日本大百科全書(ニッポニカ) 「火薬」の意味・わかりやすい解説
火薬
かやく
explosive powder
爆発性物質で、爆発の際に発生するエネルギーを、工業用や軍用などに有効に利用できるものを火薬類と総称する。火薬とは広義には火薬類、狭義には発射薬や推進薬をさす。
火薬類の爆発は、火薬類の急速な燃焼によっておこり、衝撃波の発生や生成ガスの膨張により、物体を破壊したり飛ばしたりする。燃焼速度が燃焼の伝える媒質中の音速より速い燃焼は、爆轟(ばくごう)(デトネーションdetonation)とよんで区別する。火薬類の音速以下の燃焼は、燃焼(コンバスチョンcombustion)または爆燃(デフラグレーションdeflagration)とよばれる。
爆轟が生ずると周囲に衝撃波が放射され、その作用によって周囲のものが破壊される。一方、爆燃では衝撃波は発生せず、主として燃焼で生成した高温ガスの膨張によって推進力が生ずる。
[吉田忠雄・伊達新吾]
歴史
紙、印刷、羅針盤とともに、中国人の四大発明の一つとされる。火薬の起源については諸説がある。火の歴史は古いが、火の利用のどの段階をもって火薬の発明というかは、議論の分かれるところである。資料による限りでは、19世紀中ごろのニトロセルロース、ニトログリセリンおよびそれらを用いたダイナマイト、無煙火薬の発明までは、主要な火薬類は黒色火薬であった。したがって、黒色火薬の登場を火薬の起源とする場合が多い。
[吉田忠雄・伊達新吾]
黒色火薬以前
黒色火薬が使われるようになる前に、焼夷剤(しょういざい)とみられる火器が使われている。紀元前1190年ごろには、トロイ人は消えない火でギリシア船隊を破ったといわれる。前500年ごろの中国の孫子の兵法には火攻(かこう)が使われている。前249年には、スパルタ人がプラテナの戦いで、木片、硫黄(いおう)、ピッチ(アスファルトのような半固体の石油成分)からなる焼夷剤を使っている。この種の焼夷剤で史上有名なのはギリシア火である。ギリシア火の主成分はナフサで、これに硫黄とピッチが加えられたものであった。673~678年、イスラムが東ローマ帝国のコンスタンティノープルを攻撃した際に、シリアのヘリオポリスからきた建築家カリニコスKallinikos(7世紀ころの人物)が、678年にギリシア火の秘密を東ローマ帝国に教え、これによりイスラムの艦隊は大打撃を受けた。718年にもイスラムがコンスタンティノープルをふたたび攻撃したが、同じくギリシア火により大打撃を被った。
火薬の基礎となる硝石が、焚火(たきび)の中に入ると奇妙な燃え方をすることは古くから知られていた。硝石、硫黄および木炭の混合物は、中国では最初、黒火薬(発火性医薬品)とよばれ、煉丹(れんたん)術師(不老長寿の薬をつくる)の孫思邈(そんしばく)によって7世紀前半に発明されたといわれている。軍用としての黒色火薬類似の配合組成の記述は、中国の北宋(ほくそう)政府編集の『武経総要』(1045)に現れている。この書には、火毬(かきゅう)用火薬、蒺藜(しつれい)火毬用火薬および毒薬煙毬用火薬などの配合組成が記されている。これらは発射薬としてではなくて炸薬(さくやく)として用いられた。
[吉田忠雄・伊達新吾]
黒色火薬の発明
現在まで続いた黒色火薬の組成は「驚異博士」とよばれたイギリスの僧侶(そうりょ)であり哲学者、科学者のロジャー・ベーコンによって記録されている。彼はその著書のなかで、黒色火薬と硝石のことを詳しく述べている。当時、社会に不安を与える説をなす者は宗教裁判にかけられることがあり、彼は「字なぞ」(アナグラム)で記した。これらの著作はハイムHenry William Lovett Hime(1840ころ―?)中佐によって解読された。また「火薬修道士」とよばれたドイツのベルトルド・シュバルツBerthold Schwarz(14世紀の人物)もこの書を基にして黒色火薬をつくり(1313)、火砲に用いている。
