物)との婚姻を説く昔話。蛇婿入り河童婿入りなどのように異類が男性の場合と、鶴女房や蛤(はまぐり)女房などのように異類が女性の場合とがある。

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デジタル大辞泉 「異類婚姻譚」の意味・読み・例文・類語

いるいこんいん‐たん【異類婚姻×譚】

伝説・民話で、人と異類2との婚姻を主題とするもの。蛇婿入り鶴女房など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「異類婚姻譚」の意味・わかりやすい解説

異類婚姻譚
いるいこんいんたん

動物、精霊、妖怪(ようかい)など、人間以外の者との婚姻を主題とした昔話群の総称。(1)異類が女性である場合と、(2)男性である場合とがある。(1)は「天人女房」「竜宮女房」「絵姿女房」「鶴(つる)女房」「狐(きつね)女房」「蛇女房」「蛤(はまぐり)女房」などで、異類の嫁入る動機が、多くは男に助けられたお礼で夫の家を富ませるが、破綻(はたん)は男の禁忌(タブー)の侵犯がほとんど。(2)は「猿婿入(さるむこい)り」「河童(かっぱ)婿入り」「鬼婿入り」「蛇婿入り」などが代表的なもの。これも型はおよそ決まっている。田に水を入れてくれれば娘の1人を嫁にやると約束して水を引いてもらうが、3人娘の姉2人は嫁入りを拒絶して末娘が異類に嫁す。実家(さと)帰りの日に異類の夫に重い臼(うす)を背負わせ、梢(こずえ)の花を所望して臼ごと川に沈める(あるいは針を投げて殺す)という展開である。ただ「蛇婿入」の水乞(みずご)い型はこの筋に属するが、もう一つ苧環(おだまき)型は三輪山神婚伝説(『古事記』)と同型である。夜ごとに通ってくる夫の衣に糸を通して、その後をつけ、その正体を知るという筋である。

 ギリシア神話にも「エロスとプシケ」、グリム説話にも「蛙(かえる)の王子」などがあり、異類との婚姻が世界に共通する主題であることを示している。人間と契る異類たちは、他界から来臨する神もしくは精霊の性格を具備して、その胤(たね)を人界にとどめようとしているし、「天人女房」「狐女房」や「魚女房」の一部は、そのまま始祖伝説の名残(なごり)をとどめている。そこに神話的伝承が昔話のなかに遺伝されている、といえる。しかし、日本の昔話では夫婦が破綻に至るほうが多く、異類の胤を人界にとどめることの否定によって、始祖誕生の伝承が成立しているといえよう。それは、昔話における伝承の屈折の結果で、時代相がもはや動物や妖怪の胤を認めなくなった位置で固定した、とみるべきである。夫婦が破綻となる主因の、禁忌の侵犯は、産屋(うぶや)の授乳(蛇女房。記紀神話の豊玉姫(とよたまひめ)説話に同じ)や機(はた)織り(鶴女房)や沐浴(もくよく)(魚女房)などの見てはならない異類の状態を、男が好奇心をもってのぞくという型が多い。婚姻時の約束であれば、女房は本来の姿に戻って去るのであるが、女性が人目のない所で真の姿に戻っていることに、聖なる力が満たされたときの、場所、行為に対する畏敬(いけい)観が底流にあったとみるべきであろう。

 人界における他界への畏怖観とかかわっている。そこには超個人的な社会の鉄則を破ったというモチーフが考えられる。柳田国男(やなぎたくにお)は、(1)の型を(2)に先行して考えたが、それは、この禁忌侵犯のモチーフがより多く残されているための神話的伝承、始祖伝説の遺伝をより濃くみたからである。それに対しての、(2)型の多くの異類の婿たちの哀れで無惨な最期は、人間のあまりの身がってさを思い知らされるだけで、昔話としての時の浅さを考察せしめる。また、この嫁入り・婿入りの二者を婚姻習俗の反映としてみる説もある。この場合には婿入り婚から嫁入り婚に移るわけであるから、(2)型を古いとするわけだが、これも単純に定められない。長い時間に種々の伝承を重層複合しているのが昔話である。「天人女房」などは一話型のなかに両者を併存して、前半に天人女房の来訪、そして羽衣を隠されて男の妻となる、嫁入り婚の反映であるし、後半は婿の天界訪問と多くの難題や試練の克服は婿入り婚のそれであって、婚姻習俗とのかかわりは、伝承の複雑さを考えさせる(天人女房は日本で約130話の報告があり、離別型、天上訪問型、七夕(たなばた)結合型がある)。社会習俗にないものが昔話に現れるわけはないのであって、婚姻制との対応も、分析のいかんによっては有力である。

[渡邊昭五]

『「口承文芸史考」(『定本柳田国男集6』所収・1963・筑摩書房)』『「桃太郎の誕生」(『定本柳田国男集8』所収・1963・筑摩書房)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「異類婚姻譚」の意味・わかりやすい解説

異類婚姻譚
いるいこんいんたん

民俗学用語。異類求婚譚ともいう。人間が動物や精霊などの異類と婚姻する昔話の一つ。異類が男性の場合と女性の場合がある。男性の場合は,名を隠して女のもとに通う婿の本体がへびだったというへび婿入り型が代表であり,その他,笑話的なさる婿説話も知られている。女性の場合は,危機を救われたつるが美女となりその妻になる「つる女房」や,「はまぐり女房」のように動物が恩返しをする形式のものが多い (→動物報恩譚 ) 。その他,「柳の精物語」「羽衣伝説」などもこの類型である。

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デジタル大辞泉プラス 「異類婚姻譚」の解説

異類婚姻譚

劇作家・演出家・小説家の本谷(もとや)有希子による小説。結婚4年目の専業主婦を主人公に、夫婦という関係性の不思議を描く。「群像」2015年11月号に発表。2016年単行本刊行。同年、第154回芥川賞受賞。

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世界大百科事典(旧版)内の異類婚姻譚の言及

【木幡狐】より

…横本奈良絵本では,弘法大師の夢告により中将と若君とが嵯峨野の庵室を訪れる後日譚を持つ。《曾我物語》巻五〈三原野の御狩の事〉には業平の異類婚姻譚がある。この異類婚姻譚は〈伊勢物語の秘事〉を経て,鎌倉期の《伊勢物語難儀抄》などの注釈にまでさかのぼりえよう。…

【蛇婿入り】より

…蛇が男になって人間の娘に求婚するという内容をもつ,異類婚姻譚に属する昔話群の総称。蛇婿入譚は内容から〈苧環(おだまき)型〉〈水乞(みずこい)型〉〈蛙報恩型〉に大別される。…

※「異類婚姻譚」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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