特発性肺線維症(特発性間質性肺炎)(読み)とくはつせいはいせんいしょうとくはつせいかんしつせいはいえん(英語表記)Idiopathic Pulmonary Fibrosis

家庭医学館 の解説

とくはつせいはいせんいしょうとくはつせいかんしつせいはいえん【特発性肺線維症(特発性間質性肺炎) Idiopathic Pulmonary Fibrosis】

[どんな病気か]
 となりあった肺胞(はいほう)の間の仕切りになっている肺胞壁に、原因不明の炎症が広い範囲にわたっておこり、その結果、肺胞壁に結合組織が増え(線維化(せんいか))、壁が厚くなる病気です。
 特発性肺線維症という病名は、この線維化に焦点をあてたもので、炎症に比重をおいて病気をとらえた場合には、特発性間質性肺炎といいますが、どちらも同じ病気をさしています。
 せき息切れに始まり、胸部X線写真では、粒状の陰影が見られますが、病気が進むと、一見、ハチの巣のような輪状の陰影が肺全体に見られるようになります。
 こうなると、肺が線維化によってかたくなり、空気を吸っても肺胞が十分にふくらみません。こうして、肺が縮小して、空気と接する面積が減っていくのが、この病気の特徴です。
 このように線維化がおこり、肺が小さくなると、からだに酸素を取り込むことがむずかしくなり、呼吸困難をおこすだけでなく、ひいては心臓にも負担がかかってくるようになります。
[原因]
 ウイルスの感染や粉塵(ふんじん)の吸入が、この病気の原因として疑われてはいますが、確証はありません。
 また、この病気と多くの類似点があることから、膠原病(こうげんびょう)(免疫のしくみとはたらきの「膠原病について」)も、この病気の原因の1つにあげられていますが、いずれにしても、原因の解明は十分にされておらず、いまだに原因不明という意味で、特発性ということばが病名についています。
[症状]
 この病気のおもな症状は、たんのないせき(からせき)や息切れが徐々に現われてくることです。
 患者さんのなかには、ばち指(ゆび)(太鼓たいこ)をたたく道具のばちに形が似ていることからついた名)といわれる指先の変形がみられる場合があります(図「ばち指」)。
 ばち指は、指の先端部がやや丸みをおびて太くなっており、この部分を横からみると、爪(つめ)が碁石(ごいし)のようなカーブをえがいています。
[検査と診断]
 この病気では、蜂巣肺(ほうそうはい)(ハチの巣のような肺)と表現される多数の輪状の陰影が胸部X線写真に見られることが特徴です。
 診断の確定には、肺の組織をとって顕微鏡で調べ、特有の病理所見があることを確認する必要があります。
 しかし、実際には、典型的な症状や、血液検査などによる炎症反応、機能検査による肺機能の低下などを参考にして診断します。
[治療]
 病態が安定しているときには、とくに治療を必要としません。しかし、感染をきっかけに急に悪化した場合には、抗生物質が使われます。
 これらの治療によっても症状の改善がみられず、呼吸不全による酸素不足など、著しい悪化がみられたときは、酸素吸入や人工呼吸などで呼吸を管理しながら、ステロイド(副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン)薬を短期大量に使用するパルス療法(りょうほう)を行なうこともあります。
[日常生活の注意]
 ウイルスや細菌の感染が、この病気を急激に悪化させることが多いため、とくに、かぜにかからないようにすることがたいせつです。
 かぜをひかないための決め手はありませんが、うがいの励行、過労を避け、かぜをひいている人に近寄らない、などを心がけるほか、冬期の流行性感冒(りゅうこうせいかんぼう)(インフルエンザ(「インフルエンザ」))に対しては、ワクチンなどの予防接種も考える必要があります。
 また、かぜと自己判断しないで、せき、たん、息切れなど、呼吸器の症状に変化がみられたときには、かならず主治医の診察を受けることがたいせつです。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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