生産性(生物)(読み)せいさんせい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「生産性(生物)」の意味・わかりやすい解説

生産性(生物)
せいさんせい

生物群集の生物生産(生産過程)における生産速度、潜在的生産能力、生産効率あるいは回転率など、生態系内でのエネルギーの流れと物質循環の速度に関係したすべての諸側面を概括する用語。これら諸側面のうち、生産速度の意味に用いられることがもっとも多いようである。すなわち、生物群集の任意の時間当りの生物生産量を表す。

 生物群集の生産者にあっては、光合成あるいは化学合成速度を一次総生産速度(粗生産速度ともいう)、同時に呼吸によって使われた有機物量を差し引いた量を一次純生産速度とよんで区別する。後者は成長速度、死亡速度および被食速度を加えた量でもある。もっとも生産性が高いといわれる熱帯降雨林での一次総生産速度と純生産速度は、乾物量に換算してそれぞれ1年当り・1ヘクタール当り約120トンおよび30トンに達し、日本の照葉樹林では、それぞれ73トンおよび22トンぐらいである。消費者および分解者にあっては、任意の時間当りの有機物吸収量を総同化速度といい、生物体として再合成された量を純同化速度という。また、これらをまとめて二次生産速度とよぶ。栄養段階があがるにつれて、二次生産速度は小さくなっていく。さらに、一次純生産速度のうち、二次生産速度によって利用されずに蓄積される有機物量を群集純生産速度(生態系純生産速度ともいう)とよび、これは若い群集(生態的遷移の初期にある群集)のほうが大きく、極相林では0に近い。この語の定義で重要なのは速度の概念が入っていることで、ある時間断面に存在するバイオマス(生物体量)と混同してはならない。

 生産性あるいは生産力という語は混乱論議をよんできた用語で、現在までにおおよそ前述の四つの意味に用いられてきた。潜在的生産能力とは、ある生態系の自然構造がどれくらいの生物生産を発揮できるかという可能性を含んだ意味で、生産効率とは各栄養段階におけるエネルギーの転換効率、そして回転率とは純生産速度とバイオマスの比率をそれぞれ表す。

[牧 岩男]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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