[吉田忠雄・伊達新吾]
火器としての火薬
硝石が火薬兵器の成分として使われるようになり、中国、アラブ、ヨーロッパで戦争に用いられるようになった。中国で使われた火薬兵器としては、火箭(かせん)(いまでいうロケットの一種)、投射火器、爆裂(ばくれつ)火器、火缶(かかん)などがあった。爆裂火器のなかの震天雷(しんてんらい)は、1231年に金(きん)の軍隊によって用いられた。鉄缶に火薬を詰め、これに点火して爆裂させたものである。震天雷は鉄包ともよばれ、1274年(文永11)元(げん)軍が博多(はかた)湾に上陸した際にも用いられた。これは、焼打ち以外に火を戦争手段として用いなかった日本人にとって、火器に出会った初めての経験であった。しかし、その後も日本では火薬を火器として使ったという記録はない。
[吉田忠雄・伊達新吾]
日本
1543年(天文12)種子島(たねがしま)に1隻の中国船が漂着し、乗り合わせていたポルトガル人が鉄砲をもっていた。島主の種子島時堯(ときたか)は大金を積んで2挺(ちょう)の鉄砲を譲り受けた。時堯自身その使用法を学び、さらに小姓篠川小四郎(ささがわこじろう)に命じて火薬の製法を学ばせ、八板金兵衛清定(清貞とも)に鉄砲を研究させた。篠川小四郎は、ポルトガル人より「搗篩(つきふるい)・和合の法」とよばれる黒色火薬の製造法と、その原料が硝石、硫黄および木炭であることを習った。彼はその努力によって、ポルトガル人がもたらした火薬よりさらに強力な発射薬としての黒色火薬をつくることに成功した。
黒色火薬のその後の進歩は、大型火砲に使えるような粒状火薬の発明や、黒色火薬の鉱山での使用(1627)であった。
[吉田忠雄・伊達新吾]
近代
19世紀に入ると、ヨーロッパにおいては新しい火薬類の発明、発見が相次いだ。起爆薬の雷汞(らいこう)(雷酸水銀)は、1800年イギリスのハワードEdward Charles Howard(1774―1816)によって合成された。黒色火薬にかわる発射薬である無煙火薬の原料となるニトロセルロースは、1845年ドイツのシェーンバインによって発見された。さらにダイナマイトの原料となるニトログリセリンは、1846年イタリアのソブレロによって発見されている。
近代的な火薬類の発明第一人者はスウェーデンのノーベルである。彼はニトログリセリンと珪藻土(けいそうど)から、珪藻土ダイナマイトを発明(1866)し、黒色火薬よりはるかに威力のある実用的工業爆薬を世に出した。なお、それに先駆けて、ニトログリセリンやダイナマイトを確実に爆発させられる工業雷管を発明している(1864)。彼はさらに、現在のダイナマイトの原型であるブラスチングゼラチンを1875年に、また1887年には、ダブルベース無煙火薬バリスタイトを発明している。
黒色火薬にかわる高性能の発射薬である無煙火薬は、同じころフランスのビエイユPaul Vieille(1854―1934)によって、当時の陸軍大臣ブーランジェGeorges Ernest Jean Marie Boulanger(1837―1891)の名をとったB火薬として1884年に発明され、1888年にはイギリスのアーベルFrederick Augustus Abel(1827―1902)とJ・デュワーによってダブルベース無煙火薬コルダイトが発明された。主として軍用爆薬として使われるようになったが、多くの化合火薬類が19世紀から20世紀にかけて発明された。そのなかで炸薬としては、ピクリン酸(下瀬(しもせ)火薬)、TNT(トリニトロトルエン)、RDX(ヘキソーゲン)、PETN(ペンスリット)、HMX(オクトーゲン)などが大量に使われてきた。
