生物界(読み)セイブツカイ

デジタル大辞泉 「生物界」の意味・読み・例文・類語

せいぶつ‐かい【生物界】

生物総称。また、生物のすんでいる世界

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精選版 日本国語大辞典 「生物界」の意味・読み・例文・類語

せいぶつ‐かい【生物界】

〘名〙 生物の総称。また、生物のすんでいる世界。
※春六題(1921)〈寺田寅彦〉三「春が来ると自然の生物界が急に賑かになる」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「生物界」の意味・わかりやすい解説

生物界
せいぶつかい

一般には生物のすむ世界をいうが、ここでは生物の成り立ち等について説明する。生物界には植物と動物があるという「生物界二分法」が昔から行われてきた。しかし、顕微鏡が発明されて微小な生物が知られるようになってのちは、生物界を三分ないし五分する提案があった。たとえば、動物界、植物界のほかに、微生物界または原生生物界をあげる三分法や、動物界、植物界に菌類界(この場合は真核菌類大部分)、原生生物界(真核菌類の一部と動植物類の一部を含む)、原核生物モネラ)界等を加える五分法の考え方である。これらの考え方に共通していることは、細菌類原核菌類)と藍藻(らんそう)類(原核植物類)とが原核細胞であるので一括し、いわゆる菌類とは別に扱っていることである。これらの「生物界三分法」ないし「五分法」は、常識的な二分法にとってかわることはできなかった。ここで新たな生物界三分法を説明するが、その前に、生物界が何億年間も繁栄を続けてきた基盤はなにかということを考えてみたい。

[寺川博典]

生物界の成り立ち

植物類は、光合成によって二酸化炭素を同化して有機物をつくって生活し、他の生物は、この有機物を利用して生活している。しかし、地球上の二酸化炭素の量には限りがあり、もし補給されなければ250~300年で使い尽くされてしまう。ところが現実には、二酸化炭素の減少がおきない。これは、動物類が酸素呼吸を行って二酸化炭素を出しているためと考えられがちであるが、実際には、植物類が使用する二酸化炭素の大半は、菌類(原核菌類と真核菌類)の、有機物を無機物である二酸化炭素に還元する働きによって得られているのである。したがって、動物類はむしろ、有機物体を細かく砕くことによって菌類の働きやすい条件をつくっているという点のほうが重要である。このように生物界は、植物類、動物類、菌類の三者によって構成され、地球規模で物質循環を行う地球生態系がつくられている。この物質循環は、地球上における有限の物質を無限に利用する道を開いたものであり、生物界繁栄の基盤といえる。物質循環の仕組みは、原始海洋中で原始生物群が三方向に分化することによって始まった。三生物群はそれぞれの働きをより有効にする方向へと体制が進化し、その体制を土台にして生殖法が発達して現在のような三つの生物系統群ができあがった。以下、それぞれの生物群の特徴をあげる。

[寺川博典]

植物類の特徴

(1)栄養法 二酸化炭素と水を周りの無機的環境(非生物界)から取り入れ、葉緑体のクロロフィルがとらえた光のエネルギーによってこれをブドウ糖に合成し、酸素を放出する。ブドウ糖は葉緑体の膜を通して他の部分に吸収されていく。ブドウ糖を基にして他の有機物もつくられ、植物体は成長する。地球生態系での植物類の位置は「生産者」である。(2)体制と生殖 原核植物の細胞構造は簡単であるが、真核植物の細胞内には膜で包まれた核と葉緑体とミトコンドリア細胞小器官)がある。植物類では、光利用の栄養法を効果的にする方向へと体制が進化し、茎葉体が発達して、葉を広げて生活する体制となった。この体制を土台として、性因子による雌雄性が発達して卵と精子、または卵と精核が接合する生殖法が生じた。植物類は、接合子から休眠胚(はい)を経て、細胞が三方向に三次元の分裂を行い、分裂に伴って新しい細胞が三方向に積み重なる形で組織が形成されて複相体となり、成長していく。植物類の代表的生活環は準複相環である。

[寺川博典]

動物類の特徴

(1)栄養法 動物類にはクロロフィルがないため、無機物から有機物を合成することはできない。したがって、動物類では植物類の有機物を捕食するが、その大部分は糞(ふん)として排出される。肉食動物の場合も、その餌(えさ)になる動物をさかのぼれば、植物を餌にしているわけである。このような栄養法を消化吸収とよぶ。地球生態系での動物類の位置は「消費者」であるが、単なる消費者ではなく、有機物を消費することによって、菌類の還元作用を助けている。なお、菌類が動物の糞と遺体を分解して還元する場合と、その動物が死ぬまでの餌に相当する量の植物体を直接分解して還元する場合を比べたとき、前者のほうが能率的で早い。(2)体制と生殖 動物類はすべてが真核動物であり、その細胞内には膜で包まれた核とミトコンドリアがある。動物類にあっては、捕食して消化吸収する栄養法を効果的にする方向へと体制が進化し、腸体腔(こう)が発達して、動いて生活する体制となった。この体制を基に、性因子による雌雄性が発達して卵と精子が接合する生殖法が生じた。動物類では、受精卵が分割してできた多くの細胞が中空の球状に配列し、その一部が中に陥入して体内組織のもとができる。つまり、三次元のはめ込み式に組織ができて複相体となり、成長していく。動物類の生活環は複相環である。

[寺川博典]

菌類の特徴

(1)栄養法 菌類にはクロロフィルがなく、他の生物体に由来する有機物を吸収して無機物に還元する。この栄養法を吸収とよぶ。植物体をつくっているセルロースは、二酸化炭素の原料であり、その量も地球上で最多のものであるが、その分解の主役は菌類である(セルロース分解動物は2~3種類にすぎない)。地球生態系における菌類の位置は「還元者」である。(2)体制と生殖 菌類には原核菌類と真核菌類があり、後者の細胞内には膜で包まれた核とミトコンドリアがある。菌類では吸収という栄養法を効果的にする方向へと体制が進化し、菌糸体が発達して基物に潜って生活する体制となった。この体制を土台にして、不和合因子による交配系が発達し、動植物類にはみられない菌糸組織からなる子実体を形成して胞子をつくるという繁殖法が生じた。菌糸は、細胞が一方向に一次元の分裂を行い、細胞が一方向に積み重なる形で形成される組織である。菌類の代表的な生活環は単重相環である。

[寺川博典]

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