無間の鐘(読み)むけんのかね

精選版 日本国語大辞典 「無間の鐘」の意味・読み・例文・類語

むけん【無間】 の 鐘(かね)

[一] 静岡県掛川市東山にあった曹洞宗の寺、観音寺にあった鐘。この鐘をつくと来世では無間地獄に落ちるが、この世では富豪になるという伝説があった。
※仮名草子・東海道名所記(1659‐61頃)二「其寺に無間(ムケン)の鐘(カネ)あり。二月の初の午の日、開帳ありといふ」
[二] 近世演劇の趣向一つで、(一)になぞらえて手水鉢を打つ所作(しょさごと)。享保年間(一七一六‐三六)、初代瀬川菊之丞が手水鉢を無間の鐘に見たてる趣向を初めてとり入れ、めりやす最古の曲「傾城無間の鐘」を生み、さらに、浄瑠璃ひらがな盛衰記」の梅が枝の手水鉢の所作事として有名になった。
咄本・鹿の子餠(1772)睾丸「切くちよりながるる血にまじり、無間(ムゲン)の鐘(カネ)の手水鉢のごとく吹出す水につれ」

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デジタル大辞泉 「無間の鐘」の意味・読み・例文・類語

むけん‐の‐かね【無間の鐘】

静岡県、佐夜の中山にあった曹洞宗の観音寺の鐘。この鐘をつくと現世では金持ちになるが、来世で無間地獄に落ちるという。
歌舞伎浄瑠璃趣向の一つで、手水鉢ちょうずばち1になぞらえて打つもの。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「無間の鐘」の意味・わかりやすい解説

無間の鐘
むけんのかね

長唄(ながうた)。本名題(ほんなだい)『傾城(けいせい)無間の鐘』。1731年(享保16)2月、江戸中村座初演の『傾城福引名護屋(ふくびきなごや)』のうち、初世瀬川菊之丞(きくのじょう)扮(ふん)する傾城葛城(かつらぎ)が愛人の名古屋山三(さんざ)のための金の調達に悩み、手水鉢(ちょうずばち)を無間の鐘になぞらえて打つ所作の場面に使われた曲。村瀬源一郎作詞、杵屋(きねや)太十郎作曲と伝えられ、現存のめりやす最古の曲といわれる。静岡県掛川(かけがわ)市東山の観泉寺にあった無間の鐘の故事(この鐘をつくと来世では無間地獄に落ちるが、この世では富豪になる)は、歌舞伎(かぶき)舞踊にも数多く脚色されているが、その基準にもなった曲である。なお、浄瑠璃義太夫(じょうるりぎだゆう)節『ひらかな盛衰記(せいすいき)』の四段目「神崎揚屋(かんざきあげや)」も、ヒロイン梅ヶ枝(うめがえ)が愛人梶原(かじわら)源太のために手水鉢を無間の鐘になぞらえて打つところが眼目なので、通称を「無間の鐘」とよぶことがある。

[松井俊諭]

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「無間の鐘」の解説

無間の鐘
(通称)
むげんのかね

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
けいせい小夜中山 など
初演
元禄2(大坂・荒木与次兵衛座)

無間の鐘
(別題)
むげんのかね

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
むけんのかね
初演
宝暦3.6(江戸・市村座)

無間の鐘
メリヤス
むげんのかね

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
享保16.1(江戸・中村座)

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世界大百科事典(旧版)内の無間の鐘の言及

【瀬川菊之丞】より

…1712年(正徳2)瀬川菊之丞を名のり初舞台。28年(享保13)2月京の市山座《けいせい満蔵鑑(まくらかがみ)》の《無間(むけん)の鐘》で大当りをとり,30年初めて江戸へ下った。44年(延享1)に極上上吉に位付され三都随一の女方と立てられた。…

※「無間の鐘」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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