日本大百科全書(ニッポニカ) 「現像」の意味・わかりやすい解説
現像
げんぞう
露光その他の方法によってフィルムや印画紙の上に生じた目に見えない像、つまり潜像を可視像に変えることをいい、化学現像法、物理現像法などあるが、今日、後者で処理されることはまれである。一般に現像という場合は、現像の全行程をさすが、狭義には行程中の現像処理のみをいう。
普通のカメラで撮影したフィルムには肉眼で見ることのできない像、つまり潜像ができているが、これはハロゲン化銀の場合、数個以上の銀原子でつくられていると考えられている。
化学現像法は、還元剤(現像主薬)を含む溶液により、潜像を形成するハロゲン化銀を還元し、金属銀を析出させて可視像をつくらせる方法で、今日の一般的な現像法である。
物理現像法は、可溶性銀塩と還元剤を含む溶液から潜像上に金属銀を析出させて可視像をつくる方法をいい、インスタント・カメラのモノクロフィルムはこの方法でポジ像が形成される。
[伊藤詩唱]
モノクロフィルムの現像
現像の行程は一般に、現像→定着→水洗→乾燥の手順で行われる。撮影済みのフィルムを現像すると、光の当たった量に比例して黒色の金属銀を析出し、画像が形成される。したがって被写体の明暗とは正反対のいわゆるネガ像ができる。現像によって画像ができたフィルムの、光の当たらなかった部分や光の弱かった部分には、現像されなかった余分のハロゲン化銀が残っているので、これを除去するために定着を行う。現像や定着が終わったフィルムをそのまま乾燥すると、膜面に残っている定着剤などのために変色し保存に耐えないので、フィルムを水洗してから乾燥する。
現像液は、メトール、ハイドロキノン、フェニドンなどを主薬とする溶液で、そのほか主薬の酸化するのを防ぐ保恒剤(亜硫酸ソーダなど)、溶液をアルカリ性にして作用を活発化させる促進剤(炭酸ソーダ、ホウ砂、メタホウ酸ソーダなど)、その反対の作用をする抑制剤(ブロムカリなど)などの混合溶液である。
モノクロフィルム用現像液では、1926年アメリカのコダック社が発表した処方「D‐76」が、もっとも一般的で有名である。
定着液は、ハロゲン化銀を溶解除去する定着主剤(チオ硫酸ナトリウムまたはチオ硫酸アンモニウム)、主剤の分解を防止する保恒剤、酸剤(酢酸)、緩衝剤(ホウ酸、メタホウ酸ナトリウムなど)、硬膜剤(カリミョウバンなど)などの混合溶液で、通常は酸性である。現像液は弱アルカリ性なので、停止液(1.5%酢酸液)を使って中和後、定着を行うのが普通である。
[伊藤詩唱]
現像の特性
現像液の処方によって、ネガの仕上り方は変化するが、処方が一定の場合には現像液の温度、現像時間、攪拌(かくはん)の度合いに応じて濃くも薄くもなり、コントラスト(明暗の対比の大きいものを硬調、小さいものを軟調という)も強くなったり弱くなったりする。この原理を応用して、実用的なフィルム感度を増大させることもできる。したがって、引伸しなどをするために最適の濃度とコントラストのフィルムを得るために、温度、現像時間、攪拌の度合いなどをコントロールする必要がある。乳剤中に浸透した現像液は、光を受けたハロゲン化銀を還元し、金属銀を生成させるが、同時に、現像液自身は酸化し現像能力を失うため、攪拌すること(フィルムを動かす、現像液を動かすなどの混合法)により、フィルム面に絶えず新しい現像液を触れさせ、乳剤中の酸化した液と新しい液とを交換させる必要がある。
[伊藤詩唱]
現像の実際
現像に使用される薬液は、処方に従って調製することもできるが、一般には既製調合薬を使用するのが簡便である。フィルムを現像するには、平皿(バット)、小型現像タンク、大型現像タンクなどを使用するが、現像温度、時間、攪拌の調節が比較的容易にできる小型現像タンクが広く採用されている。
以下に、現像に際してのチェックポイントを列挙する。
(1)濃度やコントラストの適否について 最近のAE(自動露出)カメラで正しく感度をあわせて撮影し、指定されたとおりに現像処理すれば標準的なネガが得られるはずである。したがって、ネガが不良な場合は、現像温度と時間の間違いがなかったかをチェックする。
