甲賀三郎(語り物の主人公)(読み)こうがさぶろう

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

甲賀三郎(語り物の主人公)
こうがさぶろう

信州一宮(いちのみや)の諏訪(すわ)神社の神を説く物語(縁起)として、また近江(おうみ)水口(みなくち)の大岡寺観音堂(かんのんどう)縁起として、中世以降伝えられてきた語り物の主人公。内容は、近江甲賀郡の地頭の3人兄弟の末っ子の三郎の、貴種流離譚(たん)である。

 三郎は惣追捕使(そうついぶし)の地位で大和(やまと)国守となり、春日(かすが)神社参拝のおりに春日権現(ごんげん)の娘の春日姫を娶(めと)るが、伊吹山(いぶきやま)での狩猟の際に行方不明となる。三郎は捜索の旅に出て信州蓼科(たてしな)山の人穴(ひとあな)に入り再会できるが、兄たちの奸計(かんけい)にあい地底の世界を流浪するはめとなる。数々の地底国を巡り維縵国(ゆいまんこく)で国王の娘と契りを結ぶ。地上に帰るのに国王父娘の協力で苦労しながらも無事に戻るが、三郎はいつのまにか蛇と化していた。しかし釈迦(しゃか)堂の下に潜んでいるときに説法僧の会話から人間に帰る法術を知る。やがて春日姫と再会、唐で神道(しんとう)を学び、帰国後に信州岡屋庄(しょう)に現れ、諏訪上下大明神を示現した。

 甲賀三郎実名を頼方(諏方)(よりかた)とするのと、兼家あるいは望月(もちづき)三郎兼家とする系統があり、地下の入口出口なども少しずつ異同があるが、それは語り伝承者の信仰の差によって生じたものであろう。主として、諏訪の神人(じにん)の唱導として語り歩かれ、文献としては『神道集』巻10の50に初出する。安居院(あぐい)流の唱導台本に載ったことで広まり、御伽(おとぎ)草子『諏訪の本地』として室町後期から近世にかけて出版され、古浄瑠璃(こじょうるり)にもなっている。

[渡邊昭五]

『「甲賀三郎の物語」(『定本柳田国男集7』所収・1964・筑摩書房)』『筑土鈴寛著『中世芸文の研究』(1966・有精堂出版)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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