無月経-乳汁漏出症候群・高プロラクチン血症

内科学 第10版 の解説

無月経-乳汁漏出症候群・高プロラクチン血症(視床下部・下垂体)

定義・概念
 PRL分泌過剰の女性では無月経-乳汁漏出を伴うことが多く,無月経-乳汁漏出症候群(amenorrhea-galactorrhea syndrome)とよばれる.これらの症状が分娩後に引き続き生じた場合にはChiari-Frommel症候群,下垂体腫瘍に伴う場合はFordes-Albright症候群,いずれにも属さない特発性の場合は Argonz-del Castillo 症候群の名称でよばれてきたが,現在では高プロラクチン(PRL)血症(hyperprolactinemia)と総称される.
原因・病因
 PRLの過剰分泌は,下垂体PRL分泌細胞の異常,視床下部のPRL分泌調節機構の異常のいずれによっても生じる.
 原因として最も多いものは薬剤性高PRL血症であり,視床下部ドパミンの合成・放出や作用を抑制する薬剤(降圧薬,多くの中枢神経作動薬),制吐薬および避妊薬などがPRL分泌を促進する.ついで多いのは,PRL産生下垂体腺腫(プロラクチノーマ,prolactinoma)である.そのほかに,視床下部,下垂体茎を障害する種々の疾患,先端巨大症,原発性甲状腺機能低下症,胸部外傷腎不全などがある.PRLに対する自己抗体と結合したマクロプロラクチンが原因となる場合がある.原因が明らかでないものは特発性高PRL血症とよばれるが,画像検査で検出できないマイクロプロラクチノーマの可能性が否定できない.
疫学・統計
 わが国のPRL分泌過剰症は約13000例程度存在すると推定されている.高PRL血症は続発性無月経患者の約20%に認められ,PRL分泌過剰症の80%は女性である.20~40歳代の生殖年齢の成人女性に多い.プロラクチノーマの場合,女性の大多数は腫瘍径が10 mm以下のマイクロプロラクチノーマであるが,男性ではほとんどが腫瘍径が10 mm以上のマクロプロラクチノーマである.
病理
 プロラクチノーマはおもに嫌色素性腺腫である.長期にわたるドパミン作動薬によって腫瘍組織の血管周囲や間質の線維化を招くことがある.
病態生理
 視床下部ドパミンは下垂体PRL分泌に抑制的に作用する.そのため,ドパミン遮断作用を有する薬剤で高PRL血症をきたす.また視床下部・下垂体茎の障害がある場合,視床下部ドパミンの分泌・輸送障害によって血中PRL値は100~150 ng/mL程度の上昇がみられる.プロラクチノーマでは腫瘍の実質容積と血中PRL値がほぼ正比例する.
 高PRL血症はゴナドトロピン放出ホルモン(gona­dotropin-releasing hormone:GnRH)の脈動的分泌を障害し性腺機能低下症をきたす.また卵巣において黄体機能を障害する.
臨床症状
 女性では,月経不順あるいは無月経,乳汁分泌,不妊を呈する.男性では無症状のこともあるが,性欲低下,勃起障害,不妊を呈することがある.高PRL血症の女性では高頻度に無月経や乳汁漏出が認められるが,男性で乳汁漏出を呈することは少ない.男性ではほとんどがマクロプロラクチノーマとして発見され,腫瘍による局所圧迫症状として頭痛,視力・視野障害に加えて,下垂体機能低下症の症状を呈することがある.
検査成績
 ストレスのない条件下で血中PRL濃度を測定し,20 ng/mL(測定法により30 ng/mL)以上の高値を複数回確認する.痛み,運動,食事などによって上昇することがある.血中PRL値が200 ng/mL以上の高値を示す場合は,プロラクチノーマの存在が非常に疑わしい.
 生化学検査として肝機能,腎機能,遊離T4,TSH値や性ステロイドホルモンなどを測定する.MRIによる下垂体画像検査では,プロラクチノーマは正常下垂体前葉組織に比して造影効果が不良な低信号域として描出される(図12-2-13).
診断
 高PRL血症が疑われた場合,まず病歴で,薬剤内服の有無や妊娠・分娩との関連を明らかにする.腎機能,甲状腺機能やほかの下垂体前葉ホルモンの機能評価を行う.器質的な病変の診断には,頭部X線,CTおよびMRIなどの画像検査が重要である(表12-2-14).特に微小腺腫の診断にはガドリニウムを用いた造影MRI検査が有用である.
鑑別診断
 高PRL血症をきたす種々の病態(表12-2-15)を鑑別する.正常PRL血症性乳汁漏出症もみられることがある.
合併症
 高PRL血症により性腺機能低下症が起きる.長期に持続すると性ステロイドホルモン欠乏として,QOLの低下とともに二次性骨粗鬆症,脂質異常症などが問題となる.
経過・予後
 マイクロプロラクチノーマからマクロプロラクチノーマへと腫瘍が増大することはまれである.薬物療法により消失したり,治療後に増大しない例も経験される.妊娠時に下垂体腺腫の増大をきたすことがあり,注意が必要である.しかし,妊娠分娩を契機として血中PRL値が正常化する場合がある.プロラクチノーマは良性腫瘍であるが,ごくまれに癌化して転移を示すことがある.
治療
 薬剤による高PRL血症の場合は基本的に中止する.その他の原因では原因疾患を治療する.マクロプロラクチン血症の場合,治療を要しない.
 プロラクチノーマは薬物療法が第一選択であり,カベルゴリン,ブロモクリプチンまたはテルグリドのドパミン作動薬が用いられる.カベルゴリンは半減期が長いため週に1~2回の投与でよく,頻用されている.副作用として悪心・嘔吐,起立性低血圧,便秘などがある.PRL低下に伴い無月経や乳汁漏出は速やかに改善し,多くのプロラクチノーマは縮小し,一部消失する場合もみられる.[島津 章]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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