用益権(読み)ようえきけん(英語表記)ususfructus[ラテン]

精選版 日本国語大辞典 「用益権」の意味・読み・例文・類語

ようえき‐けん【用益権】

〘名〙 使用収益権。また、使用収益権のもととなる用益物権賃借権などをさす場合もある。〔英和商業新辞彙(1904)〕

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デジタル大辞泉 「用益権」の意味・読み・例文・類語

ようえき‐けん【用益権】

使用収益権」の略。また、そのもととなる用益物権賃借権などをさすこともある。
旧民法で、他人所有物をその本体を変えないで一定期間使用・収益する物権

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改訂新版 世界大百科事典 「用益権」の意味・わかりやすい解説

用益権 (ようえきけん)
ususfructus[ラテン]

物権の一種で,現在の日本民法にはみられない(旧民法では認められていた)が,ドイツやフランスなど西欧諸国の民法には広く認められている。ローマ法以来の定義によれば,他人の物につき,所有者のためにその物の実体を変更することなく,これを使用しその果実(天然果実および法定果実)を収取しうる権利とされている。この制度は,物の経済上の収益を所有者以外の者に一定の期限付きで帰属させる目的に用いられるが,その応用範囲は広い。古くは寡婦の扶養の目的で,生涯あるいは再婚まで,特定の物または財産の全部または一部に用益権が認められたことがある。家族法上,妻や子の財産に対する家長の用益権や被後見人の財産に対する後見人の用益権があったが,最近の家族法の改革によってこれらの用益権は消滅した。

 用益権は,ローマ法上では人役権とされ,その規定が普通法を経て,近代諸法典や地方法に入っている。用益権の対象は,果実を生ずる物であれば何でもよいが,まず不動産であり,動産はまれである。権利に用益権が設定されることもあるが,その場合,用益権者は法定果実を収取する。全財産が用益権の対象となる場合,財産全体に対する用益権か,個々の客体に対する用益権の総和かについて争いがあるが,ドイツ民法は後者立場をとる(1085条)。物の実体を変更しえないという原則からすれば,用益権は,消費物には成立しえないはずである。しかしローマ法以来,賠償義務付所有権譲渡という意味で,消費物についても変則的な用益権ususfructus irregularisが許されている。用益権者は物を占有し使用収益する権利を有する。他方,物の収益に伴う負担を支払う義務を負う。用益権の終了後は物を原状で返還しなければならないから,たえず修繕補充により物の経済状態を維持しなければならない。用益権者が許されない方法で物を使用する場合,所有者は,担保の提供を請求し,不作為の訴えを提起することができる。用益権の人役権的性質により,その権利は,権利者の死亡のときに,法人の場合は,その解散のときに,消滅する。
執筆者:

日本では,ボアソナードの起草になる旧民法(1890年公布,93年施行予定)には,フランス民法にならって,用益権についてのまとまった規定をおいていたが(財産編44条以下),現行民法には認められていない。旧民法は,いわゆる法典論争の結果,1892年11月,商法とともに施行延期となり,翌93年3月,両法典修正のため,法典調査会が設置された。民法典の具体的な修正を行うにあたって,起草委員は,いくつかの重要問題につき,あらかじめ主査委員会に議案を提出して決議を得たが,その〈乙第8号議案〉は〈用益権ニ関スル規程ハ之ヲ削除スルコト〉であった。削除理由は,用益権に類似する慣習がほとんどない日本には,これを認める必要はないこと,用益権を物権として規定すれば,かえって物の改良・融通を妨げるなどの弊害が起こるという点にあった。これに対し,類似する慣習の存在を指摘し,用益権が認められることによる便利さを主張する存置論があったが,少数意見としてしりぞけられ,結局,用益権の規定は現行民法から全面的に削除されるに至った。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「用益権」の意味・わかりやすい解説

用益権
ようえきけん
Niessbrauch

他人の物または権利に変更を加えることなく,それらから利益を収取しうるドイツ民法上の物権 (1030条1項,1068条1項) 。たとえば,他人の土地について用益権の設定を受けた者は,その土地を耕作して農作物 (天然果実) を収穫することも,またその土地を使用賃貸して賃料 (法定果実) を収取することも,さらに,その土地を駐車場として使用することもできる。株式について用益権が設定されたときには,用益権者が利益配当を受けることができる。用益権は一身専属権であって,譲渡または相続の対象となりえない (1059,1061条) 。用益権は,夫婦間で生存配偶者を扶養するため,農地の譲渡人が譲渡した農地から扶養を受けるため,あるいは債権担保の目的などで設定されることが多い。日本でも,旧民法ではドイツ,フランスなどにならって,これを規定したが,現民法はこれを認めていない。

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