日本大百科全書(ニッポニカ) 「犠牲者」の意味・わかりやすい解説
犠牲者
ぎせいしゃ
The Victim
アメリカの作家S・ベローの長編小説。1947年刊。大不況のさなか、かろうじて業界新聞編集の仕事にありついていた、小心なユダヤ人レバンサルに二つの事件がもちあがる。一つは甥(おい)の死で、弟(甥の父)の留守中相談にのったことから、自分が責任を問われているように感じる。もう一つは、就職運動中に面接した経営者のおうへいな態度から喧嘩(けんか)になったことがあるが、そんな彼を紹介したため失職したと称する男オールビーが出現し、「責任」をとれと付きまとい始めたことである。ユダヤ人として、また一人の人間として、自らを犠牲者、被害者と考えていた男が、突然加害者としての自覚を強いられる過程を描いた小説で、初期ベローの悲劇的人生観が濃密に出ている。
[渋谷雄三郎]
『太田稔訳『犠牲者』(新潮文庫)』
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