牧谿(読み)もっけい

精選版 日本国語大辞典 「牧谿」の意味・読み・例文・類語

もっけい モクケイ【牧谿】

中国、宋末元初の禅僧画家。法諱は法常。杭州西湖の六通寺の開山となったが、宰相賈似道(かじどう)を非難して追われ、紹興に逃げた。画は龍虎猿鶴、山水、人物などあらゆる画題をよくし、多くは水墨で、甘蔗のしぼりかすや藁筆を用いて描いた。中国ではあまり高く評価されていないが、日本では室町時代以来「和尚絵」と呼ばれ珍重されてきた。代表作大徳寺蔵「観音猿鶴図三幅」。生没年未詳。

もく‐けい【牧谿】

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デジタル大辞泉 「牧谿」の意味・読み・例文・類語

もっけい〔モクケイ〕【牧谿】

中国、宋末から元初の画僧。しょく四川省)の人。法名は法常。牧谿は号。西湖畔六通りくつう寺の開山と伝える。山水・道釈・花卉かきほか幅広い題材の水墨画を描いた。中国ではその画法が古法に合わないため一部では批判視されたが、日本では鎌倉末期以来珍重され、室町期の水墨画に多大な影響を与えた。代表作「観音猿鶴図」。生没年未詳。

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百科事典マイペディア 「牧谿」の意味・わかりやすい解説

牧谿【もっけい】

中国,宋末元初の画僧。生没年不詳。法名は法常。蜀(四川省)出身で,無準師範(1249年没)の下で禅を修め,杭州西湖の六通寺の開山となり,元初の至元年間(1264年―1294年)に没した。山水,人物,樹石,鳥獣などを題材とし,簡潔な線描により形体を確実に把握したその水墨画は,玉澗(ぎょくかん)と並んで宋代水墨画を代表したが,元末の復古的絵画観からはその自由な画風が酷評された。その作品は,鎌倉末以来多く日本に渡来,室町時代には〈和尚絵〉と敬称されて最高の中国画とされ,日本の水墨画壇に大きな影響を与えた。模作も多く作られている。代表作に《観音猿鶴図》(三幅対)や《蜆子和尚図》《叭叭鳥図》《羅漢図》のほか,《瀟湘八景図巻》(断簡,他画家の作とする説もある)。
→関連項目可翁花鳥画愚渓右慧瀟湘八景能阿弥長谷川等伯黙庵蘿窓梁楷

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「牧谿」の意味・わかりやすい解説

牧谿
もっけい

生没年不詳。中国、宋(そう)末元(げん)初(13世紀後半)の画家。蜀(しょく)(四川(しせん)省)出身の禅僧で、法諱(ほうき)は法常、牧谿は号である。杭州西湖(こうしゅうせいこ)畔の六通寺(りくつうじ)の開山となり、賈似道(かじどう)(南宋末の宰相で、書画古器物の収蔵家としても知られている)を非難して追捕(ついぶ)を受け、越(えつ)(紹興)に難を避けたといわれる。その作品は日本に多く伝わり、わが国では鎌倉時代から評判のよい画家だが、中国では、北礀居簡(ほっかんきょかん)、癡絶道冲(ちぜつどうちゅう)、虚堂智愚(きどうちぐ)などの高名な禅僧との交友はあったものの、一部悪評を被っていた。元代の『図絵宝鑑(とかいほうかん)』には次のように載る。「麤悪無古法、諴非雅玩」、すなわち粗雑で古法を踏まず、優雅さや深みを欠くということである。一方、室町時代の『君台観左右帳記(くんだいかんそうちょうき)』には「上々、法常、号牧谿、無準(ぶしゅん)之弟子也、竜虎狷雀蘆雁山水樹石人物花果折枝」として、牧谿は上々の部に入るとしている。日本ではその芸術をきわめて高く評価し、将軍足利義満(あしかがよしみつ)をはじめとして、歴代鑑賞の対象としてきたのである。

 牧谿の芸術の特色は、第一に濃厚な空気の表現を行った点にある。これは、彼が江南の湿潤な地にその活躍の場をもっていたということと同時に、水墨による滲(にじ)みぼかしの効果を十分に理解していたということである。第二は、柔らかな線による対象の的確な把握で、この二つが相まって、高い精神性と本質の理解を深める客観性のある絵画を出現させた。代表作は三幅対『観音猿鶴(かんのんえんかく)図』(国宝、京都・大徳寺)で、東洋画最高作品の一つに数えられる。

[近藤秀実]

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改訂新版 世界大百科事典 「牧谿」の意味・わかりやすい解説