ノーベルの膠質(こうしつ)ダイナマイトはその後、硝酸アンモニウム(硝安)や可燃物を加えて、より安く、性能を低下させないものがつくられるようになった。また、ニトログリセリンを含まない硝安爆薬やカーリットもつくられた。1960年代以降、硝安と軽油だけからつくられる安価な硝安油剤爆薬が登場し、また安全性の高い含水爆薬(スラリー爆薬およびエマルション爆薬)も開発され、主要な工業爆薬としての立場を築いている。
爆薬を起爆するための雷管は、導火線で点火する工業雷管に始まったが、日本国内では現在、電気雷管にほぼ移行している。しかし硝安油剤爆薬の登場により電気雷管の暴発事故が増したために、耐静電気雷管が普及しつつある。さらに、導火管を用いた、電気を使わない起爆方法も運用が始まっている。
[吉田忠雄・伊達新吾]
定義と分類
火薬類は日本では、火薬類取締法令によって火薬、爆薬、火工品の3種に分類され、次のように定義される。火薬とは、推進的爆発の用途に供せられるものであって、火薬類取締法および同法施行規則(以下法令という)で定めるもの。爆薬とは、破壊的爆発の用途に供せられるものであって、法令で定めるもの。火工品とは、火薬、爆薬を使用して、ある目的に適するように加工したものであって、法令で定めるものをいう。
[吉田忠雄・伊達新吾]
代表的火薬類
火薬類は、組成によって化合火薬類と混合火薬類に分けることができる。前者は単一の化合物で火薬類としての用途をもつものであり、後者は2種以上の成分を混合した火薬類である。
化合火薬としてはニトロセルロースがある。火薬の方面では綿薬、硝化綿、硝酸繊維素などとよばれ、単独で使われることは少なく、ダイナマイト、発射薬、ロケット推進薬などの成分として使われる。 に化合火薬の代表例を示した。
混合火薬の代表的なものには黒色火薬、無煙火薬があり、おもに発射薬として使われている。ロケット推進薬としては、黒色火薬や無煙火薬のほかにコンポジット推進薬(酸化剤と燃料兼バインダー=粘結剤を混合・硬化させた推進薬)が使われている。
[吉田忠雄・伊達新吾]
爆薬
化合爆薬としてはニトログリセリン、ニトログリコール、ペンスリット、ピクリン酸、TNT、RDX、HMX、TATB(トリアミノトリニトロベンゼン)などがある。
爆薬のなかでとくに容易に爆発しやすいものは起爆薬とよばれている。化合起爆薬としては雷汞、アジ化鉛、DDNP(ジアゾジニトロフェノール)、トリニトロレゾルシン鉛、テトラセンなどがある。
工業化されている爆薬の多くは混合爆薬である。硝安油剤爆薬、ダイナマイトおよび含水爆薬が、岩石の爆破(発破(はっぱ)という)に現在用いられている主要混合爆薬である。
TNT、PETN、RDX、CE(テトリル)は代表的な軍用爆薬でもあるが、これらの化合爆薬の欠点を補うために、
のような混合爆薬が軍用に使われている。[吉田忠雄・伊達新吾]
火工品
火薬、爆薬を使用して、ある目的に適するように加工、成形したものの総称。その目的は多様で種類も多いが、花火はその代表的なものである。
[吉田忠雄・伊達新吾]
火薬類の関係法規
火薬類は危険物であり、いくつかの法律によって種々の制限が設けられている。その中心法規は火薬類取締法(昭和25年法律第149号)で、火薬類の製造、販売、貯蔵、運搬、消費その他の取扱いを規制することにより、火薬類による災害を防止し、公共の安全を確保することを目的としている。
