独占度(読み)どくせんど(英語表記)degree of monopoly

日本大百科全書(ニッポニカ) 「独占度」の意味・わかりやすい解説

独占度
どくせんど
degree of monopoly

企業は自社製品の価格を設定するにあたっては、ライバル企業の価格政策をつねに意識している。ライバル企業の行動からどの程度独立して価格を設定できるかを示すものを独占力という。独占企業はライバル企業がいないので、完全な独占力を有している。完全競争市場では、個々の企業はまったく価格支配力をもたないから、その独占力はゼロである。現実の世界では、企業の独占力はこのような極端な二つのケースの中間に位置している。独占度とは、独占力を理論的に、定量的に理解しようとする概念である。独占度の尺度としては次のものが代表的である。

[内島敏之]

ラーナー指標

A・P・ラーナーは、

を独占度と考えた。ラーナー指標によると、企業が限界費用よりも高く価格を設定できるほど、その企業の独占力は強くなる。完全競争のケースでは、企業は価格イコール限界費用が成立する生産量を決定するので、ラーナー指標の値はゼロである。右下がりの需要曲線に直面する企業は、限界収入イコール限界費用というルールが成立する生産量を選択する。さらに限界収入は、

に等しい。したがってラーナー指標は需要の価格弾力性の逆数に等しくなる。企業は、限界収入が正であり、したがって需要の価格弾力性が1より大きい生産量をいつも選択する。右下がりの需要曲線に直面する企業、つまりある程度の市場支配力をもつ企業については、ラーナー指標は0と1との間の値をとる。

[内島敏之]

集中度

独占度を測る指標のうちもっともポピュラーなものである。ラーナー指標は、需要曲線の形の推定という困難な仕事を伴うという欠点をもっている。これに対して集中度は、この欠点をもたない。集中度としてよく用いられるのは、産業において上位数社が占める出荷額、付加価値、従業員、資産などの比率であり、上位四企業比率、上位二企業比率などがある。もう一つの集中度は、その産業におけるすべての企業の分布をカバーするもので概括指標summary measureとよばれるものである。ローレンツ曲線ジニ係数、ピエトラ比率、ハーフィンダール指数などがよく使われる。

[内島敏之]

ベイン指標

J・S・ベインは、独占度として価格と平均費用の差、つまり利潤を採用する。利潤が多いほどその企業は独占力を発揮していると考えるのである。

[内島敏之]

『E・M・シンガー著、上野裕也・岡井紀道訳『反トラストの法と経済理論』(1971・ぺりかん社)』『J・S・ベイン著、宮沢健一監訳『産業組織論』全二巻(1970・丸善)』『植草益著『産業組織論』(1982・筑摩書房)』

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改訂新版 世界大百科事典 「独占度」の意味・わかりやすい解説

独占度 (どくせんど)
degree of monopoly

市場での独占力の大きさを表すのに考案された尺度で,アメリカの経済学者A.P.ラーナーの独占度の尺度が有名である。完全競争のもとでは,利潤を追求する企業は自己の販売する製品の価格と限界費用を一致させる生産量を選択する。他方,独占企業は供給を制限して価格を引き上げ,超過利潤を獲得する。独占企業の価格支配力の強さをラーナーは競争価格からの乖離(かいり)度,すなわち(価格-限界費用)/(価格)で表した。これはラーナーの独占度と呼ばれ,独占的均衡では限界収入と限界費用が等しいから,需要の価格弾力性の逆数に一致する。したがって,価格を引き上げても顧客を失う程度が小さいほど,独占度は大きくなる。ただし,資本集約度が著しく異なる二つの産業での独占力を比較するのには,ラーナーの独占度は不適切で,投下資本への収益率を利用しなければならない。

 ラーナーの独占度はのちに,寡占産業での企業間競争を考慮して個別企業の独占力を指数化しようとしたロスチャイルドKant Wilhelm RothschildやパパンドリューAndreas George Papandreouの研究や,国民経済についての尺度として国民所得の分配の説明に用いようとしたM.カレツキの研究などによって継承された。
独占
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「独占度」の意味・わかりやすい解説

独占度
どくせんど
degree of monopoly

ある生産物の市場における,ある特定の供給者の占める独占の程度を示す値。生産物の価格と限界費用との差を価格で割った A.P.ラーナーの指標が有名。ラーナーの独占度においては個別企業の需要の価格弾力性が小さいほど,独占度は大きくなることになる。また M.カレツキは,このラーナーの独占度の定義を経済全体に拡大し,産業全体の独占度は個別企業の独占度の加重平均であること,国民所得に占める賃金労働者の分配率 (労働分配率) が経験的に比較的安定しているのは,産業全体の独占度と産業全体の労働分配率の逆数とが相殺するからであることなどを主張した。しかしラーナー方式の独占度の計測は技術的に困難な面が多いことから,実際の独占度の計測においては,上位3社あるいは5社の生産額や出荷額の当該産業における総生産額あるいは総出荷額に対する比率 (集中度) などが独占度の指標として用いられることが多い。

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