玉・珠・球(読み)たま

精選版 日本国語大辞典 「玉・珠・球」の意味・読み・例文・類語

たま【玉・珠・球】

[1] (「たま(魂)」と同語源)
① 球形あるいはそれに近い形の美しくて小さい石などで、装飾品となるものを総称していう。古くは、呪術的な要素を伴うものもあり、鉱物に限らず、動植物製のものをも広く含めていう。
※仏足石歌(753頃)「善き人の 正目(まさめ)に見けむ 御足跡(みあと)すらを 我はえ見ずて 石(いは)に彫(ゑ)りつく 多麻(タマ)に彫りつく」 〔名語記(1275)〕
② 特に真珠をさしていう。まだま。しらたま。
書紀(720)武烈即位前・歌謡「琴頭(ことがみ)に 来居る影媛 (タマ)ならば 吾が欲る(タマ)の 鰒白珠(あはびしらたま)
③ その形が①に似ているものをいう。
(イ) 水の玉の意で、露、水滴水泡、または涙などをさしていう。
古今(905‐914)物名・四二四「浪のうつせみればたまぞみだれけるひろはば袖にはかなからむや〈在原滋春〉」
※浮世草子・本朝二十不孝(1686)四「扨も扨も嬉しやと 袖に玉(タマ)をながしぬ」
(ロ) (「弾・弾丸」とも書く) (初期のものは丸くなっていたところから) 弾丸。
※信長記(1622)三「是は杉谷善住坊といひし鉄炮の上手、〈略〉二つ玉(タマ)をもって纔十間ばかりにてうちはづし申事も」
(ハ) そろばんの五珠と一珠。
※咄本・無事志有意(1798)十露盤「上の玉を五玉といふは」
(ニ) 電球
※桑の実(1913)〈鈴木三重吉〉一五「おくみは二階の十六燭の電球(タマ)をはづして来て」
(ホ) レンズ。特にめがねのレンズ、カメラのレンズをいう。
※狂歌・万載狂歌集(1783)五「月かけをうつすめがねの玉うさぎひたゐの波にかけてこそみれ」
(ヘ) 遊戯やスポーツに用いる球形のもの。ボール。または、その動き。
小学読本(1873)〈田中義廉〉一「私は棒を以て、球を打つを見たり」
(ト) 玉突きに用いる球。転じて、玉突きのゲームをもいう。撞球(どうきゅう)ビリヤード
※野分(1907)〈夏目漱石〉二「下で球(タマ)でも突いて居たのか知らん」
(チ) 男子の生殖器。「きんたま」の略。
※全九集(1566頃)五「へのこはれやぶれ黄水いづ、玉もかたくはれ痛み」
(リ) 一般に、玉状にまとめたものを一括していう。「うどんの玉」「毛糸の玉」など。
怪談牡丹燈籠(1884)〈三遊亭円朝〉一五「煙艸を二玉(たま)に、草鞋の良(よい)のを取て参れ」
(ヌ) 紋所の名。①の形にかたどったもの。玉、三つ割り玉、火焔の玉、曲玉など。
④ ①のように美しいもの、貴重なものの意。→たまの
(イ) 美しい女性。また、女性の美貌。
※談義本・当世穴噺(1771)三「素人の娘でも女(タマ)さへよければ高賃を出してやとい」
(ロ) 転じて、遊女、芸者などのこと。
浄瑠璃伽羅先代萩(1785)一「さる方から高尾を身請、言て来ても肝心の玉が知れぬで方々へ尋歩此才助」
(ハ) すぐれた人、気のきいた者。
滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二「その外に川魚屋もまだまあ多(やっ)とあれどナ。玉(タマ)といふたら的等(てきら)じゃ」
(ニ) 大事な人や物。話題や事件の焦点となっている人物や物。そのもの。そいつ。
梁塵秘抄(1179頃)二「三身仏性たまはあれど、生死(さうじ)の塵にぞ汚れたる」
⑤ (④から転じて) 一般に人や物をそれとさしていう。
(イ) そういう人物、その程度の人物の意で用いる。軽くあざけっていう場合が多い。
