牛海綿状脳症(読み)ウシカイメンジョウノウショウ(英語表記)bovine spongiform encephalopathy

デジタル大辞泉 「牛海綿状脳症」の意味・読み・例文・類語

うし‐かいめんじょうのうしょう〔‐カイメンジヤウナウシヤウ〕【牛海綿状脳症】

ウシの脳が萎縮して海綿状(すき間が多数あるスポンジ状)になる感染性の中枢神経疾患。異常型プリオンが原因で発症するといわれ、発症後は運動機能の低下や異常行動を起こし、死に至る。感染したウシを原料とした、異常型プリオンを含む肉骨粉をウシに与えたことで広がったと考えられている。1986年、英国で発症を確認。2001年、日本でも第1例が報告された。人への影響は明確ではないが、直後に全頭検査特定危険部位除去などの安全措置がとられた。狂牛病は俗称。BSE(bovine spongiform encephalopathy)。→牛肉トレーサビリティー法

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「牛海綿状脳症」の意味・わかりやすい解説

牛海綿状脳症
うしかいめんじょうのうしょう
bovine spongiform encephalopathy

略称BSE。ウシの脳がすき間の多いスポンジ状(海綿状)になる中枢神経病。「狂牛病」は俗称である。感染した場合、2~8年の潜伏期間の後、発症する。音に過敏で不安動作をみせ、歩くとふらつき、転倒しやすく、立てなくなり、攻撃的な異常行動がみられ、発症後2週間~6か月で死亡する。BSEは1986年にイギリスで初めて報告されてから2007年までにイギリス国内で約18万頭に発生した。

 原因は感染性タンパク粒子プリオン。プリオンは動物や人間の脳に存在するタンパク質だが、構造が変化した異常プリオンが侵入すると正常プリオンが異常化し、脳が萎縮する。

 同様プリオン病として、ヒツジの海綿状脳症(スクレイピー)がある。イギリスでは古くから死亡したヒツジの脳や骨・内臓をウシの飼料としていた。また、近年はウシなどの家畜の残り肉を熱処理加工した肉骨粉(にくこっぷん)を子ウシの離乳食などとして飼料に混ぜていた。発育促進や乳の出をよくする効果が高いためという。オイルショックの影響から1980年代に熱処理法が変更され、加熱温度が下がり、ヒツジやウシの異常プリオンがウシに感染した可能性が指摘されている。1988年にイギリス政府は肉骨粉の使用を禁止、国内のBSE発生数は1992年の3万7280頭を境に減少し、1996年8075頭、2001年312頭と流行は収まりつつある。

 異常プリオンは口から腸に入り、少なくとも2、3年かかって脳に到達する。感染牛では、脳、脊髄、目、回腸からプリオンが検出される。

 当初は感染牛を食べても人間に異常プリオンが感染するとは考えられていなかった。しかし、1995年に若いイギリス人が同じプリオン病であるクロイツフェルト・ヤコブ病発病、1996年にイギリス政府が、ウシからの感染を認めたため、世界的な大問題になった。

 日本では2001年(平成13)9月千葉県内で初めてBSEの発生が確認された。BSEの予防、蔓延(まんえん)防止のため2002年には「牛海綿状脳症対策特別措置法」(平成14年法律第70号)が公布された。

 また、日本政府は2001年から2008年まで、若いウシを含めた食用牛の全頭検査を実施した。欧米では、検査はプリオンが脳に到達し始める生後30か月以降だが、日本は「安全より安心政策」(安全性の面では意味がなくても、検査済という安心感国民に与える政策)になっている。

[田辺 功]

『小野寺節・佐伯圭一著『脳とプリオン――狂牛病の分子生物学』(2001・朝倉書店)』『マンフレート・ヴァイセンバッハー著、横瀬涼監訳『狂牛病は警告する――ヨーロッパの体験が教えるもの』(2002・筑摩書房)』『エリック・ローラン著、門脇仁訳『終りなき狂牛病――フランスからの警鐘』(2002・緑風出版)』『山内一也・小野寺節著『プリオン病――BSE(牛海綿状脳症)のなぞ』第2版(2002・近代出版)』『フィリップ・ヤム著、長野敬・後藤貞夫訳『狂牛病とプリオン――BSE感染の恐怖』(2006・青土社)』

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