灌頂巻(読み)かんぢょうのまき

改訂新版 世界大百科事典 「灌頂巻」の意味・わかりやすい解説

灌頂巻 (かんぢょうのまき)

平曲の演目の分類名。建礼門院晩年を描いた5曲をさす。平曲の主要な伝授物に,読物(よみもの)13曲,五句物5曲,灌頂巻5曲がある。灌頂巻はその最高位に位置し,約200曲ある平曲の中の平物(ひらもの)すべてを習得した段階で伝授するたてまえだった。つまり皆伝に相当する伝授なので,密教系諸宗の法脈伝授である灌頂になぞらえ,あらかじめ前行(ぜんぎよう)としての精進を行い,当日は香をたいた席で厳かに伝授したという。灌頂巻諸曲は,最初に灌頂ノ撥(ばち)と称する琵琶の曲節が静かに奏され,曲中にもシオリクドキなどの特殊な曲節が配され,美しくもの静かに語られる。灌頂巻の上に,小秘事2曲,大秘事3曲があるが,これは別扱いの秘曲とされる。灌頂巻の曲目は,《女院御出家》,《大(小)原入御》(《大原入》とも),《大(小)原御幸おはらごこう)》,《六道》(《六道之沙汰》とも),《御往生》(《女院御往生》とも)である。
平曲
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世界大百科事典(旧版)内の灌頂巻の言及

【一方流】より

…13世紀半ば過ぎ,平曲の伝承が筑紫出身の如一の率いる一方流と,城玄率いる八坂流の2流にわかれるが,如一の系統は名前に〈一〉をつけるところから〈一方流〉とよばれた。如一とその弟子明石覚一(?‐1371)は,建礼門院関係の章段5曲を集めて〈灌頂巻〉と名づけ,それを神聖視することによって平曲を権威づけるほか,詞章にも聞かせどころを多くするための改変・増補を加え,長く後世に伝えるための決定本の編纂を目ざした。その結果完成されたのが《覚一本》で,今日語り継がれている平曲の大もとがここで作られた。…

【平曲】より


[構成と音楽的性格]
 《平家物語》は〈小督〉〈宇治川〉など200余の章段からなるが,平曲ではその章段を〈句〉とよぶ。前田流の分類によると,句は〈平物(ひらもの)〉〈伝授物〉〈灌頂巻(かんぢようのまき)〉〈大秘事〉〈小秘事〉に分けられる。〈平物〉は普通に教授される曲であり,〈伝授物〉は平物を50句ないし100句おさめたあとに伝授され,《腰越》などの〈読物(よみもの)〉,《都遷》などの〈五句物〉,《清水炎上》などの〈炎上物〉,《源氏揃》などの〈揃物(そろいもの)〉の曲がある。…

【六道】より

…伝授物。《灌頂巻(かんぢようのまき)》5曲の中。平家滅亡後大原の庵室にこもった建礼門院を,後白河法皇が訪れた。…

※「灌頂巻」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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