牧谿 (もっけい)
Mù xī

中国,宋末・元初の禅僧画家。生没年不詳。法諱(ほうき)は法常,牧谿は号である。蜀(四川省)の人。伝記は不明な点が多いが,禅の師匠は同郷の無準師範で,西湖六通寺の開山となったという所伝がある。南宋の権臣賈似道(かじどう)を非難したためその勘気にふれ,越(浙江省)の丘氏のもとに逃れたことなどから,単なる禅僧ではなく,文人としての素養のあった人物と考えられる。牧谿の絵画は一部の批評家からそしられているが,実際の名声はかなり高く,蘿窓(らそう)のような亜流画家を生み,偽物も作られるほどであった。道釈,人物,竜虎,猿,鶴,山水,樹石などを水墨で描くその作品は,唐以来浙江地方に伝統としてあった潑墨画(潑墨)によっている。牧谿の影響として,明代以降に流行した花卉雑画巻を指摘できるが,日本の水墨画壇に及ぼしたそれはきわめて大きく,長谷川等伯,俵屋宗達らの水墨画における業績は牧谿を無視して語ることはできない。日本で〈和尚〉と愛称された牧谿は日本画壇のうちに帰化した存在といえよう。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「牧谿」の意味・わかりやすい解説

牧谿
もっけい
Mu xi

中国,南宋末,元初の禅僧,画家。「ぼっけい」ともいう。蜀 (四川省) の人。若くして浙江に移り,宋末の名僧無準師範 (ぶしゅんしばん) の門に入ったらしい。西湖六通寺の開山になったという日本での伝説と,宋末の権臣,賈似道を中傷して怒りを買ったという話などから,単なる画僧ではなかったようである。友人には無文道燦,道士馬臻など,彼の絵に接した人には宋末の名僧虚堂智愚がいる。彼の伝記は元末の文人呉太素の撰した『松斎梅譜』にやや詳しく,浙江出身の文人鑑賞者や,明末の一部の人々によって高く評価された。道釈人物,山水,梅竹図を得意とし,甘蔗の絞りかすや草を画筆代わりとした水墨画法は粗放で逸格性が強い。同時に宋末に流行した罔両画 (もうりょうが) の技法をもよくし,淡墨を使って仏画,祖師図などを描いた。作品の多くは日本に伝来し,水墨画に著しい影響を与えた。代表作には『観音猿鶴図』 (大徳寺) ,伝称作品には宋末の水墨山水画を代表する『瀟湘八景図』断簡4幅 (根津美術館,畠山記念館など) がある。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「牧谿」の解説

牧谿
もっけい

生没年不詳。中国の南宋末期に活躍した禅僧・画家。法名は法常。没年は1270年代と推定。蜀(四川省)生れ。無準師範(ぶじゅんしはん)を師とし,西湖六通寺の開山と伝えられ,画は殷済川(いんせいせん)に学んだという記録がある。牧谿の粗放な用筆の水墨画は,鎌倉時代以来日本で高く評価され,とくに長谷川等伯(とうはく)の水墨画に与えた影響は大きい。代表作「瀟湘(しょうしょう)八景図巻断簡」「観音猿鶴図」(国宝)「蜆子和尚図」。

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旺文社世界史事典 三訂版 「牧谿」の解説

牧谿
もっけい

生没年不詳
宋末〜元初期の画家・禅僧
四川 (しせん) の人。豊富な画題をこなし,その水墨画は簡素な中に表面的写実性をこえた至高の境地を示す。中国より日本での評判が高く,室町時代には最高の中国画家とされ,大徳寺の『観音猿鶴図』は代表作。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「牧谿」の解説

牧谿(もっけい)
Muxi

生没年不詳

宋末元初の画僧。蜀(しょく)(四川)の人。梁楷(りょうかい)とともに天才的巨匠で,江南で龍虎,猿鶴,蘆雁(ろがん),山水,樹石,人物をはじめ,禅宗好みの道釈画をもっぱら水墨画で描き,日本室町期の水墨画に影響を与えた。

牧谿(もくけい)

牧谿(もっけい)

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世界大百科事典(旧版)内の牧谿の言及

【山水画】より

…この百数十年間は,政治的要因によって強いられた南北対立の時代であると同時に,対立する南北のそれぞれに絵画史的な意味での南北対立が見られる複雑な時代でもあった。例えば,南宋四大家が北宋山水画の大観的な空間表現を単純化し,より限定された表現素材の組合せによるものに変えていったのに対して,造形素材の効果を重視する方向は北宋山水画の空間構成を一部で継承しつつ,なお牧谿,玉澗らの禅余画家によって探究されていったのである。 続く元の時代は,その意味で,自己の伝統を伝統として自覚し再把握すべき時期であった。…

【大徳寺】より

…寝堂の斜め後方にある方丈(1636,国宝)は近世初期における大規模な禅宗方丈の好例で,内部には狩野探幽筆で《山水図》《禅会図》など83面からなる障壁画(重要文化財)がある。なお本坊の宝物のうちには,日本に伝わる牧谿(もつけい)の代表作として有名な《観音図》《猿鶴図》(ともに南宋時代,国宝),建武1年(1334)の自賛のある《大灯国師像》(国宝)や,後醍醐天皇宸翰置文(1333,国宝)などがある。 山内には24院の塔頭が伽藍の南,北,西に分布する。…

※「牧谿」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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