精選版 日本国語大辞典 「玉」の意味・読み・例文・類語
ぎょく【玉】
ごく【玉】
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美しい光沢のある特殊な材料をさす場合にも,その材料で作った装身具などの製品をさす場合にも用いる。珠とも書く。材料としての〈たま〉には,硬玉,軟玉などの玉(ぎよく)のほかに,水晶,ザクロ石,メノウ,碧玉,トルコ石,コハク,埋木(うもれぎ)などの各種の鉱物から,真珠,サンゴなどの動物性のものも含まれる。ただし,何を〈たま〉のうちにいれるかは,時代や地域によってちがいがあり,科学的な成分のほかに,希少性にもとづく価値と,習慣による需要とが,その選定の大きな要因になっている。
装身具として用いる玉は,そのままでも〈たま〉といえる材料で作ることが多いが,金,銀やガラスなどの人工の材料,木の実や骨,角,牙,貝などの加工しやすい天然の材料で作ることも少なくない。これらの玉には,緒を通してつなぐために,貫通した孔があり,それぞれの形と孔の位置とによって,種々の名称がついている。日本でふつうに用いる玉の名称をあげると,勾玉(まがたま),管玉(くだたま),丸玉,棗玉(なつめだま),平玉(ひらだま),算盤玉(そろばんだま),切子玉(きりこだま)などがおもなものである。勾玉は湾曲した体のふくらんだ一端に偏して孔をあけたもの,管玉は細長い管状のもの,丸玉は球状のもの,棗玉は丸玉をやや長くした形のもの,平玉は扁球形で平らな面に平行に孔をあけたもの,算盤玉は二つの截頭円錐体を底面で接合した形のもの,切子玉は二つの截頭角錐体を底面で接合した形のものである。このほかに,小型の丸玉または算盤玉を小玉(こだま)と総称することが多い。江戸期の学者は,低い円壔(えんとう)形の滑石製の玉に臼玉(うすだま)の名をつけたが,滑石製小玉と呼べばよい。奈良時代に刺玉(さすだま)と呼んだものは,緒に刺し通す意味で,形からいえば丸玉あるいは小玉の類である。さらに特殊な形の玉として,蜜柑玉(みかんだま),山梔玉(くちなしだま)などの形の類似によるもの,捩玉(ねじだま)のように加工の方法によるもの,トンボ(蜻蛉)玉のように色彩の変化によるものなどの,変わった名称の玉もある。蜜柑玉は丸玉の表面に縦にくぼんだ溝をつけたもの,山梔玉は棗玉の表面に縦に溝をつけたものである。捩玉はガラスの丸玉の表面を鉄製の工具ではさんで捩ったもので,決まった基本形はない。トンボ玉はふつうは丸玉を基本形とする。なお金,銀を材料とした玉には,重量を軽減するために,分離した二つの半球形を組み合わせて中空に作ったものがあって,これらを空玉(うつろだま)と総称している。
以上の各種の玉には,みなその中心を貫通する孔があけてあるが,なかには特殊な用途に応じて,変わったあけ方をした孔をもつ玉がある。たとえば,丸玉に2方向から孔をあけて,それが十字形またはT字形に交差するものを,とくに辻玉(つじだま)と呼ぶことがある。これは数珠(じゆず)などの,緒の交点に用いる玉である。また孔が貫通せずに終わっているものに,緒の先端をさしこんで用いる場合,これを露玉(つゆだま)ということもある。玉を装身具として用いるにあたって,管玉や丸玉のような同種の玉を数多く緒につなぐ場合と,それに勾玉などの異種の玉をまじえる場合とがある。したがって,玉を数える場合にも,何顆,何珠と個数をいう場合と,何条,何連と緒に通した数をいう場合とがある。《古事記》に〈八尺勾璁(やさかのまがたま)〉というのは,緒に通した長さをいうものであり,〈五百津之美須麻流之珠(いおつのみすまるのたま)〉というのは,数の多さを五百個と形容したものであるが,もちろん勾玉ばかりをつないだものではない。なお玉は,他の装身具の装飾にも用いることがあった。小玉を衣服にとじつけることは,しばしば行われたはずである。古墳出土の金銅冠や金銅履(くつ)に,ガラス小玉を一つ一つ銅線でとじつけたものがあり,韓国では金冠に硬玉,ガラスの勾玉を垂下した例が多い。東大寺法華堂本尊(不空羂索観音)の宝冠に,勾玉,管玉,切子玉,小玉など2万数千個の珠玉を銀線に貫いて飾りつけているのは,玉の用法から逸脱したとはいえないが,正倉院の金銅幡(ばん)にとりつけた勾玉になると,そのために第2の孔をあけるなどして,まったくの転用であることを示している。
