異常潮位(読み)いじょうちょうい

改訂新版 世界大百科事典 「異常潮位」の意味・わかりやすい解説

異常潮位 (いじょうちょうい)

1971年9月初旬,日本列島の太平洋沿岸一帯の水位が異常に高まり,各地浸水が起こった。この現象を異常潮位と呼ぶ。異常潮位は高潮(ふつうは台風に伴う大気の圧力降下と風の吹寄せ原因で起こる)と異なり,その起こる海域が広範囲にわたっているのが大きな特徴である。異常潮位時における水位記録に気圧補正を施したものを図に示した。1番上の銚子東端として順に西に位置する検潮記録を並べたものであるが,30cmから40cmほどの潮位の高まりが西端の宇野まで数百kmに及んでいることがわかる。また潮位のピークを図の上でたどると西にいくほど遅れていると考えられる。

 異常潮位の原因は黒潮反流であるという説が最も強い。黒潮は通常日本の南岸沿いを西から東に流れている。その際ほぼ地衡流(圧力傾度とコリオリの力がつりあって生ずる流れ)を成すから進行方向に向かって右側,つまり沖側の水位が高くなっている。ところが何かの原因で沿岸沿いに反流が生じると逆に岸側の水位が高くなる。このような反流が広範囲にわたって生じるとは考えにくいが,例えば千葉県近海での反流がその沿岸の水位を高め,今度はその水位の高まりが西方に波となって伝播(でんぱ)すると考えれば,図の記録も説明がつくことになる。

 過去の記録を調べると上記の例と同じように潮位が平均より数十cm異常に上昇した例は少なくとも数回あることがわかった。71年が特に注目を集めたのは,ちょうど平均潮位の高い大潮の時期と重なったため,浸水災害が起こったためと思われる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「異常潮位」の意味・わかりやすい解説

異常潮位
いじょうちょうい
anomaly sea level

海象や気象の変動により起こる異常な潮位変動。潮汐や高潮,津波のように原因が明確なものを除き,発生原因の分かりにくい現象をいう。日本沿岸では予報潮位に対して 10cm程度の偏差は普通に起こるが,ときには,20~40cmに達することもある。最も有名な例は,1971年9月上旬に台風が日本南岸をゆっくり東進した直後,房総半島で異常潮位が起こり,秒速2~5mで陸岸を右に見るように西進した現象で,各地で浸水騒ぎが起き,大きな社会問題になった。異常潮位は長いときは1週間以上続くものもある。

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海の事典 「異常潮位」の解説

異常潮位

沿岸の海水面が、潮汐・津波・高潮等の場合のような明確な原因なしに、異常に昇降する現象を異常潮位という。時として、かなりの広域において 30~40cmの水位上昇が数週間続くことがある。その原因は、主として海象の異常によると考えられている。地衡流の平衡にある黒潮は、その沖側が岸側よ りも約1mも高い。したがって黒潮の表面流速が減少したり、黒潮の内側に反流を生じたりすると、この程度の水位変化は容易に起こり得る。 (永田)

出典 (財)日本水路協会 海洋情報研究センター海の事典について 情報

百科事典マイペディア 「異常潮位」の意味・わかりやすい解説

異常潮位【いじょうちょうい】

潮位が推算値よりいちじるしくかけ離れた値を示す現象で,一般には異常高潮位をいう。台風による高潮,地震による津波などのように原因が明らかで予報可能なものは含まない。1971年9月,日本の南岸一帯が約2週間にわたって異常な高潮位に見舞われ,浸水被害が起こって大きな問題となった。原因については,黒潮の反流が沿岸に生じ,水位を高めたとする説が有力。

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