物売(読み)ものうり

精選版 日本国語大辞典 「物売」の意味・読み・例文・類語

もの‐うり【物売】

〘名〙
商品を持って町を売り歩くこと。路傍などに商品を並べて売ること。また、その人。行商人
※宇治拾遺(1221頃)一一「このことを物うりあやしう思へども」
② 歌舞伎所作事の一系統。団扇(うちわ)売・地紙売白酒売など、いろいろの物売りを舞踊化したもの。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「物売」の意味・わかりやすい解説

物売 (ものうり)

街頭で商品を売る者のことで,近世には品物を手や肩にかけて移動しながら売り歩く振売と,大道や神社仏閣の境内などに見世(みせ)を出し移動せずに商売する立売とがあった。振売は〈棒手振(ぼてふり)〉ともいい,荷箱や荷ざるに品物を入れ天秤棒(てんびんぼう)で担ぐもの(魚売,酒売,豆腐売など),商品を手で持って売るもの(双六(すごろく)売,宝船売,暦売など),台輪に商品を載せて担ぐもの(桜草売,植木売など),挟み箱を担ぐもの(薬売),市松模様の屋根の屋台で売るもの(虫売),弁慶に差して売るもの(鉢たたき,つくり花売,ほおずき売),傘をさした物売(飴売),品物を入れた箱を背負った物売(筆墨売,羅宇屋(らおや)),箱を肩にかけた物売(お豆さん売),箱を首にかけたもの(だんご売,しゃぼん玉売),引出し付の小箱を手でさげて売りにくるもの(煙草売,歯磨売),品物を頭にのせてくる物売(女の魚売),箱を片方の肩に担ぐもの(鮨売)などがあった。また立売には,市松模様の屋台に商品を並べて売る〈屋台見世(やたいみせ)〉と路上にむしろや戸板をしきそこに商品を並べて売る〈乾見世(ほしみせ)(露店)〉とがあった。屋台見世は《守貞漫稿》に〈鮓,天麩羅を専らとす。其他皆食物の店のみ也〉とあるように,立食いの食物屋が多かった。一方,乾見世は〈天道ぼし〉ともいい,これには,唐辛子売,枇杷葉湯(びわようとう)売,スイカの切売,火打鎌売,古着・古道具売などがあった。

 このほか,物売には季節ごとに入用な物を売る際物師(きわものし)と,香具師(やし)があった。際物師には正月の祝物,2日のお宝(宝船)売,7日のナズナ売,15日の削掛け売,三月節供の雛祭の諸物売,七夕の竹や短冊売,盆のおがら売,12月のしめ縄売,飾松売などがあった。香具師には俗に〈十三香具師〉といって13の職種があった。1862年(文久2)の文書には〈諸製薬居付売捌所,入歯師口中治療,居合抜愛敬売薬,独楽廻し,辻医師膏薬売,諸国妙薬取次所,薬歯磨紅白粉,日限売薬療治師,薬飴薬菓子,縁日出商人,薬艾火口薬往来触売,諸見世物幷覗からくり〉の13の職種がみえる。
露天商
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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