田舎教師(読み)いなかきょうし

精選版 日本国語大辞典 「田舎教師」の意味・読み・例文・類語

いなか‐きょうし ゐなかケウシ【田舎教師】

[1] 〘名〙 田舎学校に勤めている教師
小春(1900)〈国木田独歩〉三「自分は田舎教師(ヰナカケウシ)として此所に一年間滞在して居た」
[2] 小説。田山花袋作。明治四二年(一九〇九)刊。志をいだきながら、貧しさのために苦悩する片田舎代用教員を描く、日本自然主義文学代表作の一つ。

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デジタル大辞泉 「田舎教師」の意味・読み・例文・類語

いなかきょうし〔ゐなかケウシ〕【田舎教師】

田山花袋の小説。明治42年(1909)刊。自我に目覚めながら、貧しさのため片田舎で苦悩のうちに死んでゆく代用教員の悲劇を、モデルの日記と実地踏査をもとに描く。自然主義文学の代表作の一つ。

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改訂新版 世界大百科事典 「田舎教師」の意味・わかりやすい解説

田舎教師 (いなかきょうし)

田山花袋長編小説。1909年(明治42)左久良書房刊。人間の持つ真実を描こうとした花袋が田舎教師小林秀三をモデルに,林清三という人物を造型し,創作したものである。“真”に迫るために“事実”を尊重し,徹底した伝聞調査をおこなっている。日露戦争従軍から帰った花袋は義弟太田玉茗の寺,埼玉県羽生の建福寺で,秀三の真新しい墓標を見て激しく心を動かされ,〈平面描写〉の手法でその生涯を絵巻物のように描いた。中学校を出る時は,近代化されていく明治の青年として,野望に燃え,恋に血をわかし,文学に将来をかけたのであるが,家が没落したうえに,生来病弱な清三はついに結核におかされ,遼陽陥落の日に24歳(事実は21歳)で死んだ。急速に強大化していく日本の社会の底辺に,志を得ずしてたおれた多くの青年の心を,感覚的印象を主体にするゴンクールの〈印象描写〉をも取りいれて,自然の景と人生を花袋自身の青年期の思いに重ねているが,筋のないところにかえって大きな人生を感じさせる作になっている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「田舎教師」の意味・わかりやすい解説

田舎教師
いなかきょうし

田山花袋(かたい)の長編小説。1909年(明治42)左久良書房刊。埼玉県の旧制熊谷中学校を卒業するときは、激しい野望に燃え、ローマン的空気のなかで、文学に将来をかけようとした林清三も、埼玉県羽生(はにゅう)在の弥勒(みろく)尋常高等小学校の代用教員として落とされて行くときには早くも挫折(ざせつ)感と貧困にさいなまれ、同人雑誌の発行、植物研究、音楽学校受験、雲の研究などすべての努力もしょせん無駄な努力と知った。生来病弱であった清三は、ついに結核に冒され、遼陽(りょうよう)陥落の提灯(ちょうちん)行列の声を聞きながら、短い生涯を閉じたのである。ツルゲーネフやゴンクールの「印象描写」を取り入れ、花袋自身の従軍の体験と、日露戦争下の日本の底辺にいる青年の姿を客観的にとらえようとした作である。

[小林一郎]

『『田舎教師』(岩波文庫・旺文社文庫・角川文庫・新潮文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「田舎教師」の意味・わかりやすい解説

田舎教師
いなかきょうし

田山花袋の長編小説。 1909年発表。作者の義兄太田玉茗が住職の埼玉県羽生の建福寺に下宿していた青年の日記をもとに構想された。林清三は,夢多き多感な青年だが,貧困ゆえに田舎の小学校教師として生計を立てざるをえなかった。文学への夢もむなしいものに変っていくとともに生活も乱れてくる。そして,日露戦争の勝利に沸立つ世間をよそに肺を病み,寂しく死んでいく。一青年の閉ざされた暗い半生を,作者の主張する平面描写によって描いた傑作である。

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百科事典マイペディア 「田舎教師」の意味・わかりやすい解説

田舎教師【いなかきょうし】

田山花袋の長編小説。1909年刊。自然主義作家として成長期にあった作者が,実在の一青年の日記に基づき,病弱で貧しい小学校教師の一生を描き,〈平面描写〉論を実践した作品。

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デジタル大辞泉プラス 「田舎教師」の解説

田舎教師

藤田正による戯曲。1956年、第2回新劇戯曲賞(のちの岸田国士戯曲賞)の候補作品となる。

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世界大百科事典(旧版)内の田舎教師の言及

【羽生[市]】より

…1992年東北自動車道羽生インターが開設され,市内を通る国道122号,125号の通過車両が増えている。田山花袋の《田舎教師》の舞台で,曹洞宗建福寺にはモデル小林秀三の墓がある。宝蔵寺沼はムジナモ自生地(天)。…

※「田舎教師」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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