漢宮秋(読み)かんきゅうしゅう

精選版 日本国語大辞典 「漢宮秋」の意味・読み・例文・類語

かんきゅうしゅう ‥シウ【漢宮秋】

中国、元代の戯曲馬致遠作。政略犠牲となり匈奴に降嫁した前漢の王昭君故事題材としたもの。白樸(はくぼく)の「梧桐雨(ごとうう)」などと共に元曲傑作一つ

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「漢宮秋」の意味・わかりやすい解説

漢宮秋
かんきゅうしゅう

元代の戯曲。4折(せつ)(幕)。馬致遠(ばちえん)作。漢の王昭君が匈奴(きょうど)に嫁ぐ故事をもとに創作した悲劇元帝を主役にして皇帝の悲恋を描いたところに特色がある。画工毛延寿(もうえんじゅ)が賄賂(わいろ)を贈らない昭君の画像を醜く描いたため、昭君は匈奴に嫁ぐこととなる。昭君は帝の寵愛(ちょうあい)を受けるが、匈奴の単于(ぜんう)が大軍を率いて昭君を求め、昭君は自ら国のために匈奴に旅だつ途中、国境で入水(じゅすい)して果てる。この構成は史実とは異なるが、モンゴルに支配されていた当時の漢民族の情感をよく反映している。3幕の帝と昭君の別れの場、帝が僻地(へきち)の昭君をしのび、別離後のうつろな心を唱(うた)う場面は心を打つ。4幕で夢に昭君をみ、雁(かり)の声に目覚めれば、昭君入水の報が届き、劇は最高潮に達して終わる。

[平松圭子]

『塩谷温訳『国訳元曲選 漢宮秋・殺狗勧夫』(1940・目黒書店)』

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改訂新版 世界大百科事典 「漢宮秋」の意味・わかりやすい解説

漢宮秋 (かんきゅうしゅう)
Hàn gōng qiū

中国,元代の戯曲。馬致遠作。和親策の犠牲となって異民族に嫁した悲運の美姫,漢の王昭君の伝説を劇化したもの。雅俗語がみごとに調和した絶妙の歌詞を綴り,帝王の悲恋を描いた傑作として,《元曲選》の巻頭を飾る。とくに,ある秋の夜,つかの間のまどろみに王昭君を夢みた元帝が,おりから空を鳴きわたる雁の声に思慕の情をつのらせる終幕は,余情に富む名シーンとされている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「漢宮秋」の意味・わかりやすい解説

漢宮秋
かんきゅうしゅう
Han-gong-qiu

中国,元代の戯曲。馬致遠の作。漢の元帝の後宮にいる王昭君は,絵師毛延寿の要求する金を与えなかったため,肖像画を醜く描かれ,不遇の身でいたが,偶然その美しさを見出されて元帝の寵愛を受ける。ところが匈奴の強要によって,王昭君は匈奴の天子に降嫁しなければならなくなり,塞外の地に旅立ち,途上黒竜江に身を投じる。漢宮で王昭君を偲ぶ元帝は上空を飛ぶ雁の声にひとり啼泣する。『漢書』匈奴伝の記録に基づく王昭君説話に題材をとり,哀感のあふれる典雅な名文で書かれた,元の戯曲中屈指の名作。 J.デービスによる英訳 (1829) がある。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「漢宮秋」の解説

『漢宮秋』(かんきゅうしゅう)

元代の戯曲。馬致遠(ばちえん)の代表作で,王昭君の故事を劇化したもの。漢の元帝は匈奴(きょうど)との和親政策のため,また絵師毛延寿(もうえんじゅ)の姦計により後宮にあった王昭君を匈奴の単于(ぜんう)に差し出すこととなる。王昭君はその途上黒竜江に身を投じて自殺する。秋の夜半,元帝は仮寝に王昭君を夢み,空行く雁(かり)の音に思慕の情をかきたてられる。社会史の史料としても有用。

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旺文社世界史事典 三訂版 「漢宮秋」の解説

漢宮秋
かんきゅうしゅう

元初の劇作家馬致遠 (ばちえん) の代表的な元曲
漢の元帝の後宮 (こうきゆう) にあった王昭君 (おうしようくん) が匈奴 (きようど) に降嫁される悲劇を描く。

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世界大百科事典(旧版)内の漢宮秋の言及

【王昭君】より

…《漢書》匈奴伝によると,前33年匈奴との親和政策のために呼韓邪単于(こかんやぜんう)に嫁がされ,寧胡閼氏(ねいこえんし)と呼ばれて1男を生んだが,呼韓邪が死ぬと正妻の長子復株累(ふくしゆるい)単于と再婚して2女を生み,その地で死んだとある。彼女の話は後世多分に潤色されてさまざまな哀話を生み,ことに元の馬致遠が戯曲《漢宮秋》を書いて以後,彼女は悲劇のヒロインとして定着したきらいがあるが,《漢書》の記録が史実のようである。【永田 英正】。…

※「漢宮秋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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