異常血色素症(読み)いじょうけっしきそしょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「異常血色素症」の意味・わかりやすい解説

異常血色素症
いじょうけっしきそしょう

血色素の構成成分に異常があり、病的な血色素がつくられる病気。血色素はヘムグロビンでできており、さらにヘムは鉄とポルフィリンからなるが、グロビンを構成しているアミノ酸に異常があるものを異常血色素症(血色素障害)とよぶ。この疾患分子レベルで解明され、分子生物学の代表的な対象として分子病という概念が生まれた。グロビン(タンパク質の一種)を構成する141個ないしは146個のアミノ酸はその配列順序が決まっている。このアミノ酸の配列が狂ってしまって、とくに鉄と結合している部分のアミノ酸が、健康者の場合とは異なった種類のものに置き換えられていると、つくられた血色素が異なった性質をもってしまい、そのために、健康な場合ではけっしてできることのない結晶がつくられたり、温度に弱い性質をもったりする。このような血色素を含有する赤血球は早期に破壊されるため、結果として溶血性貧血がおこる。

 すでに多数のものが発見されているが、実際病気として症状が出現するのはヘモグロビンS症(鎌(かま)形赤血球症)、ヘモグロビンC症およびヘモグロビンSC症、ヘモグロビンM症である。S、C、SC症はアフリカ黒人にみられる遺伝性疾患で0.3~1.3%の頻度である。S症は赤血球が鎌の形を示し、C症では弓の的(標的)のような形をしている。M症は、人種差なく分布し遺伝性で、ヘム鉄が酸化したままでメトヘモグロビンをつくる。そのために皮膚、爪(つめ)などが黒っぽくみえるので黒血病とよばれることがある。

[伊藤健次郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「異常血色素症」の意味・わかりやすい解説

異常血色素症
いじょうけっしきそしょう
abnormal hemoglobinemia

血色素異常症,異常ヘモグロビン (血) 症ともいう。異常なヘモグロビン (血色素のこと,Hb) をもつ疾病の総称。一般に溶血性貧血を起すものが多い。ヘモグロビンはヘム色素とグロビン蛋白から成り立っており,そのいずれの部分にも異常を生じるが,狭義にはグロビン部分に異常の生じたものを異常血色素症という。正確な遺伝様式に従って遺伝するもので,これまでに約 400種類の異常ヘモグロビンの構造が明らかになっている。異常ヘモグロビンはグロビン部のアミノ酸構成や分子構造が,正常なものと異なっている。異常ヘモグロビン症のうちよく知られているのは,初めて発見された鎌状赤血球症で,HbSという異常ヘモグロビンのため赤血球が特異な鎌状を呈する。マラリアの多いアフリカの熱帯地方に多発する。また,地中海貧血とかクーリー貧血ともいわれるサラセミアは地中海沿岸に好発し,グロビンの合成能力が低下して起きる溶血性貧血で,赤血球は奇形を呈する。日本には異常血色素症は存在しないとされてきたが,1960年に岩手県の遺伝性黒血病の原因が,異常ヘモグロビンの HbMであることが判明して以来,約 30種の存在が確認されている。

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