火入れ(読み)ヒイレ

デジタル大辞泉 「火入れ」の意味・読み・例文・類語

ひ‐いれ【火入れ】

火力発電所溶鉱炉などが完成し、初めて点火して操業を開始すること。
清酒醤油の醸造過程で、加熱殺菌すること。清酒では腐敗を防ぐため、醤油では風味色合いをよくするために行う。
土地を肥やすため、山野枯れ草雑木などを焼くこと。野焼き
煙草タバコ盆の中に組み込み、タバコにつける火種を入れておく器。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「火入れ」の意味・わかりやすい解説

火入れ
ひいれ

清酒やビールなどを60℃くらいに加熱して、殺菌する方法。酒の保存法の一つである。清酒ではもろみ濾過(ろか)してから、1、2か月たって酒質が落ち着いてきたころ、60~63℃に加熱してタンクに貯蔵する。火入れによって新酒中の微生物を殺菌するとともに、残存している酵素の活性を失わせ、酒質の変化を止め、安定を図る。瓶詰出荷の際にも火入れが行われる。酒類では60℃の加熱で、中にいる微生物は完全殺菌される。密栓が可能になった現在では、半永久的に微生物による変質は防げるようになった。もちろん保存料も不要である。牛乳などで行われる100℃以上の高温瞬間殺菌に対し、この火入れを低温殺菌とよぶ。

 フランスでは、1865年にパスツールがこの低温殺菌法(パスツーリゼーション)を発明して一世を驚かせたが、日本では、それより300年も前から行われていることが、『多聞院(たもんいん)日記』に記された「酒煑(に)させ、樽(たる)に入れ了(おわ)る」(永禄(えいろく)3年5月20日=1560年)という記事からもわかる。1881年(明治14)お雇いイギリス人教師アトキンソンはその著作『日本醸酒編』(『理科会粋』第5帙(ちつ))のなかに、当時日本酒では一般に行われていた火入れについて、驚きをもって書いている。

[秋山裕一]

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飲み物がわかる辞典 「火入れ」の解説

ひいれ【火入れ】


日本酒の製造工程の一つで、60~65度くらいの低温で殺菌を行うこと。酵素の働きを止め、微生物を殺菌して、酒質を安定させ保存性を高める。普通、もろみをしぼった後と、貯蔵・熟成後びん詰めの前に2度行う。◇火入れを全くしないで出荷するものを「生酒」、びん詰めの前に1度だけ行うものを「生貯蔵酒」という。

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栄養・生化学辞典 「火入れ」の解説

火入れ

 →低温殺菌(火入れ)

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の火入れの言及

【清酒】より

…このもろみを袋に入れ圧搾すると白濁した新酒が得られ,袋のなかには酒かすが残る。新酒はなるべく早く滓(おり)を引き,活性炭素を加えてろ過し,火入れといって60~65℃まで加熱し,熱酒を貯蔵タンクに入れ,冷却し熟成させる。これが基本的な3段仕込みによる製造法であるが,酒の甘みを調節するため,もろみの発酵末期に蒸米をこうじや酵素で糖化したいわゆる甘酒を加える方法も開発され,4回目の仕込みに相当するという意味で,四段法といわれている。…

【低温殺菌】より

…L.パスツールがブドウ酒の変敗防止のため工夫したもので,パスツーリゼーションpasteurizationとも呼ばれる。日本の伝統的な清酒の火入れもこれに属する。1880年ころから牛乳の殺菌に応用された。…

※「火入れ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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