(2)フィルム面の傷の有無 フィルムに傷がつくのは、ほとんどが、フィルムを拭(ふ)くときのスポンジに付着した砂などのごみによる擦り傷である。
(3)現像むらの有無 現像中にフィルムが重なっていたり、フィルム面に気泡をつけたままにしたり、攪拌が不適当であったりすると、一定の濃度で現像されなければならない部分が不均一となり、画面に雲状や帯状、または円形の濃度の違う部分ができる。むらが発生すると、画像が破壊されてしまうので、小型現像タンクでは構造的にむらの出にくいタイプを使用することがたいせつである。
その他のモノクロフィルムとしてインスタント・カメラ用フィルムがあるが、これらは物理現像法により、カメラの内部で行われる。また特殊なフィルムとして、単に加熱するだけで現像され、放置冷却することにより定着する、マイクロフィルムの複製などに使用されるものもある。現在はあまり使用されなくなったが、カラーリバーサルフィルムの現像法に応用されている「反転現像法」を行い、直接モノクロポジフィルムをつくる現像法もある。
モノクロ印画紙の現像は、基本的にはモノクロフィルムの現像法と同じであるが、現像液の薬品の配合量などが多少異なる。
[伊藤詩唱]
カラー感光材料の現像
カラー感光材料の現像は、乳剤中の感光したハロゲン化銀を還元し金属銀を生成させ、銀画像をつくらせるとともに、銀画像に比例した色画像をつくらせる発色現像を行ったのち、不必要な銀画像やハロゲン化銀を漂白・定着し色画像だけを残すのが基本の工程である。発色現像は、感光したハロゲン化銀を還元した発色現像主薬の酸化物が、乳剤中(内型)または現像液中(外型)のカプラーと反応して色素を生成し、色画像を形成することをいう。発色現像主薬としては、パラフェニレンジアミン誘導体(ジエチルパラミンなど)の硫酸塩などが使用される。漂白は、銀画像を形成する金属銀をハロゲン化銀に戻すことをいい、漂白主剤としてEDTA(エチレンジアミンテトラ酢酸)鉄キレートが主として使用されている。カラー感光材料の現像は、この処理を専業としているカラーラボに依頼するのが普通である。とくに外型カラーフィルムはその工程が複雑なので、特定の現像所以外では処理できない。内型カラー感光材料(カラーネガフィルムなど)は、特殊なものを除き、同一の処方による現像液で処理することができる。これらの処方は発表されていないが、既製調合薬が市販されているので自家現像が可能である。またカラーバランスを保つために、処理温度の許容範囲と時間が厳しく定められているが、基本的にはモノクロの現像法と変わるところはない。
カラーネガフィルムの現像は、撮影したカラーネガフィルムを発色現像すると、各乳剤層のカプラーはカラーネガに発色するので、発色現像→漂白→水洗→定着→水洗→安定→乾燥の手順で処理する。カラーネガ像はマゼンタベース上にできる。
内型カラーリバーサルフィルムの現像は、感光する色光の補色(カラーネガフィルムの色)に発色するようカプラーが加えられているので、まず黒白ネガに現像し、未現像の乳剤を薬液により化学的にかぶらせ(反転させ)てから発色現像すると、ポジの銀画像ができると同時に、被写体と同じ色のポジの色画像ができる。手順は、黒白ネガ現像(第一現像ともいう)→反転→発色現像→コンディショナー→漂白→定着→水洗→安定→乾燥と処理される。
ポジ・ポジタイプのカラーペーパーの現像は、カラーリバーサルフィルムと同様に処理する。またネガ・ポジタイプのカラーペーパーは、発色現像→漂白定着(漂白と定着を同時に行う)→水洗→乾燥の順に行って、ポジのプリントを得ることができる。
外型カラーリバーサルフィルムの現像は、乳剤中にカプラーを含まないため、カプラーを含む3種の発色現像液で3層を別々に発色させなければならず、黒白ネガ現像→赤色光反転露光→シアン発色現像→青色光反転露光→イエロー発色現像→白光露光あるいは反転浴→マゼンタ発色現像→漂白→定着→水洗→安定→乾燥と複雑な手順で行われる。
[伊藤詩唱]