獲得形質(読み)かくとくけいしつ(英語表記)acquired character

精選版 日本国語大辞典 「獲得形質」の意味・読み・例文・類語

かくとく‐けいしつ クヮクトク‥【獲得形質】

〘名〙 生物一生の間に環境の影響や習性などによって得た形質。その形質は遺伝しないとふつうには考えられている。後天形質

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デジタル大辞泉 「獲得形質」の意味・読み・例文・類語

かくとく‐けいしつ〔クワクトク‐〕【獲得形質】

生物が1代の間に、環境の影響によって得た形質。学習による能力、形態上の変異などをいう。遺伝するかについて20世紀初めごろ論争があったが、現在は否定される。後天形質。

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改訂新版 世界大百科事典 「獲得形質」の意味・わかりやすい解説

獲得形質 (かくとくけいしつ)
acquired character

生物が一生の間に環境の影響によって得た形質のことで,その生物が遺伝的にそなえている形質(先天性形質)に対して後天性形質ともいう。端的な例をあげれば,トレーニングによってきたえられた筋肉とか,本来草丈の高い植物が高山に芽生えたために矮性(わいせい)化したとかである。獲得形質が遺伝するかどうかをめぐる論争の歴史は古い。ギリシア時代のヒッポクラテスアリストテレスもこれに関連した議論をしている。下って18~19世紀のJ.B.deラマルクは彼の進化論を展開するにあたって獲得形質遺伝を肯定していて,キリンの首が長い理由を説明する際に採用した用不用説(使用する器官は発達し,不使用器官は退化する)は有名である。19世紀のC.ダーウィンやE.H.ヘッケルも肯定的立場にあった。とくにダーウィンは彼の遺伝理論パンゲン説を論ずる中でそのことを述べている。これに対して獲得形質遺伝を否定するものも19世紀末から20世紀にかけ盛んにみられ,ドイツのA.ワイスマンはその代表格である。彼は生殖質連続説を提唱,次代を構成する生殖細胞以外,すなわち体細胞が受けた環境の影響は遺伝とは無関係であることを主張した(1885)。ネズミの尾を何代もくりかえし切っても変化がないとも述べている。1903年W.L.ヨハンセンにより純系説が提出されると否定派の方が有力となっていくが,なお実験的に肯定的証拠を提出する研究者がみられた。その中でも有名なのがカンメラーP.Kammererであり,彼によるサンショウウオ色彩・斑紋変化に関する研究である(1913)。しかし,その後,これらの証拠は実験的誤りに基づくものか,他の解釈可能なものとして扱われた。1930年代後半になり,ソ連ではT.D.ルイセンコが登場し,環境を重視する考えから獲得形質遺伝を肯定,その証拠として接木雑種がとりあげられた。今日,分子レベルで遺伝情報伝達のしくみが明らかにされ,この接木雑種も含め,獲得形質の問題は分子レベルで解釈しようという動きがみられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「獲得形質」の意味・わかりやすい解説

獲得形質
かくとくけいしつ

後天的形質ともいわれ、個体の発生から死ぬまでの一生の間に獲得された性質をいう。生物の進化の原因として、あるいは品種改良の方法として、環境による形質の後天的変化が役だつといわれたことがあったが、現在では獲得形質は、親から子へ伝えられる遺伝情報に変化をおこさず、したがって遺伝しないと考えられている。

[井山審也]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「獲得形質」の意味・わかりやすい解説

獲得形質
かくとくけいしつ
acquired character

後天性遺伝形質ともいう。先天性遺伝形質に対する言葉。すなわち,生物が生れたのちに,外界の影響によって得た形質。たとえばナイフによる切り傷や学習による知識など。獲得形質は普通遺伝子に関係しないので遺伝しない。 J.ラマルクの進化論では,やや素朴に獲得形質の遺伝により進化が進むと考えたが,C.ダーウィンは全体としては重視せず,さらに A.ワイスマンらにより徹底的に排撃された。微生物や害虫の抵抗性「獲得」も,抵抗性の高い変異体の生残りとして理解される。

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知恵蔵 「獲得形質」の解説

獲得形質

生物個体が一生の間に、環境の影響や鍛錬によって獲得した形質。獲得した形質が遺伝するかどうかはラマルクの用不用説以来、長い論争があり、特に獲得形質の遺伝を主張するルイセンコ学派と、それを否定するワイスマン学派の論争は有名。現在では分子生物学のセントラルドグマ(central dogma)の確立に伴い、獲得形質の遺伝は否定されている。ただし、微生物では、環境物質が子孫世代の遺伝子発現に影響を及ぼす例が知られている。

(垂水雄二 科学ジャーナリスト / 2007年)

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百科事典マイペディア 「獲得形質」の意味・わかりやすい解説

獲得形質【かくとくけいしつ】

ネオ・ラマルキズム

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