狛犬(読み)こまいぬ

精選版 日本国語大辞典 「狛犬」の意味・読み・例文・類語

こま‐いぬ【狛犬】

[1] 〘名〙 (高麗犬の意)
① 昔、高麗から伝来したといわれる獅子に似た獣の像。木、石、金属などで作り、玉座の御帳(みちょう)、神社の社頭や社殿の前などに向かい合わせに阿吽(あうん)の一対を置き、威厳を添え、また魔よけとした。もとは宮中の門扉几帳(きちょう)屏風(びょうぶ)などの動揺するのをとめるための鎮子(ちんし)として用いたもの。こま。からいぬ。
※宇津保(970‐999頃)蔵開上「大いなる銀(しろがね)のこまいぬ四つに、〈略〉同じ火取据ゑて、香の合はせの薫物絶えずたきて」
② (①が神社の社頭に一対あるところから) いつも二人連れで行動する人。
[2] 高麗楽(こまがく)の曲の名。犬乱声・破・急の構成であったが、音楽も舞も廃絶。〔二十巻本和名抄(934頃)〕
[補注]「類聚雑要抄‐四」に「左獅子〈於色黄。開口〉右胡摩犬〈於色白。不口。在角〉」とあるように、獅子と対で、右側の口を閉じたもの。後世一対で狛犬と呼んだり獅子と呼んだりする。

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デジタル大辞泉 「狛犬」の意味・読み・例文・類語

こま‐いぬ【×狛犬】

《「高麗犬」の意》神社の社頭や社殿の前などに置かれる、一対の獅子ししや犬に似た獣の像。魔よけの力があるといわれ、昔は宮中で几帳きちょう屏風びょうぶの揺れ動くのをおさえるおもしとしても使われた。こま。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「狛犬」の意味・わかりやすい解説

狛犬
こまいぬ

獅子(しし)に似た像。胡麻犬、高麗犬とも書く。獅子形とも、また獅子狛犬とも称し、単に狛ともよぶ。本来は獅子であるが、昔、高麗から伝来したので高麗犬というとの説が有力。一説に、魔除(まよ)けとして置かれたので拒魔犬とも。『禁秘抄』に、清涼殿御簾(みす)や几帳(きちょう)の裾(すそ)に鎮子(ちんし)として置かれたとあり、左を獅子としている。多くは神社の社頭や社殿の前などに守護、魔除けのために置かれるが、寺院に置かれる場合もある。向かい合わせに、一つは口を開き、他は閉じるという阿吽(あうん)の一対として置かれるのが普通であるが、両方とも開口、閉口などの例外もある。木や石でつくられたものは多いが、金属や陶製のものもある。国の重要文化財に指定される遺品は、木造では、東京都府中市の大国魂(おおくにたま)神社、新潟県小千谷(おぢや)市の西脇(にしわき)家、石川県白山市の白山比咩(しらやまひめ)神社、滋賀県栗東(りっとう)市の大宝(たいほう)神社、同野洲(やす)市の御上(みかみ)神社、同高島市の白鬚(しらひげ)神社、京都市右京区の高山寺(4対。うち2躯(く)の台座嘉禄(かろく)元年(1225)とある)、東山区八坂(やさか)神社、伏見(ふしみ)区の藤森神社、兵庫県三田(さんだ)市の高売布(たかめふ)神社、奈良市の薬師寺、和歌山県伊都郡の丹生都比売(にうつひめ)神社(2対)、広島県三原市の御調八幡宮(みつぎはちまんぐう)、同福山市の吉備津(きびつ)神社などのものがあり、石造では、京都市左京区の由岐(ゆき)社、宮津市の籠(こもり)神社、福岡県宗像(むなかた)市の宗像大社、同太宰府(だざいふ)市の観世音寺のものがあり、陶製では、千葉県香取(かとり)市の香取神宮、愛知県瀬戸市の深川神社などのものがある。

[三橋 健]

『上杉千郷著『狛犬事典』(2001・戎光祥出版)』

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改訂新版 世界大百科事典 「狛犬」の意味・わかりやすい解説

狛犬 (こまいぬ)

神社や仏寺の門前に置かれている獣形の像をいう。その起源はペルシアやインド地方にあるが,日本ではその異形な姿を犬と思い,日本犬とはちがっているので,異国の犬すなわち高麗(こま)の犬と考えたのである。したがって狛犬と獅子と形を混同したものがあるが,平安時代には明確に区別していた。たとえば清涼殿の御帳前や天皇や皇后の帳帷の鎮子(ちんず)には獅子と狛犬が置かれ,口を開いたのを獅子として左に置き,口を閉じ頭に1角をもつもの(人の邪正をよく知るという獬豸(かいち)といわれる獣)を狛犬として右に置いた。また当時の舞楽の中にも獅子と狛犬があり,信西の《古楽図》の中にもその形が残されている。しかし後世になると二つは混同され,神社や仏寺の前に守護のために置かれた獅子は,しだいに犬の形にちかづいて〈狛犬〉と呼ばれるようになり,それに反して舞踊の上では獅子の雄壮な形姿が喜ばれてもっぱら獅子舞が広布し,狛犬の舞踊のほうは衰滅してしまった。神社や仏寺の前に狛犬が置かれる理由については諸説が行われているが,インドの仏寺や中国の宮門,陵墓の前などにも獅子などの動物の像をならべる風習がみられる。この風習はまたエジプト,バビロニア,アッシリアなどの自然崇拝に由来するといわれるが,日本の場合もこれらの習俗にならったものであろう。要するに狛犬は元来獅子を表現するものであり,宮中や陵墓,あるいは神社,仏閣などの聖域を守護し,邪悪の出入を禁ずる目的をこめて置かれた鎮獣と考えられる。
獅子
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百科事典マイペディア 「狛犬」の意味・わかりやすい解説

狛犬【こまいぬ】

高麗犬(こまいぬ),胡麻犬などとも。社寺の門前に守護のため置かれる獣形の像。普通は左右1対。起源はインド,ペルシアにあるといわれ,日本では平安中期,清涼殿に獅子(しし)像と1対に置かれたのが始まりと伝える。向かって右が開口,左が閉口が一般。これを阿吽(あうん),陰陽になぞらえる。木・石製のものが多いが青銅・鉄・陶製のものもある。大宝(だいほう)神社(滋賀県),東大寺,白山比【め】(しらやまひめ)神社(石川県),宗像(むなかた)神社のものは有名。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「狛犬」の意味・わかりやすい解説

狛犬
こまいぬ

神社や寺院の前に置かれる獅子に似た獣の像。高麗 (こま) から渡来した獣像といわれこの名がある。魔よけの効があるとされ,平安時代には清涼殿の御帳の前に,左に獅子像,右に狛犬が1対並べて置かれた。当初は犬に似た形で口を閉じ頭上に1角があったが,後世獅子像と混同され,両者の差異がなくなった。

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世界大百科事典(旧版)内の狛犬の言及

【獅子】より

…大日如来の垂迹神,天照大神の神子たる天皇の神格を〈王法即仏法〉の考え方によって権威づける儀礼であった(《江家次第》)。この段階では,唐獅子は仏法のみならず,邪悪なものを退け,国家鎮護を祈念する形代として呪術的な機能が賦与されていたわけで,これを〈ししこまいぬ(狛犬)〉とも呼んだ。仏寺や神社の門前の左右に狛犬を配する風習も,これにかかわりがあろう。…

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