犬神人(読み)いぬじにん

精選版 日本国語大辞典 「犬神人」の意味・読み・例文・類語

いぬ‐じにん【犬神人】

〘名〙 中世以降、京都祇園の八坂神社に隷属した下級の神人。建仁寺門前に住み、平常は沓(くつ)弓弦製造を業とするとともに、八坂神社境内の清掃や京都市内の死屍始末などにたずさわった。また、室町時代には、必要に応じて武力の提供もした。いぬじんにん。つるめそ。→神人(じにん)
※日蓮遺文‐立正安国論(1260)「於法然墓所、仰付感神院犬神人破却

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デジタル大辞泉 「犬神人」の意味・読み・例文・類語

いぬ‐じにん【犬神人】

中世、近畿地方大社に隷属した身分の低い神人。特に京都祇園社八坂神社)に属した者をいう。社内の清掃、祇園会山鉾やまぼこ巡幸の警固葬送埋葬などに従事し、祇園社の本所である延暦寺兵卒となることもあった。弓矢を製造販売して「つるめそ」ともよばれた。いぬじんにん。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「犬神人」の意味・わかりやすい解説

犬神人
いぬじにん

中世,京都祇園八坂神社に隷属して,社領内の治安警察ならびに清掃などの雑役に従事した者。鴨の河原に近い祇園あたりに集居。日頃は弓弦や矢の製作,販売などを業とし「弦召 (つるめそ) 」とも呼ばれた。また境内,社頭,祇園祭の神幸路の清掃のほか,戦乱,飢饉などの際の死体の処理権,葬送権をもち,死者衣服副葬品を取って利益としており,応安4 (1371) 年には,類似の権利を主張する河原者と衝突している。さらにひとたび緩急あるときは,祇園社の軍事警察力として猛威をふるった。 (→ )

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「犬神人」の意味・わかりやすい解説

犬神人
いぬじにん

中世、神社に属して下級の諸役を奉仕する者を神人(じんにん)という。そのうち、京都・八坂神社の祇園会(ぎおんえ)に、甲冑(かっちゅう)姿で神輿(みこし)の前後を警固したり、道路の清掃に従ったりした人たちをいう。平素は愛宕(あたご)寺の寺内か建仁(けんにん)寺の門前に住み、弓の弦の行商をした。犬神人のことをツルウリ、ツルサシ、ツルメソなどとよぶのはそのためであり、ツルメソは「弦召そう」という呼び声からの名称である。

[井之口章次]

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世界大百科事典(旧版)内の犬神人の言及

【神人】より

…手工業・商業関係の神人では,綿座(わたざ)を組織して活躍した京都祇園社(ぎおんしや)(現,八坂(やさか)神社)の神人や,灯明油を製造して本社の石清水社(いわしみずしや)(現,石清水八幡宮)に進納するのを本務としながら灯明油の製造・販売について強大な特権を誇りつづけた大山崎離宮八幡宮(おおやまざきりきゆうはちまんぐう)所属の大山崎油座(あぶらざ)神人や,食生活のうえで欠かせなかった麴(こうじ)の製造・販売でやはり大きい権益を保持した京都北野社(きたのしや)(現,北野天満宮)の麴座神人などが史上に名高い。 散在神人の出身階層は,各地の在地の武士,荘官・名主(みようしゆ),手工業職人・商人等々にわたるが,そのほかに〈非人(ひにん)〉系の神人集団があり,とくに〈犬神人(いぬじにん)〉〈つるめそ〉と呼ばれた京都祇園社直属のそれがよく知られている。 神人は江戸時代に入ると下級神職だけにしぼられ,その名称も古くから神職のうち神主職と祝(はふり)職との間の職名としてもちいられてきた〈禰宜(ねぎ)〉の語が適用されるのが普通になった。…

【つるめそ】より

…鎌倉時代から江戸時代にかけて,京都の清水坂,建仁寺のあたりに集住した〈賤民〉の一種。本来の名称は〈犬神人(いぬじにん∥いぬじんにん)〉といい,祇園社(ぎおんしや)(八坂神社)に隷属して,最下級の神人(じにん)として境内地・墓所などの清掃や祇園御霊会(ごりようえ)(祇園祭)の神幸の警護,神幸路の清めなどを主要な任務にするとともに,とくに中世には比叡山延暦寺の末社であった祇園社の軍事的・警察的組織をなして縦横に活躍した。また,京都での葬礼に関する権益を保持して布施を得たことも知られている。…

【つるめそ】より

…鎌倉時代から江戸時代にかけて,京都の清水坂,建仁寺のあたりに集住した〈賤民〉の一種。本来の名称は〈犬神人(いぬじにん∥いぬじんにん)〉といい,祇園社(ぎおんしや)(八坂神社)に隷属して,最下級の神人(じにん)として境内地・墓所などの清掃や祇園御霊会(ごりようえ)(祇園祭)の神幸の警護,神幸路の清めなどを主要な任務にするとともに,とくに中世には比叡山延暦寺の末社であった祇園社の軍事的・警察的組織をなして縦横に活躍した。また,京都での葬礼に関する権益を保持して布施を得たことも知られている。…

※「犬神人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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