火薬類取締法によって、火薬類の製造、販売、貯蔵は、経済産業大臣または都道府県知事の許可と、火薬庫所有が義務づけられており、製造方法、製造施設の変更も許可を得なければならない。また、製造、貯蔵には一定の資格をもった保安責任者を設置しなければならない。火薬類の譲渡、消費、廃棄、輸入は都道府県知事の許可が必要であるし、運搬も公安委員会に届け出て運搬証明の交付を受ける。このほか、火薬庫の構造、火薬類の点火、点爆の方法など、多くの細かい保安上の規則が定められ、たとえ事故が起こらなくても、これらのうちどれかに違反することがあれば厳しく罰せられる。
ほかに製造に関しては火薬類取締法施行令、同法施行規則、運搬には火薬類運送規則、火薬類の運搬に関する内閣府令など、使用には鉱山保安法などの関係法規がある。
[吉田忠雄・伊達新吾]
火薬類の性能と試験法
爆薬の性能としては次に述べるようなものがあり、使用目的に応じてこれらの性能が満足されなければならない。ここで、感度とは、外から熱や衝撃などの刺激が加わったときに、どのくらい容易に爆発、発火しやすいかを示す尺度である。
に各種火薬類の性能を示す。(1)爆発威力 動的威力と静的威力とがある。前者は、破壊的作用と関係の深い爆轟速度で表され、後者は、破壊的作用で壊れた岩石などを押し出す爆発ガスの膨張力で表される。
爆発威力の試験法としては、動的威力を測定する爆速測定、猛度試験、静的威力を測定するトラウズル鉛壔(えんとう)試験、弾動臼砲(きゅうほう)試験、弾動振子試験などがある。
(2)衝撃起爆感度 爆薬は雷管や伝爆薬(ブースター)によって起爆される。この起爆されやすさを表すのが衝撃起爆感度である。爆薬は確実に起爆されることが必要であるが、起爆感度が高すぎると、平常の取扱い中に爆発する危険が生じる。硝安油剤爆薬は比較的安全な爆薬として扱われているが、その条件の一つとして6号雷管1本では起爆できないことが法令で定められている。
衝撃起爆感度を科学的に測定する方法として、カードギャップ試験が使われている。励爆薬という標準爆薬を爆発させ、発生した衝撃波をアクリル樹脂製カードを通過させて弱めて、試験しようとする爆薬(受爆薬)に投射し、どの強さの衝撃波で受爆薬が爆発するかを調べる。実用的な試験法としては、砂上殉爆試験がある。2本の薬包を砂の上に並べて、一方を爆発させ、最大でどのくらい離れても爆発が伝わる(殉爆する)かを調べる方法である。普通、岩石に孔(あな)(発破孔)をあけ、その中に爆薬包を何本か装薬して、一端から起爆して発破が行われる。ときには薬包の間に岩石粉などが入り込んで、すきまができることがあるが、このような場合でも殉爆することが必要である。
工業爆薬の衝撃起爆感度を向上させるために鋭感剤が用いられることもある。また、起爆性能を向上させるために気泡を封入する方法も含水爆薬で用いられている。
(3)あとガス(後ガス) 爆薬はトンネル(坑)内で使用されることがある。この場合には、発破の結果生じたガス(後ガス)の毒性が強いと、発破後の現場に長時間入れなくなる。このために、後ガスの毒性の少ないことが望まれる。後ガスの毒性成分としては、塩化水素、亜硫酸ガス(二酸化硫黄)、一酸化炭素、二酸化窒素などが知られている。前二者は、塩素や硫黄を含む爆薬を使用しないことで出さなくすることができ、後二者は、爆薬の組成を、酸素バランスが0(ゼロ)となるように選ぶことによって、生成を少なくすることができる。
