生活時間(読み)せいかつじかん(英語表記)hours of living
Lebenszeit[ドイツ]

改訂新版 世界大百科事典 「生活時間」の意味・わかりやすい解説

生活時間 (せいかつじかん)
hours of living
Lebenszeit[ドイツ]

人間の生命活動は,労働生活とそれ以外の消費生活の局面に分けられる。この人間生活とりわけ後者の局面の内容別に費やされる時間の量の構成を生活時間とよぶ。賃金労働者の場合,前者はK.マルクスのいう〈疎外された労働〉の時間であり,資本家の指揮命令に従う不自由な時間となる。後者は,労働者がどう使おうが自由な時間であるが,まず全時間から労働時間を差し引いた残余を超えられないという量的限定があり,さらにそのなかで生理的欲求と文化的欲求を必ず充足せねばならない。労働時間の延長はまず文化的時間の圧縮を,ついで生理的時間の圧縮をもたらす。
労働時間
執筆者:

エンゲルスの《イギリスにおける労働者階級の状態》(1845)は生活時間研究の先駆的業績であるが,その後の生活時間研究は1924年のS.G.ストルミリンに始まるソ連の研究と,アメリカで30年代に行われたG.A.ランドバーグやP.A.ソローキンらの研究が代表的なものである。前者が社会主義経済もとでの経済計画合理化重点をおくのに対して,後者は余暇研究に始まり生活合理化そのものを重点とするが,いずれも方法としては1日24時間の人間行動を調べる時間割time-budget研究が中心である。第2次大戦後,こうした生活時間調査はアメリカのMBC(Mutual Broadcasting Co.)生活時間調査(1954)やユネスコの各国生活時間調査(1964以降)をはじめ世界各国で行われるようになった。日本でもNHKの〈国民生活時間調査〉が1960年以来5年ごとに実施されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「生活時間」の意味・わかりやすい解説

生活時間
せいかつじかん
hours of living

広義には、1日の生活を時間の面からみたもので、労働時間、家事労働時間、生理的必要充足時間、自由時間に大別される。狭義には、1日のうちから労働時間を差し引いた残りの時間、つまり、労働者が資本の拘束から離れて自由にできる時間をいう。

 機械発明は、労働時間を短縮する物質的条件をつくりだすが、利潤拡大を目的にそれが利用された場合は、かえって労働時間を無制限に延長するための強力なてこに転化し、労働者の生活時間さえが労働時間に変えられてしまう。このため、資本主義のもとでは、工場法によって標準労働日が設定されて初めて、労働時間と狭義の生活時間の区別が明確になる。このような生活時間の確立によって、労働者が知的に発達し、また、社会的交際を深めたり、社会的、政治的な活動をする可能性が開かれる。

 なお、日本ではNHK(日本放送協会)による「国民生活時間調査」が1960年(昭和35)以降5年ごとに行われている。

[湯浅良雄]

『エンゲルス著、マルクス=エンゲルス全集刊行委員会訳『イギリスにおける労働者階級の状態』Ⅲ(大月書店・国民文庫)』『NHK放送文化調査研究所編『国民生活時間調査 昭和60年度』(1986・日本放送出版協会)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「生活時間」の意味・わかりやすい解説

生活時間
せいかつじかん
time of life

生活構造の繰り返しがもつ時間的形式。普通生活時間は,生活構造を担っている主体の単位によって大きく二分される。(1) 個人の場合,誕生から死亡までの全生涯という生活時間(このような全生涯にわたるときは,生活周期〈ライフサイクル〉と呼ぶ)やその個人の 1日の生活。(2) 家族の場合,その成立から消滅までの全期間という生活時間(家族周期と呼ぶ)や家族の 1日の生活時間。また生活構造の日,週,月,年などにおける時間過程としてもとらえられている。生活時間をとらえるには,どの時間帯にどのような生活行動を行なっている人がどれだけいるかという形や,どのような生活行動が 1日に何時間行なわれているかという形でも押さえられるが,生活行動の特質から生活時間を,生活必需時間(睡眠,食事など),社会的拘束時間(労働,家事,学業など),余暇時間(自由選択時間)に分けるのが一般的である。

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知恵蔵 「生活時間」の解説

生活時間

時間は、生活を営む重要な資源である。現代社会は、世界標準時間で生活が規律されており、時間の重要性は高まっている。生活時間とはその中で個人が組み立て過ごす時間をいう。代表的な生活時間調査は社会生活基本調査(総務省)と、国民生活時間調査(NHK放送文化研究所)。国民生活時間調査では、時刻ごとの行動者率が示されているため、家族の起床在宅率の重なりを分析すれば、家族と過ごす時間の減少を指摘できる。

(上村協子 東京家政学院大学教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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