(読み)ふすぼる

精選版 日本国語大辞典 「燻」の意味・読み・例文・類語

ふすぼ・る【燻】

〘自ラ四〙
① 火がよく燃えないで煙ばかりが立つ。くすぶる。くすぼる。けぶる。くゆる。ふすぶる。
古来風体抄(1197)上「人のかみなにか香あるものどもをとりいれて、ふすぼらせてけぶりをたやさねば」
② 煙を激しく出しながら、炎を吹く。
曾我物語(南北朝頃)七「明王の御頂より、猛火ふすぼりいで、五体をつつめたまふ」
③ 湯気、水蒸気が立ちこめる。〔観智院本名義抄(1241)〕
④ 煙のすすで黒くなる。すすける。
※平家(13C前)三「以外(もってのほか)にふすぼたる持仏堂にたてごもり」
⑤ 顔色などがさえない色になる。生気を失ったようになる。くすむ。
日葡辞書(1603‐04)「アノヒトノ カヲ ガ fusubotta(フスボッタ)
気持がふさぐ。陰気になる。不機嫌になる。
※俳諧・江戸十歌仙(1678)「よい女夷(ゑそ)には見せし秋の空〈如流〉 ふすほる思ひ干鮭(からさけ)になす〈言水〉」

ふすぶ・る【燻】

[1] 〘自ラ五(四)〙
① 煙のすすで黒くなる。また、それに似た様子になる。すすける。くすぼる。
義経記(室町中か)六「剃らで久しき御ぐし、護摩の煙にふすふる御気色」
② 世間的に認められない地位境遇にとどまる。くすぶる。
③ 気持がふさぐ。陰気になる。
④ 家に引きこもり陰気に暮らす。くすぶる。
※落語・子別れ(1890)〈三代目春風亭柳枝〉「家に計り煤(フスブ)って居ねへで偶(たま)には子供を連れて劇場(しばゐ)一幕も見に往きねエ」
[2] 〘他ラ五(四)〙 疑いをもつ。疑わしく思う。
※応永本論語抄(1420)憲問第一四「惑志は伯寮が讒言を信仰して、子路をふすふるを云」

ふす・べる【燻】

〘他バ下一〙 ふす・ぶ 〘他バ下二〙
① 火をつけて煙を立たせる。燃えあがらせないで煙ばかり出させる。いぶす。くゆらす。けむらす。くすべる。
古今六帖(976‐987頃)五「たきもののこの下烟ふすふ共我ひとりをば死なすまじやは」
嫉妬(しっと)する。悋気(りんき)する。やきもちをやく。
※後撰(951‐953頃)恋五・九五五・詞書「こと女に物いふと聞きて、もとの女の内侍のふすべ侍りければ」
③ 革や銀器などをくすぶる煙にあてて黒くする。すすけさせる。いぶしをかける。
④ 煙にあてて責める。転じて、いじめる。苦しめる。
※東大寺諷誦文平安初期点(830頃)「至れる悲を垂れし親子も鼻を薫(フス)べ、桃の笞を以て、打ちて語らは令めずなりぬ」

いぶし【燻】

〘名〙 (動詞「いぶす(燻)」の連用形名詞化)
① いぶすこと。物を焼いて煙を出すこと。また、いぶすのに用いるもの。
経覚私要鈔‐康正三年(1457)七月一一日「古市・豊田たいまつに井ふしを用意」
② 硫黄を燃やして、金属器具に煤色(すすいろ)をつけること。
電車の窓(1910)〈森鴎外〉「翡翠の玉の附いた燻(イブ)しの釵とが目に附く」
③ (「かいぶし(蚊燻)」の略) 蚊遣火(かやりび)
※合巻・茶番狂言初子待(1815)中「『ごうせいに蚊がいるな』『それだからいぶしをもって来た』」

いぶ・す【燻】

〘他サ五(四)〙
① 物を燃やして煙を出す。煙が多く出るように燃やす。また、そのような煙にむせるようにする。けむたくさせる。
※虎寛本狂言・狐塚(室町末‐近世初)「狐はけぶりをいやがる物じゃといふに依て、両人していぶいて正体をあらはし」
② あぶって焼く。
③ 銀、銅などの金属に硫黄のすすで曇りをつける。いぶしをかける。
④ (比喩的に) いじめて困らせる。いびる。
※雑俳・柳多留‐二三(1789)「いぶすより焚き付けるのがにくいなり」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一「其間始終母にいぶされる辛らさ苦しさ」

くすべ【燻】

〘名〙
① 蚊(か)などを防ぐ煙。ふすべ。
※稲熱病(1939)〈岩倉政治〉七「蚊やりの燻(クス)べを背にして坐った」
② 「くすべがわ(燻革)」の略。
※洒落本・虚実情の夜桜(1800)宵の虚言「ほそきぱっちをはき、くすべの二枚うら付」

ふす・ぶ【燻】

[1] 〘自バ四〙 すすける。煙やすすがついて色が黒くなる。
※随筆・独寝(1724頃)下「山賤(やまがつ)の松露にふすびたる娘の子をみがきたてて」
[2] 〘他バ下二〙 ⇒ふすべる(燻)

ふすべ【燻】

〘名〙 (動詞「ふすべる(燻)」の連用形の名詞化) ふすべること。
※随筆・松屋筆記(1818‐45頃)六四「ふすべ 〈略〉もと煙気をいひてそれより煙し責るをふすべといふ也けり」

いぶ・る【燻】

〘自ラ五(四)〙 よく燃えないで煙が出る。けむる。くすぶる。
※雑俳・柳多留‐一(1765)「松原の茶屋はいぶるが景になり」

いぶ・い【燻】

〘形口〙 煙のために息苦しい。けむたい。けむい。
※雑俳・柳多留‐五二(1811)「安い茶屋いぶい火箸を付けて出し」

くん‐・ずる【燻】

〘自サ変〙 くん・ず 〘自サ変〙 完全燃焼しないで煙が出る。くすぶる。いぶる。けむる。

くす・ぶ【燻】

〘他バ下二〙 ⇒くすべる(燻)

くん‐・ず【燻】

〘自サ変〙 ⇒くんずる(燻)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「燻」の意味・読み・例文・類語

くん【燻】[漢字項目]

[音]クン(呉)(漢) [訓]いぶる いぶす くすべる ふすべる
いぶす。「燻煙燻蒸燻製
[補説]「熏」は本字。

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