炭素、水素、酸素および窒素からなる爆薬については、酸素平衡0とは、爆薬が爆発したときの計算上の生成物が、窒素、水、炭酸ガスだけであるような場合である。酸素平衡0の化合爆薬には、ニトログリコール、混合爆薬には硝安油剤爆薬がある。爆発威力も酸素平衡0の場合がもっとも大きい。
(4)メタンガスや炭塵(たんじん)への非着火性 石炭鉱山の坑内で発破を行うと、メタンガスや炭塵に着火して坑内爆発をおこすことがある。そのために、炭鉱内の発破では、それらのおそれのない検定爆薬が使用される。検定爆薬には、爆発ガスの温度を下げたり、ガスへ着火しにくくしたりする減熱消炎剤が入っているものが多い。
着火の容易さや燃焼の速さを調べる試験が行われる。現在使われているダイナマイト、硝安油剤爆薬、含水爆薬は常温では非着火性である。RDX、HMXおよびテトリルは1グラムの着火剤で着火して燃焼する。
(5)安定性 爆薬の熱安定性も保安上重要な性質である。ニトロセルロースやニトログリセリンを含む爆薬は、比較的に熱安定性が低いので、火薬類取締法ではとくに検査を厳重に行うように指示している。これはニトロセルロースやニトログリセリンのような硝酸エステル類は、長時間貯蔵すると自然発火や自然爆発をおこすからである。
(6)感度試験 爆薬はたたいたり衝突したりこすったりすると発火、爆発することがある。普通の爆薬はそのような機械的刺激によって発火しないことが保安上望ましい。このような性質を調べるために落槌(らくつい)感度試験、摩擦感度試験が行われる。前者は、鉄のおもりを円柱の間に挟んだ爆薬の上に落として、何センチメートルの高さから落としたら発火、爆発するかを調べるものである。後者の場合、現在世界的に広く使われているのはBAM摩擦感度試験で、表面のざらざらした磁性板の上に爆薬を置き、同じ材料でできた杵(きね)を押し付け、下の磁性板を一定速度で動かす。発火、爆発のおこる押し付け力で摩擦感度を表す。
[吉田忠雄・伊達新吾]
発射薬・ロケット推進薬の性能
もっとも重要な性能は比推力、燃焼速度、燃焼速度と圧力の関係などであり、このほかに安全性能が加わる。比推力はロケット推進薬の単位重量当りの推力で、Isp(単位秒)の記号で表される。黒色火薬、無煙火薬、コンポジット推進薬のIspは、それぞれ約60~150秒(打上げ花火用黒色火薬の場合)、約210~240秒、約240~265秒が知られている。
発射薬や推進薬の燃焼速度は、一般に圧力が高いほど速くなる。また、表面積が大きいほど燃焼速度も大きい。これらの形状を選ぶことによって希望の燃焼速度や圧力が得られる。
[吉田忠雄・伊達新吾]
火薬類の用途
産業爆薬の最大の用途は発破用である。トンネルを掘ったり、鉱物資源を坑内で採掘したり、地下発電所の建設などは坑道掘推発破により行われる。このような坑内では後ガスのよい爆薬が使用される。石灰石や石材の採掘は通常露出した地表で行われるが、ここではベンチカット法という発破法が実施される。坑内と異なり、発生した後ガスもすぐに拡散し心配がないので、安価な硝安油剤爆薬が多く用いられる。
発破や崖(がけ)崩れで生じた大きな石は小割(こわり)発破で小さくすることができる。土地造成、道路整備、開墾などのために火薬類を用いて土の部分を発破する方法は土(つち)発破とよばれている。積雪地帯においては春先に雪崩(なだれ)がおこる前に人工的に雪崩をおこさせる雪崩発破も行われることがある。
大型船の航行を容易にするために、港湾、海峡、河川、湖沼中の岩礁などの障害物を取り除いたり、沈没船を爆破切断したり、魚礁をつくったり、洋上の氷を爆破したり、地震探査を試みたり、金属板の爆発成形をしたりするために、水中で爆発を行わせることを水中発破という。また、建物や橋の解体など都市内で行う発破の場合には、飛散物が少なく爆発騒音も小さいことが望まれるため、これに適したコンクリート破砕器が開発され販売されている。日本初の爆発解体は1986年(昭和61)に国際科学技術博覧会の国際連合平和館で試みられたが、国内での事例は少ない。
