漢音(読み)かんおん

精選版 日本国語大辞典 「漢音」の意味・読み・例文・類語

かん‐おん【漢音】

〘名〙
① 中国音の一種。隋・唐代以後、宋代以前、長安(今の西安地方で用いられた音。〔字彙
日本漢字音の一種。上代から中古にかけて遣唐使、留学生、音博士などによって伝えられた長安地方の音。官府学者などで多く用いた。和音呉音唐音などに対していう。
日本紀略‐延暦一一年(792)一一月二〇日「発声誦読、既致訛謬。宜習漢音
史記抄(1477)一〇「家(け)は呉音なり漢音は家(か)と読むそ唐音には家(きゃ)と呼ぞ」

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デジタル大辞泉 「漢音」の意味・読み・例文・類語

かん‐おん【漢音】

日本における漢字音の一。平安時代の初めごろまでに、遣唐使・留学僧などにより伝えられた、の首都長安の北方標準音に基づくもの。呉音唐音などに対していう。

から‐ごえ〔‐ごゑ〕【音】

漢音かんおんのこと。呉音ごおん倭音やまとごえというのに対していう。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「漢音」の意味・わかりやすい解説

漢音
かんおん

日本の漢字音の一つ。呉音に次いで,隋唐時代に遣唐使や留学僧などにより日本に伝えられたもの。平安時代には学習・教授すべき正規の音と定められたため,「正音」ともいう。おもに洛陽や長安 (現西安) などの西北方言に基づいている。呉音とのおもな相違は,(1) 呉音では漢語の清濁の対立をとどめている (糟〈ザウ〉,曹〈サウ〉) のに対し,漢音ではすべて清音 (ともに〈サウ〉) である。 (2) 呉音では漢語の/m/,/n/ をマ行,ナ行で取入れている (萬〈マン〉,奴〈ヌ〉) が,漢音ではバ行,ダ行 (〈バン〉,〈ド〉) である。 (3) 漢語の/-t/ が呉音ではチとなることがある (質〈シチ〉) のに対し,漢音ではすべてツ (〈シツ〉) となっていることなどである。

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改訂新版 世界大百科事典 「漢音」の意味・わかりやすい解説

漢音 (かんおん)

日本における漢字音の一種。奈良朝後期から平安朝にかけて,遣唐使や留学僧たちによって伝えられた唐の首都長安,副都洛陽の音にもとづく。これらの音は奈良朝以来,正音として大学で音博土が明経道の学生に教授し,延暦年間(782-806)には僧侶も漢音を学習しない者は得度させないとの詔勅を出すほど奨励はしたが,すでに日本語に同化した呉音をしのぐまでには勢力は及ばなかったようである。
字音
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百科事典マイペディア 「漢音」の意味・わかりやすい解説

漢音【かんおん】

日本の字音の一つ。唐の首都長安,副都洛陽の音に基づくもの。8―9世紀にかけて遣唐使や留学僧らによって日本に伝わり,朝廷では正音として普及に努めたが,世間一般には,すでに日本語に同化していた呉音をしのいで急速に広まることはなかった。しかし漢籍の読習や一部の天台・真言の経典の読誦(どくじゅ)に用いられ,漢学でながく漢音の行われる素地をつくった。現在では,漢音の勢力は大きい。
→関連項目唐音

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「漢音」の意味・わかりやすい解説

漢音
かんおん

字音

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世界大百科事典(旧版)内の漢音の言及

【漢字】より

…その後,隋・唐の時代になって都が長安に移され,北方音が標準とされるようになったとき,唐制の模倣に力を注いでいた日本では,宮廷で率先して新しい北方音を取り入れ,音博士は北方音を教授し北方音を正音と呼び,僧尼の得度(とくど)にも正音を修得しなければ許可しないと幾度か布告している。したがって《日本書紀》の歌謡訓注には,漢音が多く取り入れられている。しかし,《続日本紀》宣命の万葉仮名などは依然として呉音によるところが多いのを見ても,一般の日本人は,漢音の学習がかなり困難であったと見える。…

【字音】より

…もちろん,訓は中国語の字音の借用ではない(〈馬(うま)〉〈梅(うめ)〉等微妙なケースもないではないが)ので,漢字音ではない。 一方,〈音〉には大別して〈呉音(ゴオン)〉(対馬音(ツシマオン)),〈漢音(カンオン)〉〈唐音(トウイン∥トウオン)〉(宋音)の三つがあり,それぞれ別の字音体系を成している。例えば,〈明〉は呉音ミヤウ,漢音メイ,唐音ミン,〈公〉はそれぞれク,コウ,クンである。…

※「漢音」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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