物の哀れ(読み)もののあわれ

精選版 日本国語大辞典 「物の哀れ」の意味・読み・例文・類語

もの【物】 の 哀(あわ)

[一] 物事にふれてひき起こされる感動。多くは「おかし」「おもしろし」などの知的興味やはなやかさの感覚とは違った、しめやかな感情・情緒についていう。
① 人の心を、同情をもって十分に理解できること。人情機微のわかること。また、その人情、愛情など。
※土左(935頃)承平四年一二月二七日「楫取、もののあはれもしらで〈略〉はやく往なんとて」
② 物事にふれて起こる、しみじみとした回顧感慨
※宇津保(970‐999頃)内侍督「よろづ物のあはれなむ思ひいでられ、昔の人の声などおもほえ」
③ 物事や季節などによってよび起こされる、しみじみとした情趣。折からの感興。
拾遺(1005‐07頃か)雑下・五一一「春はただ花のひとへに咲くばかり物のあはれは秋ぞまされる〈よみ人しらず〉」
④ 何かに深く感動することのできる感じやすい心。情趣や風流を理解し感じとることのできる情緒的教養。
※枕(10C終)一三五「清範、講師にて、説くことはたいと悲しければ、ことにもののあはれ深かるまじき若き人々、みな泣くめり」
悲哀や同情を感じさせるような気の毒なさま。
※浮世草子・好色一代男(1682)四「物(モノ)のあはれをとどめしは、去大名の、北の御方に召つかはれて、日のめもついに、見給はぬ女郎達や、おはした也」
[二] 本居宣長が提唱した、平安時代文芸の美的理念外界である「もの」と、感情を形成する「あわれ」との一致する所に生ずる調和した情趣の世界を理念化したもの。自然・人生の諸相にふれてひき出される優美・繊細・哀愁の理念。その最高の達成が「源氏物語」であると考えた。
※紫文要領(1763)上「これすなはち物語は、物の哀をかきしるしてよむ人に物の哀をしらするといふ物也」
[補注]「あはれ」は、古くは感動詞として、喜・怒・哀・楽のすべてにわたって発せられる言葉だったが、「もの」がつくと、「ものあはれ」も「もののあはれ」も、「哀」に限定されるようになる。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「物の哀れ」の意味・読み・例文・類語

もの‐の‐あわれ〔‐あはれ〕【物の哀れ】

本居宣長が唱えた、平安時代の文芸理念・美的理念。対象客観を示す「もの」と、感動主観を示す「あわれ」との一致するところに生じる、調和のとれた優美繊細な情趣の世界を理念化したもの。その最高の達成が源氏物語であるとした。
外界の事物に触れて起こるしみじみとした情感
「わがアントニオは又例の―というものに襲われ居れば」〈鴎外訳・即興詩人
[類語]おもむき風情気韻風韻幽玄気分興味内容興趣情趣情調情緒風趣風格余情余韻詩情詩的味わい滋味醍醐味だいごみ妙味雅味ポエジーポエティックポエトリーロマンチックメルヘンチックリリカルセンチメンタルファンタジックファンタスティック幻想的夢幻的神秘的ドリーミー感傷的

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