班田制(読み)はんでんせい

精選版 日本国語大辞典 「班田制」の意味・読み・例文・類語

はんでん‐せい【班田制】

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改訂新版 世界大百科事典 「班田制」の意味・わかりやすい解説

班田制 (はんでんせい)

狭義にはほぼ班田収授法と同義に用いられることもあるが,一般にはやや広く,7世紀後半から10世紀初頭にいたる律令体制下の,日本古代の土地制度を示す語として用いられる。律令制では,実態はともかく建前としては,すべての人民村落に定住する水稲耕作民として把握し,これを国家が直接支配するために,すべての人民を〈戸〉に編成して戸籍を造り(編戸造籍),その戸籍に基づいて班田収授を行うとともに,計帳を作製して調庸などの人頭税を賦課するというシステムをとっていた。したがって《日本書紀》大化2年(646)正月条所載のいわゆる〈改新之詔〉の第3条に〈初めて戸籍・計帳・班田収授の法を造る〉とあるのは,この文言がそのまま,あるいはこれに類した形で大化当時の原〈改新之詔〉に存在したか否かは別として,少なくとも律令国家の基本的な人民支配事項がこの三つに集約されていたことを示している。当時の文献に,律令制下の人民について〈編戸の民〉〈調庸の民〉などと表現する例がしばしば見られることや,また現在の学界でこれとほぼ同義で〈班田農民〉という語が常用されることなども,この間の事情を物語っていると言うべきであろう。

 養老令の規定によれば,土地はおよそ(1)水田,(2)園地と宅地,(3)山川藪沢(または空閑地)の3種に大別することができる。(1)の水田は原則として私有を認めず,国家の直接の管理の下に置かれた。(2)の園地と宅地とは,その取扱いについて両者の間にやや相違はあるが,ほぼ私有に近い用益権や処分権が認められた。そして(3)の山川藪沢とは,(1)(2)以外のすべての土地をさし,その私有は認められず,禁野以外の土地は人民の焼畑耕作や採草その他の共同利用に任せられた。一般に律令体制の基本理念として〈公地公民〉ということが言われるが,その公地制すなわち土地私有の否認という原理は,経済的価値の最も高い水田において貫徹しており,ついで山川藪沢の一部すなわちとくに空閑地と表現される開墾可能な原野においてもなお維持されていた。したがって私有に近い権利を認められていた園地と宅地とは,むしろ例外的な取扱いを受けていたと見ることができよう。それは,この小規模で分散的な園地・宅地については,律令法成立以前の日本社会において,すでに各農家の私有権が成立していたという歴史的背景によるものであろう。一方,水田の経営のためには,灌漑設備が不可欠であり,その設備を維持し管理することは個々の農家では不可能であったという事情も考えあわす必要があろう。水田が公有であったことの背景には,〈公水主義〉とでも名づけらるべき理念と,灌漑設備の国家管理という実態とが存在したと考えなければならない。このことは律令中にとくに明確に規定されているわけではないが,しかしこのような理念と実態の存在したことは,この時代の史料を通じて随所に看取されるのである。

 律令土地法では,経済的価値の高い水田に対しては詳細に規制し,その占有や耕作の制度を〈班田収授法〉として確立していながら,農耕社会における重要な課題の一つである未墾地の開発については,ほとんど何も規定していないに等しい。これはモデルとなった唐の土地法とかなり相違する点で,わが律令土地法の欠陥と言うべきものである。したがって723年(養老7)発布の〈三世一身法〉や743年(天平15)発布の〈墾田永年私財法〉は,一面において確かにこの欠落部分を補完する性質を持っていたと見てよい。ただし,同時に,三世一身法はともかくとして,墾田永年私財法は水田の永代私有を認めた点で,律令土地法の重要な骨組みをくずす端緒となったことも事実である。したがって8世紀後半以降の班田制は,貴族・豪族・寺院などによる土地私有(初期荘園制)の発展も包含した律令体制としてダイナミックにとらえる必要がある。
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