西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉六「ときどきぬるい茶を汲んでこられる輩(タマ)だらう」
(ロ) 策略などの手段に用いるもの。人、物、金銭などについていう。また、単に現物、あるいは資金としての現金などをさしていう。→玉が上がる玉に掛ける玉に使う
※歌舞伎・彩入御伽草(1808)皿屋敷の場「鉄山どのを玉にして、この縁先にてどれあふ様子」
蒟蒻(こんにゃく)をいう女房詞。〔随筆・貞丈雑記(1784頃)〕
⑦ (「親玉」の略) 親玉。第一のもの。第一人者。〔浪花聞書(1819頃)〕
⑧ 「たまご(卵)」の略。「掻(か)きたま」
⑨ 魚をすくい捕る小形の網、攩網(たも)のこと。すくいだま。たもあみ。
※俳諧・本朝文選(1706)二・賦類・湖水賦〈李由〉「汐ならぬ海士のいとなみもをかしけれ。大網、巻網、四手(よつで)、跡掛、手丸(タマ)、唐網」
⑩ 綱(つな)をいう。〔談義本・虚実馬鹿語(1771)〕
⑪ 拳(けん)の名で、「八」のこと。
※歌舞伎・色競かしくの紅翅(1808)四「『いっかう』『ちゑ』『さんな』『玉で』『おはね』『コリャ叶はぬ、サアサア一盃』」
⑫ (「玉門(ぎょくもん)」の略とも、「船玉(ふなだま)」の略ともいう) 女性の陰部のこと。
※雑俳・柳多留‐九七(1828)「緋の袴召ぬと玉がすき徹り」
⑬ 「玉落ち」での、まるめた紙片のこと。江戸時代、蔵宿で知行米を下げ渡す際、受取人の姓名を書いた紙片をまるめて箱に入れ、それを振ってこぼれた紙玉の名前の人から順に渡した。転じて、知行米をいう。
※洒落本・傾城買四十八手(1790)やすひ手「『おめへいつかぢう着てきた八丈を、わっちが此むくととっけへてくんなんしな。〈略〉』『とうにまげてあらア』『フウそれでも玉とやらがおちなんしたら、だされなんすだらうね』」
⑭ 下女の通称。下女の一般的な名「お玉」から江戸時代、京都地方を中心に用いられた語。
※雑俳・軽口頓作(1709)「あんのじゃう・旦那の御作玉が腹」
[2] 〘語素〙
① 名詞の上に付けて接頭語的に用いる。美しいもの、すぐれているものをほめていう。
(イ) 特に上代、神事や高貴な物事についてのほめことばとして用いる。「玉の」の形で用いることも多い。「玉垣」「玉葛(たまかずら)」「玉串(たまぐし)」「玉襷(たまだすき)」「玉坏(たまつき)」「玉裳(たまも)」など。
(ロ) (一)①のようにきれいなもの、あるいはそれをちりばめたものの意を添える。「玉枝(たまえ)」「玉衣(たまぎぬ)」「玉櫛笥(たまくしげ)」「玉簾(たますだれ)」「玉手(たまで)」「玉箒(たまははき)」「玉鉾(たまぼこ)」など。「玉の」の形で用いることも多い。
② 名詞と熟合して球形のものである意を添える。「玉石」「玉砂利」「玉ねぎ」「十円玉」など。
③ 評価を表わすことばと熟合して、そういう人物である意を添える。「悪玉」「上玉」「表六玉」など。
[補注](1)文字は、(一)①の意味では漢字欄にあげたものの他に「珪・瑤・瓊・璧」などが当てられる。②以下の用法では「玉」が共通して用いられ、また、「玉」の字音「ぎょく」が並行して用いられるものもある。
(2)(二)①(イ)の用法は、主として上代に限られ、広くは字音「ぎょく」が用いられる。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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