執筆者:小林 行雄
中国で色,光沢の美しい石を玉という。古くからおもに今の新疆ウイグル自治区崑崙山麓のホータンに産し,玉門関を通って中原にもたらされた。この美しい石に,太古の中国人は神秘な力を見いだし珍重してきた。初め神や霊魂をよらしめるもの,邪悪を払う呪力を持つもの,あるいは生成力,再生力の霊力を持つものと信じられ,呪術の具として使われた。おそらく玉に対するこの呪物観念は,石を神聖視し崇拝した原始の信仰と同源であろう。殷・周時代になって,儀礼の発展と制度化によって,玉はさまざまな形態と用途の礼器として大量に加工された。腰帯にさげた佩玉(はいぎよく)は本来は悪気からの護身のためであった。《詩経》衛風・木瓜に〈我に投ずるに木瓜を以てす,これに報ずるに瓊琚(けいきよ)(玉の名)を以てす〉とある,求愛の際の佩玉の贈答は霊魂の授受という呪術に発したものと考えられる。
古く玉を食べる習慣もあり,《周礼(しゆらい)》王府職に,王が斎(ものいみ)の儀式にあたって玉を食べる記事が見えるし,《楚辞》にも玉を食餌とする辞句が散見する。のちに神仙家の間では,玉を粒や粉にして水薬,丸薬,粘薬とした〈玉漿(ぎよくしよう)〉〈玉屑(ぎよくせつ)〉〈玉膏(ぎよくこう)〉などの仙薬が服用されたらしい。この食玉の風習も玉の呪力を体内にとりこみ止めるという呪術に由来し,その後に長寿延命を保つ法として受け継がれたと見られる。また,死者の口に含ませる〈含玉〉や手に握らせる〈握〉など副葬の玉器〈葬玉〉,玉片を金糸銀糸で綴って死者に着せた〈金縷(きんる)玉衣〉〈銀縷玉衣〉なども,もとはやはり玉に生成力,再生力をみとめ死者の復活を願ったのが起源であろう。葬玉の風習は六朝以降廃れるが,南中国の一部の地方では近年まで死者の口に翡翠(ひすい)(硬玉)をはませていた。
玉に対する呪物観念は周代すでにシンボリックな意味に転化しはじめており,玉は人徳,権威,位階,友愛などの象徴となった。とりわけ玉には種々の〈徳〉がそなわっていると信じられ,仁,義,智,勇,潔の五徳(《説文》玉字説解)のほか,九徳(《管子》水地篇)とか,十徳(《礼記》聘義)があるとされた。《礼記》玉藻に〈君子は玉に於て徳を比す〉とあるように,身に佩(お)びる玉は君子の徳の表象と考えられた。玉の持つ徳にあやかる意味もあったであろう。名前に玉の字をはじめ玉偏の文字が好んでつけられたり,玉のきず〈玷(てん)〉〈瑕(か)〉が人品の欠点,過失にたとえられるのもこうした信仰を背景にしている。中国伝統の〈徳〉の概念は起源的には呪力の概念化されたものだという説もある。後世玉に対する信仰心はしだいに薄れ,玉器は鑑賞用の工芸品として尊ばれるに至った。神話,説話の世界では,玉は不老不死の秘薬を持つとされる女神〈西王母〉と深い関係があり,この女神は玉山に住むとか,帝舜のときに来朝して玉を献上した話がある。また蛇神,竜神は口内,頭などに玉の呪宝を持つという俗信もある。
→玉器(ぎょっき)
執筆者:鈴木 健之
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身体装飾に用いる垂飾(すいしょく)のうち孔をあけたものをいう。形態から勾玉(まがたま)・管玉(くだたま)・切子玉(きりこだま)・棗玉(なつめだま)・臼玉・丸玉・蜜柑玉(みかんだま)・山梔玉(くちなしだま)・算盤玉(そろばんだま)・平玉・小玉とよばれ,ガラスの地に別の色のガラスをはめこんだ蜻蛉玉(とんぼだま)を含め,総称して玉類という。材質は硬玉・碧玉(へきぎょく)・メノウ・水晶・蛇紋(じゃもん)岩・琥珀(こはく)・ガラスなどがあり,古墳後期に現れる中空に作った空玉(うつろだま)は金・銀・金銅製である。日本最古の玉は,北海道の旧石器後期の遺跡から出土した石製小玉である。縄文時代には硬玉製大珠(たいしゅ)が流行し,弥生時代には管玉が盛行するとともに,ガラス製の玉も作られ始めた。さまざまな種類・材質がそろうのは古墳時代で,古墳の副葬品としてしばしば出土。その後は飛鳥寺の塔心礎から出土した勾玉・丸玉・空玉・蜻蛉玉のように,寺院の鎮壇具や舎利荘厳具(しゃりしょうごんぐ)としても一部で使用された。
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