田上杣(読み)たなかみのそま

百科事典マイペディア 「田上杣」の意味・わかりやすい解説

田上杣【たなかみのそま】

近江国栗太(くりた)郡にあった杣。現在の大津市南部。7世紀末,田上山の檜を瀬田川宇治川経由で木津川に流し,藤原京の造営用材としており,《万葉集》では〈淡海の 衣手の 田上山の 真木さく 檜の嬬手(つまで)を もののふの 八十氏河(やそうじがわ)に 玉藻なす 浮かべ流せれ〉と詠まれている。762年の石山寺増改築でも田上山からの雑材や檜皮などを供給したが,作業拠点は田上山作所などとよばれ,伐採は領(監督官)2人,司工(専門工人)2人,鉄工1人,雇工3人,様工6人,仕丁10人らによって行われた(正倉院文書)。またこの当時から雑食器・麻笥など工芸品を作る杣人がおり,1253年にみえる田上輪工は車輪を作る工人(轆轤師か)と考えられる。鎌倉期には修理(すり)職領で,南北朝期には田上荘内として〈牧仲庄杣〉または〈田上杣庄六ケ村〉などとみえ,京都常在光寺領であったが,地頭の楢葉満清および田上牧荘の地頭と思われる朝倉繁清と荘境をめぐって相論になっている。応仁の乱の前の年貢は200石・10貫文であった。

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改訂新版 世界大百科事典 「田上杣」の意味・わかりやすい解説

田上杣 (たなかみのそま)

滋賀県大津市の田上・大石地区一帯の山林に設置された杣。《万葉集》の〈藤原宮の役民の作る歌〉に〈衣手の 田上山の 真木さく 檜の嬬手(つまで)を もののふの 八十氏河(やそうじがわ)に 玉藻なす 浮かべ流せれ〉とあるように,田上山のヒノキ角材を宇治川に流して木津川へ入れ,藤原京造営の用材とした。762年(天平宝字6)の石山寺造営には,造東大寺司管轄下の山林として国家から指定されている。石山寺の用材の大部分は田上杣で伐採されたが,伐採作業は田上山作所の監督官である領2人の下に,専門工人の司工2人,鉄工1人と臨時工人の雇工3人,様工6人,仕丁10人のほか,運送に従事する仕丁,雇夫によって進められた。現場には宿所や炊事所が設定され,材木は曳出道を河川まで運ばれ,筏に組まれて石山まで回漕された。のち田上杣は荘園化し,中世には京都常在光寺領田上杣荘とされ,1439年(永享11)には隣荘の田上牧荘と山境をめぐって争論しており,杣荘側が3町,牧荘が50町を相手側に譲与して決着するよう室町幕府が裁定している。
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