狐物語(読み)キツネモノガタリ(英語表記)Roman de Renard

デジタル大辞泉 「狐物語」の意味・読み・例文・類語

きつねものがたり【狐物語】

《原題、〈フランスRoman de Renart》12世紀後半から13世紀半ばにかけて書き継がれた、フランスの韻文物語ルナールという狐を主人公にした動物説話集。

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精選版 日本国語大辞典 「狐物語」の意味・読み・例文・類語

きつねものがたり【狐物語】

(原題Le Roman de Renard) フランスの韻文物語。一二世紀後半から一三世紀半ばにかけて、サンクルーピエールの作に数人が書き継いだ動物説話。

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改訂新版 世界大百科事典 「狐物語」の意味・わかりやすい解説

狐物語 (きつねものがたり)
Roman de Renard

1175年ごろから13世紀中ごろにかけてフランスに発生した,狐ルナールと狼イザングランの抗争を主軸に据えた動物叙事詩群の総称。各挿話は独立の筋を持ち,枝篇と呼ばれ,28枝篇が現存。主題は奸智にたけたルナールが雄鶏シャントクレール,四十雀(しじゆうから)メザンジュ,猫チベール,烏チェスラン,熊ブランなどを次々に手玉にとり,とりわけ獅子王ノーブルの元帥イザングランがことごとに手ひどい仕打ちを受けるというもの。動物たちは本来の特徴を失うことなく,封建社会の人々に巧みに重ねられて的確に描き分けられ,風刺されている。この動物叙事詩の起源については,J.グリム,G.パリスの口碑説が有力であったが,1914年L.フーレは最古の枝篇の作者ピエール・ド・サン・クルーの直接の典拠はガンの修道僧ニウァルドゥスのラテン語の《イセングリムス》であるとした。しかしニウァルドゥスの典拠の問題は未解決で,おそらくはインドに生まれ,イソップを通じヨーロッパに渡り,文字文学・口碑文学により伝承されたものであろう。《狐物語》も文体よりみて語り物と推定される。最初の枝篇以後ヨーロッパ各地に流行,12世紀末にはハインリヒ・デア・グリヒェツェーレが《ラインハルト狐》を書き,フランスでは《逆説狐物語》(13世紀),《ルナール狐の戴冠》(13世紀),《狐に化けて》(14世紀)などしだいに長編の社会風刺の物語を生む。ゲーテの《ライネケ狐》(1794)は13世紀中ごろのフランドル人ウィレムの翻案に基づいている。狐物語の成功によりルナールの名は,フランス語で狐を意味する普通名詞となった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「狐物語」の意味・わかりやすい解説

狐物語
きつねものがたり
Roman de Renart

12世紀後半から13世紀にかけて、古代フランス語で書かれた動物説話集。悪知恵にたけた狐ルナールRenartが、愚かな百姓や魚屋や、カラスニワトリヤマガラを相手に、だましたりだまされたりする話をまとめて、読者を笑わせると同時に、ある種の教訓をも与えようとして書かれた小話の部分と、力はあるが知恵の足りないイザングランという名の狼(おおかみ)を相手にして、さんざんに狐がそれを苦しめ侮辱する狐対狼の戦いの部分との、二つの群に大別することができる。この戦いに負けた狼は獅子(しし)王ノーブルのところに訴えていく。この狐の裁判の部分がとりわけ有名である。しかし狐はペテンを使って、前非を悔いその罪滅ぼしのために聖地に巡礼に行くからといい、まんまと逃げ出し、ふたたび悪さをする。この狐の裁判の部分は、封建社会の現実の裁判を模したものとして有名であり、全体に社会風刺の精神が貫かれている。

 作者の名は一、二知られているが、無名が多く、その数も20余人あったと思われる。10世紀のころ今日のベルギーで、聖職者によってラテン語で書かれた『イセングリムス』Ysengrimusという説話が原型となって、それにイソップ物語とか、中世の教訓説話から材料をとって次から次へと新しい話が加えられて、今日あるような27章数十編の膨大なものに膨らんでいったといわれる。

[佐藤輝夫]

『水谷謙三訳『狐物語』(1948・大和書房)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「狐物語」の意味・わかりやすい解説

狐物語
きつねものがたり
Le Roman de Renard

12世紀後半から 13世紀中頃にかけてヨーロッパ,特にフランスで盛んに書かれた韻文物語。武勲詩や騎士道物語をもじった滑稽な寓話詩の代表作。おもな登場人物は狐 (ルナール) ,狼 (イザングラン) ,熊 (ブラン) ,ライオン (ノーブル) で,その冒険,争い,訴訟などが人間社会そのままに描かれている。特に皆を嘲弄し常に悪巧みを用意している狡猾で愉快な主人公ルナールはその後「狐」を意味する名詞となった。物語は有名な『狐の裁判』をはじめとするいくつかの挿話を物語る「枝編」約 27から成るが,そのうち重要なものは 1175~1205年にかけて書かれた 14の枝編で,その大成功によって以後さまざまの枝編や派生作品が生れたが,風刺の傾向と寓意教化の意図が次第に強くなっている。初期の枝編では当時の政治,宗教制度,封建社会の風俗習慣が鋭く観察され,巧みな話術とともに楽しく描かれている。ゲーテの『ライネケ・フックス』 (1793) はこの独訳によったもの。

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百科事典マイペディア 「狐物語」の意味・わかりやすい解説

狐物語【きつねものがたり】

おもに北フランスで12世紀後半から13世紀中葉にかけて作られた動物寓話(ぐうわ)詩。《Roman de Renard》。悪役の狐ルナールと狼のイザングランとの葛藤を中心テーマに,周囲にライオン,熊,猫を配し,封建社会の宗教・政治への風刺をもおりこんだ明朗な動物説話で,全27編よりなる。中世庶民精神の明朗な発露を示している。
→関連項目寓話

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「狐物語」の解説

『狐物語』(きつねものがたり)
Roman de renart

12~13世紀北フランスにおける隠喩的な動物説話,26の詩からなる。市民的俗語文学の先駆。権威に対する鋭い批判的態度のもとに,動物(主人公は狐)に託して貴族,聖職者,農民そして市民自身をも風刺し,揶揄(やゆ)した。

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旺文社世界史事典 三訂版 「狐物語」の解説

狐物語
きつねものがたり
Roman de Renart

13世紀ごろ,フランスを中心に流布された動物寓話
狡猾 (こうかつ) な狐ルナールを主人公とし,多くの動物を風刺的に登場させた小話群からなる。この物語によって,ルナールとはフランス語でキツネを意味するようになった。

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