独我論(読み)どくがろん(英語表記)solipsism

翻訳|solipsism

精選版 日本国語大辞典 「独我論」の意味・読み・例文・類語

どくが‐ろん【独我論】

〘名〙 (solipsism訳語) 自我とその意識だけが実在し、いっさいのものは、自我の意識のなかに存在するにすぎないとする立場独在論唯我論

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デジタル大辞泉 「独我論」の意味・読み・例文・類語

どくが‐ろん【独我論】

solipsism》真に実在するのは自我とその所産だけであり、他我やその他すべてのものはただ自己意識内容にすぎないとする立場。バークリーフィヒテシュティルナーなどにみられる。独在論。唯我論。独知論

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改訂新版 世界大百科事典 「独我論」の意味・わかりやすい解説

独我論 (どくがろん)
solipsism

唯我論,独在論ともいう。ラテン語のsolus(~のみ)とipse(自我)とをつないでできた言葉で,一般には自我の絶対的な重要性を強調する立場のことをいう。古くは実践哲学の領域で,自己中心的もしくは利己的な生活態度や,それを是認する道徳説に対して用いられたが,今日では認識論的,存在論的な見解をあらわす言葉として使うのが普通である。すなわち全世界は自我の意識内容にほかならず,物や他我の実在を確実に認識することはできない,またそれらに自我と並ぶ実在性は認められないとする見解をいう。

 デカルトカントに代表される西洋近世・近代の観念論哲学では自我が探究の原点であり,すべての事物を自我の意識内容もしくは観念とみなす立場で認識問題や存在問題の考察を始めるのがたてまえである。この傾向の哲学的思索は独我論と結びつきやすく,たとえばカント哲学の一面を継承したフィヒテは,非我の存在はすべて自我により定立されるから独我論こそ観念論哲学の正当な理論的帰結であり,物や他我の実在は実践的,宗教的な〈信〉の対象であるほかないと説いた。類似の見解は17世紀のデカルト派や,ロック以後のイギリス経験論者にも見られる。一方,観念論哲学に反対の立場からは,独我論への傾斜をもってこの哲学の根本欠陥とする批判が繰り返されてきた。20世紀ではウィトゲンシュタインが,独我論についてもっとも深く考察している。彼は《論理哲学論考》で,私の理解する言語の限界がすなわち〈私の世界の限界〉であり,したがって私と私の世界とは一つであると述べ,言語主義的独我論とも呼ぶべき思想を提示した。その後彼の見解は変化し,遺著《哲学探究》では《論考》の独我論や,その背景となった哲学的言語観,すなわち言語の意味の源泉は個我の意識内容にあるとする〈私的言語〉説に徹底的な批判を加えている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「独我論」の意味・わかりやすい解説

独我論
どくがろん
solipsism 英語
Solipsismus ドイツ語
solipsisme フランス語

独在論、唯我論ともいう。ラテン語のsolus(ただ……だけ)とipse(自己)と-ism(主義)を合成してできた語。(1)理論的には、自分以外の他人に自分と同じ自我(他我)が存在することを否定する考え方。「私たちは観念のある集まりによって、私たち自身に似た思考と運動の別個の原理が表れていると考えるようになる」(バークリー)。(2)実践的には、個的自我の尊重・実現に人生の唯一絶対の価値があるという考え方。「私は、私がありうるすべてでありたい。他人が類似したものであるかが、どうして私にかかわりをもつだろう」(シュティルナー)。(3)自分の他我を認めるために、類比説では、身体、行為、言語を媒介に自我との類比から他我を構成する(フッサール)。直証説では、他我の存在は自負や恥じらいで直接に知られる(サルトル)。共同主観説は、特定の自己でない「ひと」を根本に置く(メルロ・ポンティ)。

[加藤尚武]

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百科事典マイペディア 「独我論」の意味・わかりやすい解説

独我論【どくがろん】

英語solipsismなどの訳。〈独在論〉〈唯我論〉とも。真に実在するものは自我とその意識内容だけであって,他我や物の実在を確実視することはできないという立場。西洋近代哲学の主潮流は多少とも独我論的性格を有し,バークリー,フィヒテ,前期ウィトゲンシュタイン(〈私の言語の限界が私の世界の限界である〉)らが代表者。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「独我論」の意味・わかりやすい解説

独我論
どくがろん

ソリプシズム」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の独我論の言及

【ウィトゲンシュタイン】より

…《論考》の中核である〈像の理論〉は,要素命題の記号を言語外の対象に対応づけ,命題を事実の写像たらしめる主観の作用を暗黙のうちに前提していた。これは言語主体たる〈私〉を有意味性の根源とすることであり,そのかぎり,〈私の言語の限界〉をもって世界そのものの限界とする独我論の立場を脱することはむずかしい。後期のウィトゲンシュタインは,こういう〈私的言語〉の想定が《論考》のみならず広く哲学的な言語解釈の根源になっていることを見抜き,この想定の背理と不毛を徹底的に追及した。…

※「独我論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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