生活型(読み)せいかつけい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「生活型」の意味・わかりやすい解説

生活型
せいかつけい

生物の生活様式を生態的な見地から類型化し、分類した単位で、生活形とも書く。生活型の類型はフンボルト植物の適応形態の分類(1806)から始まり、ワーミングJ. E. B. Warmingによる生態的な体系(1884)、ドュ・リエDu Rietzによる生活型(1931)など先駆的に試みられているが、休眠芽の位置で分類したラウンケルの生活型(1907)がもっとも有名である。ラウンケルは、生活型の体系を設定する際には、気候との関係でとらえるのが本質的であり、かつ取扱いも容易で類別しやすく、しかも統計的に比較できると考え、植物の休眠芽の位置やその保護状態などに着目した。

 ラウンケルはまず樹木を地上植物(Ph)とし、大高木(休眠芽の位置が地上30メートル以上=Mg)、中高木(8~30メートル=Ms)、小高木(2~8メートル=Mc)、低木(0.3~2メートル=N)に分け、さらに多肉植物(S)と着生植物(E)を加えている。さらに矮小(わいしょう)な低木や草本植物は地表植物(0~0.3メートル=Ch)、半地中植物(地表面のすぐ下=H)、地中植物(地表面より離れた地中=G)、水湿生植物(水中または水飽和の地中HH)、および一年生植物(生育不適期を種子で過ごす=Th)に分類している。なお、ラウンケルはこれらのいくつかのタイプをさらに細分化し、それぞれ小群を設けている。

 こうした休眠型を基本とした生活型の分類は、その地域の気候を反映したものとみなすことができる。1908年ラウンケルは、地球上の全植物から無作為に1000種の高等植物を選出して生活型の比率を算出し、これを生活型基準表として示した。さらに、この基準表と特定の地域の植物相から算出した生活型組成を比較することにより、その地域の気候的特性を知ることのできる「植物気候の概念」を提案している。たとえば熱帯多雨林域では地上植物が全種類相の半数以上を占めるため、地上植物気候(略してPh気候)とよぶなどである。同様に、スイスアルプスの高山帯やスピッツベルゲンなどの寒帯地方では厳しい寒さに耐えることのできる地表植物の割合が高く、地表植物気候(Ch気候)となるし、砂漠では年降水量が少なく、乾期を過ごすために一年生草本植物が多く、一年生植物気候(Th気候)となる。日本の温帯地方は半地中植物が多いため、半地中植物気候(H気候)になる。なお、地中植物の場合はあまり明確な地域性はない。

 生活型組成の考え方は、地球規模でのマクロな使い方と同時に、群落の構造や遷移といった狭い地域の植生動態を表す場合にも用いられる。後者の例として、日本では桜島(1964、研究者田川日出夫)、北海道駒(こま)ヶ岳(1966、吉岡邦2)といった火山噴火後の植生遷移と生活型の変化に関する研究がある。さらに比較的スケールの小さい時間内での動きを示す場合の例として、人工草地(1957、沼田真・依田恭二)、竹林(1962、沼田真・青木一子)などの研究がある。

 生活型の概念は狭義にはラウンケルの休眠型を中心とするが、広義にはさらに生育型や繁殖型なども含められる。生育型は植物の生育形態を外形的特徴によって類型化したもので、植物の生活環境や群落構造などをより敏感に反映している。主幹をもつ樹木についての生育型の分類にはダンスロウDansereau(1958)や沼田真(1969)の研究がある。草本植物については沼田‐ギミンガムGiminghamの分類(ギミンガムの方式を沼田が改訂したもの)がある。これは草本植物を直立型(e)、ロゼット型(r)、匍匐(ほふく)型(p)、叢生(そうせい)型(t)、分枝型(b)、つる型(l)、とげ型(sp)などに分類するもので、草地の調査にしばしば用いられている。また、熱帯地方を中心とする維管束をもつ着生植物については、細川隆英によって14の形式が発表されている(1943、1949)。さらにコケ類や地衣類についても研究が行われ、中西哲によって詳細な分類が試みられている(1940)。シュミットヒューゼンSchmithüsenは、専門の植物地理学の立場から地球上の植物を30の生育型にまとめている(1968)。繁殖型は植物の繁殖の仕方を生態的な観点から類型化したもので、種子散布の仕方に着目した散布器官型(D1~D5)と根や匍匐茎の伸長様式を類型化した地下器官型(R1~R5)がある。

 なお、生活型の概念は植物のみではなく、動物にも適用される。たとえば河川の底生昆虫の生活型分類を試みた津田松苗の研究(1953、1962)はその一例である。

[奥田重俊]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「生活型」の意味・わかりやすい解説

生活型 (せいかつがた)
life type

生物の生活様式の類型。それが外形に反映されたものを生活形(せいかつけい)というが,この二つの間に厳密な線を引くことは難しい。生活型は生物の系統的な側面ではなく,生態的な側面を把握するうえで有力な概念であり,取りあげる側面によってさまざまな類型化が可能である。最も広く取るときには代謝様式のような生理的な側面まで含める。例えば光合成様式についてのC4植物とか,窒素代謝終産物についてのアンモニア動物,尿素動物,尿酸動物とかの類型がそれである。その意味では独立栄養生物と従属栄養生物という類型も生活型の一つといえる。しかしふつうには,植物の種子散布などを含めた繁殖様式や生育様式,動物の運動様式,食性や摂食様式,生活場所などについての類型が個々に取り上げられることが多い。これらは相互に関連していることもしばしばあり,外形に反映されていることもある。そのため生活型を包括的に整理する試みはほとんどなされていない。

 二,三の例を挙げると,陽生植物と陰生植物,受粉様式における虫媒植物と風媒植物,種子散布様式における風散布植物と動物体に付着して散布する植物,草食動物と肉食動物などがよく知られている。土壌動物というのも生活型の一つである。特殊な食性についての類型としては,リター・フィーダーlitter-feeder(落葉,落枝を食べる動物),デトライタス(またはデトリタス)・フィーダーdetritus-feeder(生物の遺体を食べる動物。枯食者ともいう)があり,特殊な摂食様式としてフィルター・フィーダーfilter-feeder(水中でプランクトン類をろ過して食べる動物。ろ過食者ともいう)という類型がある。

 生活型として最もよく使われるのは,水中生物についてのプランクトンplankton(浮遊生物),ネクトンnekton(遊泳生物),ベントスbenthos(底生生物)という類型であろう。これは呼び名の示すとおり,生物の遊泳能力にもとづく生活型分類である。ネクトンは魚類,頭足類,エビ類,水生哺乳類など,みずから泳いで移動する能力をもつもの。プランクトンは水中で生活するが漂うだけで,移動能力をもたない微小な動植物。ベントスは遊泳能力がなく,水底で生活する動植物をいう。このうちベントスについては,さらに表生性epifaunalと内生性infaunalという類型化がなされることもある。生活様式というのは本来,種を単位として,種の属性としてとらえられるものであるが,例えばエビの類が成長につれて,その生活型をプランクトンからネクトンに転じるように,しばしば年齢,性,社会的地位などによって変化する。したがって,生活型の語は個体群や個体についても用いられることがある。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の生活型の言及

【生活形】より

… 動物の場合,生活形による類型化は系統分類とほぼ一致するため,実際上用いられない。 生物の生活様式そのものを類型化したものを生活型(せいかつがた)といい,しばしば生活形と混同されることがある。植物の場合,陽生植物,陰生植物とか,高山生,好石灰岩生などの生育の様式で示すことがある。…

※「生活型」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android