火車(読み)かしゃ

精選版 日本国語大辞典 「火車」の意味・読み・例文・類語

か‐しゃ クヮ‥【火車】

〘名〙
仏語。火の燃えている車。生前悪事を犯した罪人を乗せて地獄に運ぶという。また、地獄で罪人を乗せて責める火の車
※百座法談(1110)閏七月八日「地獄の火車むかへにえつれば」
※大観本謡曲・綾鼓(室町末)「身を責め骨を砕く火車の責といふとも」 〔大智度論‐一四〕
葬送の時に、にわかに風雨が起こって、棺を吹き飛ばすことがあるのを一種妖怪仕業とみていう語。
※浮世草子・本朝桜陰比事(1689)一「今にも死(しな)れたらば火車(クシャ)のつかみ物と、人の取沙汰
※重訂本草綱目啓蒙(1847)四七「葬送の時塗中にて疾風迅雷暴に至りて棺は損ぜずして中の屍を取去山中の樹枝巖石等に掛置ことありこれをくしゃと云」
※女重宝記(元祿五年)(1692)一「下ざまにては、夫には山の神といわれ、人には火車(クシャ)とよばるるたぐひををし」
④ (中国語から) 汽車
自由之理(1872)〈中村正直訳〉三「凡そ火車火船電信等、開化修養の事にて」

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デジタル大辞泉 「火車」の意味・読み・例文・類語

か‐しゃ〔クワ‐〕【火車】

仏語。生前悪事を犯した亡者を乗せて地獄に運ぶという、火の燃えている車。また獄卒呵責かしゃくに用いるという火の車。
「身を責め砕く―の責め」〈謡・綾鼓
車輪の形に燃える火。
「天よりは―降りかかり」〈謡・俊成忠度
《中国語から》汽車。
「―火船電信等…遠方人民をして、相互いに交通往来し」〈中村訳・自由之理

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改訂新版 世界大百科事典 「火車」の意味・わかりやすい解説

火車 (ひのくるま)

仏教経典が地獄に関して説く〈火車(かしや)〉の和訓で,猛火の燃えている車。罪人を地獄で責めたり,あるいは罪人を地獄に迎えるのに用いる。初期の経典には〈火車輪〉〈火車炉炭〉などと罪人の責め具として出ているが,のちには命終のとき罪人を地獄に迎える乗物として説かれている。《観仏三昧海経》第五観相品には阿鼻(あび)地獄に18種の小地獄があり,その一種に18の火車地獄があるとして,火車で罪人を迎え,火車で呵責する種々相が描写されている。《地獄草紙》(東京国立博物館所蔵彩色模本)には〈またこの地獄の罪人を猛火熾燃なる鉄車にのせて,鬼おほく前後に囲遶して,城のほかにめぐりありくことあり,罪人身分やけとほりて,死生いくかへりといふことをしらず〉の詞書とともにその絵が描かれている。また火車は,文学上は煩悩(ぼんのう)の炎や業苦にさいなまれる状態を示すたとえに用いられているが,一休の狂歌に〈貧乏な人の世界は火の車質屋米屋の鬼に責められ〉とあるように,はやくから生計がきわめて苦しいことを指すようになっている。
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デジタル大辞泉プラス 「火車」の解説

火車(かしゃ)〔妖怪〕

日本の妖怪。墓場や葬儀の場から死体を奪う。ほぼ全国に伝承があり、多くは猫が正体だとされている。「化車」とも。

火車〔小説〕

宮部みゆきの長編ミステリー。1992年刊行。第6回山本周五郎賞受賞。

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世界大百科事典(旧版)内の火車の言及

【火車】より

…仏教経典が地獄に関して説く〈火車(かしや)〉の和訓で,猛火の燃えている車。罪人を地獄で責めたり,あるいは罪人を地獄に迎えるのに用いる。…

※「火車」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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