日本大百科全書(ニッポニカ) 「熱帯病」の意味・わかりやすい解説
熱帯病
ねったいびょう
高温多湿で発展途上国の多い熱帯地方(東南アジア、アフリカ、南アメリカなど)に風土病として持続的に多発する疾患の総称で、多種多様のものが含まれる。日本で夏季に多発する疾患はほとんどが熱帯病と共通しているが、熱帯地方では重篤になりやすい点が異なる。また、日本では根絶されたとみられるマラリアなどの疾患でも、熱帯地方には残っているものが多く、海外旅行などの際には注意が必要である。熱帯病のなかには、輸入伝染病として日本国内で発生するものもある。
熱帯病の発生原因は、自然条件と社会条件に大別して考えられる。熱帯地方の自然条件は各種の病原微生物の生育および繁殖に適していることが多く、また病原微生物を媒介する動物の成育や繁殖にも適していることがあげられる。社会条件としては、住民の衛生状態の改善が全般的に遅れており、また生活水準の改善も遅れていて栄養障害を有する住民が多く、重篤患者発生の一因ともなっている。
熱帯病にはマラリアをはじめ、黄熱、デング熱、アメーバ赤痢、コレラ、睡眠病、カラ・アザールのほか、熱帯性潰瘍(かいよう)、熱帯フランベジア、スプルーなどが知られる。熱帯性潰瘍は熱帯性侵食潰瘍ともよばれ、ハエの媒介によってある種のスピロヘータや紡錘状桿菌(かんきん)などの雑菌の混合感染がおこり、四肢とくに下腿(かたい)下半部に悪性の潰瘍を生ずるもので、苦力(クーリー)病とか安南(アンナン)病とよばれていた疾患も同じものである。熱帯フランベジアは、ある種のスピロヘータの感染による梅毒によく似た疾患であるが、性交とは関係がない。スプルーは、脂肪性下痢をおこす慢性無熱性疾患で、吸収不良症候群の一型とみられている。
[柳下徳雄]