爆薬を用いて物を切断したり、孔をあけたり、圧接したり、成型したりする仕事も増えてきた。宇宙ロケットにはいろいろな機能をもった火工品が多数使われている。
火薬の推進力は、弾丸や砲弾を高速で発射する発射薬や、ロケットを飛ばす推進薬として使われている。発射薬を銃砲の薬室内に装填(そうてん)したときは装薬とよばれる。装薬の燃焼、圧力変化および弾丸の速度などは内部弾道学で扱われ、弾丸が砲口を出てからのようすは外部弾道学で扱われる。
弾丸が目的物に命中してからのふるまいは侵徹弾道学で扱われる。発射薬は主として軍用に使われるが、次のような平和利用もある。建設用鋲打(びょううち)銃は銃から鋲を打ち出して、コンクリートに打ち込む装置である。救命索投射銃は船舶の救難に使われる。
推進薬は軍用ロケット、宇宙ロケットなどのほかに、電力会社が山岳地帯での架線に利用する架線用放射ロケット、海難救助用の救命索ロケット、海難救助用信号ロケット、気象観測ロケット、降雨ロケットなど、実用化されているものも多い。
[吉田忠雄・伊達新吾]
火薬工業
火薬類を製造する工業を火薬工業とよぶ。最初の火薬工業は、黒色火薬製造業であったが、ノーベルのダイナマイトの発明を経て、ダイナマイト製造が火薬工業の中心となった。その後、カーリットや硝安爆薬も加わったが、1960年代以降は硝安油剤爆薬が量的には産業爆薬の過半量を占めるようになっている。さらに、安全性の面から含水爆薬がダイナマイトにかわりうる爆薬として登場し、その生産量を増している。
ダイナマイトの登場により、火薬工業は高収益の業種となった。そして世界では火薬工業から出発して、総合化学会社に発展したものが多い。アメリカのデュポン社、イギリスのICI社(現、アクゾノーベル)などはその典型的な例である。しかしながら現代では、硝安油剤爆薬などの出現によって高収益性が失われ、それらの会社のなかで火薬類の売上比率は非常に少なくなっている。
日本で火薬工業が始まったのは明治以降である。明治から大正にかけては、産業用火薬類の製造は、軍の工廠(こうしょう)で行われ、一方では大量の輸入が行われていた。第一次世界大戦で火薬類の輸入が止まったことを契機として、産業爆薬国産の機運が高まり、1917年(大正6)に日本化薬・厚狭(あさ)工場、1919年に日本カーリット・保土ケ谷工場および日本油脂・武豊(たけとよ)工場、1930年(昭和5)に旭化成・延岡工場ができた。そのほか、日本工機、中国化薬、カヤク・ジャパン、ラジエ工業、日油、ダイセル、日本アンホ火薬製造、日本カーリット、四国アンホなどが火薬類を製造している。
[吉田忠雄・伊達新吾]
『中原正二著『火薬学概論』(1983・産業図書)』▽『火薬学会編・刊『火薬学会規格Ⅵ 火薬用語集』(1999)』▽『中原正二著『火薬七つの謎――火薬史漫歩』(2000・自費出版)』▽『佐々宏一著『火薬工学』(2001・森北出版)』▽『火薬学会編『火薬分析ハンドブック』(2002・丸善)』▽『弾道学研究会編『火器弾薬技術ハンドブック』改訂版(2003・防衛技術協会)』▽『経済産業省資源エネルギー庁原子力安全・保安院保安課監修、日本火薬工業会資料編集部編『火薬類取締法令の解説』平成15年改訂版(2004・日本火薬工業会)』▽『火薬学会編、田村昌三監修『エネルギー物質ハンドブック』第2版(2010・共立出版)』