物言(読み)ものいい

精選版 日本国語大辞典 「物言」の意味・読み・例文・類語

もの‐いい ‥いひ【物言】

〘名〙
① ものを言うこと。ものを言いかけること。また、その言い方。ことばづかい。
※宇津保(970‐999頃)楼上上「いとこころうき御ものいひなりや」
② ものを言うことの上手な人。口巧者。弁舌家。
※紫式部日記(1010頃か)消息文「はたかのものいひの内侍は、え聞かざるべし」
今昔(1120頃か)二八「極たる細工の風流有る物の、物云ひにて人咲(わら)はする馴者なる翁にてぞ有ければ」
うわさ。とりざた。風評
※大和(947‐957頃)一〇五「しのびてあり経て、人の物いひなどもうたてあり」
④ ことばあらそい。言い合い。口論
※浮世草子・西鶴織留(1694)二「後にはいか成男も退屈して物云(ものイヒ)する時」
異議を言うこと。反論すること。文句を言うこと。
浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油屋「アア、是々大事のおれが扶持切米。物いひの付た飯じゃ」
⑥ (「腹に物言い」の形で) 懐胎すること。
※浄瑠璃・心中二つ腹帯(1722)三「腹に物言ひありとも聞く。孫を愛して遊ぶなら嫁の憎さも忘られん」
⑦ 相撲で、行司の判定に、土俵下の検査役(審判委員)あるいは控え力士が異議を申し入れること。「ものいいが付く」
※相撲講話(1919)〈日本青年教育会〉名力士小錦と芽生えの常陸、梅「湊が見事突出して勝を得たのを、溜の控力士一の矢が無理な物云ひをつけたので」

もの‐い・う ‥いふ【物言】

連語
① ことばを口に出す。
(イ) 何か物事を言う。話をする。口をきく。
万葉(8C後)一四・三四八一「ありきぬのさゑさゑしづみ家の妹に毛乃伊波(モノイハ)ず来にて思ひ苦しも」
(ロ) ことばをかわして親しくする。男女が情をかよわせる。ねんごろにする。
伊勢物語(10C前)三二「むかし物いひける女に年ごろありて」
(ハ) 気のきいたことばを言う。秀句を言う。
※土左(935頃)承平五年一月二一日「このことば何とにはなけれども、ものいふやうにぞきこえたる」
(ニ) うるさく文句を言う。不平を言う。小言を言う。
菟玖波集(1356)発句「散らすなと風に物いふ花もがな〈良阿〉」
(ホ) 挨拶(あいさつ)をする。声をかける。
※平中(965頃)三四「そのかみ、ものいはで奥に這ひ入りて隠れ立ちて見れば」
② よい結果が現われる。役立つ。
※俳諧・坂東太郎(1679)下「酒機嫌草そものいふけふの菊〈言水〉」

もの‐ゆい ‥ゆひ【物言】

〘名〙 (「ものいい(物言)」の変化した語)
① ものを言うこと。また、それの上手な人。
※玉塵抄(1563)一五「東方朔はものゆいの滑稽な者なり」
② ことばあらそい。
※天理本狂言・二九十八(室町末‐近世初)「今からは、中をようして、物ゆひのないやうに、人めもよいやうに」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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